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変化の兆し side
変化の兆し side:ブラッド
しおりを挟む今日の仕事は猫探しだ。
猫の名前はアイリス。性別は雌で、猫種はラグドール。大きな身体と白く長い毛、青い瞳、紫の首輪が特徴である。
送って貰った写真からは、毛並みの艶が飼い主に愛されている様子が窺えて、放浪癖がある猫には見えなかった。
猫は分かれて捜す事になって、姐さんはあのガキとペアになっていた。
組み合わせが腹立たしいが、決まったものは仕方ないため、猫捜しに専念した。
「ブラッドくん、私こっちの方捜しますね」
「わかりました。俺はあっち捜すんで、何かあったら連絡ください」
途中でマリアさんと分かれて例の猫を捜した。
通行人に適当に声をかけて目撃情報を辿っていると、不意にスマホからメッセージの通知を知らせる音がした。
見てみるとあのガキからのヘルプ要請だった。
姐さんが危ないから助けてくれとメッセージに短く綴られている。
俺は急いで姐さんのもとへ向かった。
廃ビルに着くと、天井にどでかい穴が空いていて、その上の方に姐さんが柱か何かに掴まっているのが見えた。
急いで階段を上がると、ガキが落ちそうになっている姐さんの手を必死に掴んでいた。
非力なガキが姐さんを助けられる訳がない。だというのにあのガキは、姐さんに手を離すよう言われても諦めなかった。
——根性なしかと思ったが、意外とやるじゃねェか。
俺はすぐ駆け寄ると、ガキの背中を叩いて声をかけた後、姐さんの腕を掴んで一気に引き上げた。
大丈夫か聞くと姐さんは少し唖然としていたが、すぐに表情を戻すと俺に礼を言った。
ニャアニャアと猫が騒ぐ。
姐さんはあのガキにも礼を言っていた。
相変わらず律儀な人だ。それなりの立場にいるんだからもう少し偉ぶってもいい気もするが、それをしないのが姐さんらしい。
何も出来なかったと凹むガキに、姐さんは充分だとガキの頭を撫でて励ました。
正直羨ましくてイラついたが、姐さんの方が大事なため、俺は姐さんに怪我の有無を尋ねた。
どうやら怪我はないようだ。
そっと息をつくと、マリアさんが走ってきた。
マリアさんは姐さんの無事を喜ぶと、すかさず苦言を呈していた。
正直そういうのは姐さん相手だと俺は言えないから有り難かった。
マリアさんはガキにも声をかけて労ると、ハンカチでガキの額を拭いた。
姐さんが話のついでに、マリアさんに猫の飼い主へ連絡するよう頼むと、マリアさんは電話をかけた。
姐さんの意識は腕の中の猫に向いている。
俺は無言でガキに近付くと、姐さんを視界に入れながら礼を言った。
横目でガキを見ると、ガキは信じられないものを見たかのような顔をしていて、思わずなんだその顔はと突っ込んだ。
ガキはなんでもないと答えた。
俺は仕切り直して、改めて姐さんの事を話した。
姐さんは優しいから誰かがいれば自分よりその誰かを優先するし、その上で自分の犠牲を厭わない人間だ。
そういうとこも含めて俺は姐さんが好きだが、姐さんに傷付いてほしい訳じゃない。
今回はコイツがいたから姐さんは怪我しないで済んだのだ。いなかったらきっと一人で無茶をしていただろう。
——このガキが姐さんの敵じゃないのは、本当はわかっていた。
だがうかつに信じて裏切られた日には、信じた事を後悔するからなかなかガキを信用出来ずにいた。
今回の件で何も言わずにそのままでいるのも気持ち悪ィし、俺の流儀に反するため、ガキに改めて礼を伝えた。
するとガキは自分は役に立たなかったからと、さっき姐さんに言ったのと似たような台詞を言った。
雑魚なのはわかっているし、助けようとしたならそれで充分だと説明してやると、ガキはなんとなくではあるが理解したようだ。
今までの非礼を詫びると、居心地は最悪で自然と舌打ちが出た。
何も言わない目の前のガキになんとか言えと言う。
ガキは何故か驚いていた。
こっちはてっきり恨み言を言われるものだと思っていたのに、コイツは特にないと言った上に俺が姐さんを大事にしているなんて言葉を口にした。
…… 大事にしてたらお前を傷付けていい訳でもねーだろ。
言いたい事は山ほどあったが、今言うにはどれも違う気がして、結局口にするのはやめた。
コイツは早死にするタイプだ。
そこで初めて、俺は姐さんがコイツを守ろうとする理由が理解出来た。
納得は出来ないが、コイツを守った方が姐さんにとっては幸せなんだろう。
俺は己の意志を改めると、ついでに守ってやると約束した。
するとガキは不思議そうな顔をして聞き返した。
二度は言わねェと脅すと、話を聞いていたのかマリアさんがまた意地悪をしているのかと俺に聞いた。
姐さんが訝しげな顔をする。
俺は咄嗟に嘘をついて誤魔化したが、姐さんが近寄ってくるから平静を保てなかった。
——近ェしどこ見ればいいかわかんねェしなんかいい匂いするんですけど!!?
顔に出ないよう必死になっていると、ガキに助け船を出された。
姐さんは俺を疑っていたが、ガキの言葉を信用したらしく今回は見逃してくれた。
つねられた両頬が熱を帯びて返事が震える。
好きな人からの突然のスキンシップは心臓に悪かった。
猫のアイリスが飼い主に引き取られると、全員で事務所に戻った。
事務所に戻る頃には俺の心臓もすっかり落ち着いたが、マリアさんに小声で良かったですねと言われて羞恥で死にそうになった。
俺があのガキ——サンへの態度を改めると、真っ先にルイスが何企んでんだ気持ち悪いと言ってきた。
つくづく年上を敬わない生意気な後輩である。
文句を言ってもルイスは素知らぬ顔で聞き流していた。
唯一EMANONでサンだけが俺を先輩として敬っていて、少し複雑な気持ちになった。
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