Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

文字の大きさ
115 / 133
酒の席の話

酒の席の話3

しおりを挟む

「まあ問題児いたら毎回は丁寧な対応出来ないわよ」
「誰が問題児だ」
「あんた以外誰がいんのよ」
「ルイスとか」
「いや~ルイスちゃんは真面目な子でしょ~ちょっと天然入ってるけど」

 メイナードさんの言うルイスくんの印象は私とあまり相違なかった。
 デリカシーのないブラッドと違って、ルイスくんは姉のマリアさんがいるから配慮が出来る好青年である。
 たまに仕事で失敗する事もあるけど、それも許容範囲内の話で、ブラッドみたいにとんでもない事を仕出かしたりしないのだ。
 あたしは以前、スマーニャさんがブラッドの愚痴を溢していた事を思い出した。

「なんでもいいけど、スマーニャさんに迷惑かけないでよね。あの人色々大変なんだから」
「へいへい。おかげでお前の仕事増やすなって嫌味言われたわ」
「エッ」
「あと“仲良しなのはいいけど、女の子なんだから言い方考えろ”ってよ」

 あたしはブラッドが口にした言葉を何度も反芻した。
 シェルアさんしか興味がないような顔をして、あたし達には必要最低限、仕事上の関係として割り切っていると思っていた。
それなのに陰でそんな事をスマーニャさんが言っていたなんて、あたしは信じられなかった。

「ちょっと待ってそれ本当にあの人が言ってたの? 別人じゃなくて?」
「それは流石にロジェさんに失礼すぎねェ? あと本人だわ」
「だってあの人普段そんな感じじゃないじゃん!! 自分の事は自分で! 責任は最悪こっちで取るけど余計な事したらわかってるだろうな?ってスタンスじゃん!!」
「お前本当にロジェさん好きなの? ちょっと引くんだけど」
「あんたに引かれる筋合いないんだけど!?」

 反論すると、ブラッドは顔を歪めてウイスキーを呷った。

「まあまあ、そんな喧嘩しないの」
「だってコイツが……」
「でもロジェちゃんアレで案外優しいとこあるからその辺りの認識は改めた方がいいわよ」
「えーっ本当ですか? スマーニャさん子供も動物も好きじゃないって言ってましたよ?」

 スマーニャさんの情報を頭の中から引っ張り出して言うと、メイナードさんは小さく吹き出して手をヒラヒラと振った。

「いやいやロジェちゃん結構猫好きなのよ?」
「「えっ」」
「マジで?」
「マジよ。本人は自覚ナシだけどね。周りに色々言われるのが嫌だからそういう風に言ってるんじゃない? 苦手って言っておけば話も広がらないし、相手も深く突っ込んでこないでしょ」
「な、なるほど……」

 メイナードさんの推察は納得出来る部分が多かった。
 あたしはスマーニャさんの言葉をそっくりそのまま受け取って、言葉の裏に隠された真意には気付けずにいたのだ。
 スマーニャさんの上辺しか知らない自分に嫌気が差した。

「わかりにくっ。天邪鬼か?」
「アマノジャクって?」
「素直じゃないひねくれ者」
「そりゃアンタもでしょうが」
「……」

 ブラッドはメイナードさんに正論を言われて言い返せないようだった。
 それにしても、あんなにすごい人をここまでひどく言えてしまうのはブラッドの馬鹿故なのか、嫉妬故なのだろうか。
 あたしもシェルアさんに嫉妬した事があるから、認めたくはないけどブラッドの境遇とあたしの境遇は似ているのかもしれない。
 隣にいるブラッドを盗み見ると、やっぱり不機嫌そうにウイスキーを飲んでいる。
 あたしは二切れ目のパルミジャーノを口に運んで咀嚼した。
 
「……言っとくけどなァ、あの人そんな完璧超人じゃねェぞ。そう見えるってだけで」
「何? 僻み?」
「僻んでねェよ! 事実だわ!!」

 唾が飛びそうな勢いで言い返すブラッドに、あたしはメニュー表を盾にする。
 メイナードさんはあたし達のやり取りに手を叩いて笑っていた。

……コイツと同類だと思われたくない。

 あたしは突っかかってくるブラッドの顔面を右手で押し退けると、メイナードさんを見つめた。
 メイナードさんはすぐにあたしの視線に気付くと、ワインを飲むのをやめて聞く姿勢を整えた。

「なあに? エッシちゃん」
「あの、コイツから何聞いたのか知りませんけど、あたしスマーニャさんとそういう関係になる気はないので……」

 訂正事項を述べると、ヘラヘラ笑ったブラッドがあたしを指差した。

「あー何? 予防線?」

 あたしは近くにあったインテリアの三角フラスコを引っ掴んで頭上に掲げた。
ブラッドがギャーギャー騒いであたしの両腕を掴んだけど、あたしは目の前のコイツに一発入れないと気が済まなかった。
 
「おおおお落ち着け!! お前殺人事件起こす気か!?」
「まあそれもやぶさかではないわね」
「やぶさかではない!?」
「やるなら外でやってね~店内の掃除が大変だから」
「お前は止めろよ!!!」

 あたしを止めないメイナードさんにブラッドは吠えていたけど、メイナードさんはブラッドをあしらうようにしっしと手を振って、楽しそうにワインを飲んだ。
 あたしはブラッドの手をどうにかして振り解こうと、押したり引いたり色々した。
でもブラッドはあたしの腕を離そうとしなくて、結局あたしが根負けして殴るのを諦める事になった。
 渋々三角フラスコを元の位置に戻すと、あからさまにブラッドが長い溜息をついた。

「いや~エッシちゃんたら情熱的ねぇ。アタシだったらロジェちゃんに頼んで一発入れて貰うわよ」
「それだとスマーニャさんが大変じゃないですか」
「俺の方が大変なんだが?」
「アンタがよく言う身から出た錆、って奴でしょうに」

 メイナードさんはブラッドに呆れた目を向けながらも、すっかり空になったブラッドのグラスを下げてまたウイスキーを注いだ。

「ねね、それよりエッシちゃん! そういう関係になる気はないってどういう事?」
「べつに、そのまんまの意味ですけど……」
「あ、もしかしてシェルアちゃんいるから?」

 あたしは言葉に詰まった。
 返事をしようにも全て否定されそうな気がして何も言葉を返せずにいると、メイナードさんが新しいグラスをブラッドの前に置いた。

「あの二人は独特の雰囲気あるわよね~。幼馴染っていう関係もあるんでしょうけど、何かこう……色っぽいアレがないのが不思議というか……」
「それな。つーかなんか聞いてねェの? 恋愛関連で」
「え~~? 二人ともその手の話題はちゃんと答えてくれないのよねぇ」

 首を傾げながら頬に手を添えるメイナードさんに、ブラッドはやっぱりなという顔でチーズを食べている。
 あたしはスマーニャさんの恋愛話に興味はあるけど、実際に聞くのはちょっと怖くて、サングリアを口に流し込む事で怖さを誤魔化した。
 次の言葉を待っていると、メイナードさんは思い出したように口を開いた。

「あ、ちょっと違う話かもだけど幼馴染がもう一人いたらしいわよ」
「え」
「マジ? 男? 女?」
「男。ロジェちゃん曰く、いい奴すぎてムカつく奴だったって」
「へー……どんな人なんだろ」
「写真ねェのかな」

——スマーニャさんがそこまで言うって事は、底抜けに明るい人なのかな。

 初めて知る情報に、あたしもブラッドもそわそわした。
 幼馴染がもう一人いるなら、スマーニャさんとシェルアさんと、そのもう一人で仲のいい三人組だったのだろう。
 医者のレネーさんからは子供の時からやんちゃだったと話は聞いている。
 あたしは詳しく話を聞こうとしたけど、ふとメイナードさんの言った言葉に違和感を抱いた。

「ん? ちょっと待ってメイナードさん、幼馴染が“いた”って……」
「事故か病気で亡くなったんじゃない? アタシもその辺り詳しく聞かなかったからわからないのよ」
「は~~? 話聞けねェじゃねーか!」
「アタシにキレてもしょーがないでしょ」

 メイナードさんは理不尽にキレるブラッドを軽くいなすと、グラスの中のワインを飲み干した。
 あたしは氷の下に沈んだ果物に視線を落とした。
 たまにスマーニャさんが何とも言えない表情をしているのは、亡くなった幼馴染さんの事を思い出しているからなのか。
 思い返すと胸が痛んで、もう少し配慮出来たはずと後悔が押し寄せた。
 一方でブラッドは一切気にしてない様子で、あーだこーだ言っている。コイツはあまりにデリカシーがない。

「姐さんの幼少期知りたかったのに……」
「ロジェちゃんに聞いたらいいじゃないの」
「聞いたらあの人引いた目で見た後、仕事しろって言ってくるんだぜ?」
「日頃の行いでしょ」
「んだと?」

 ブラッドを無視してあたしはサングリアを呷った。
 
「だいたい、シェルアさんの小さい頃が知りたいなら、家に行けばアルバムくらいあるでしょ。マリアさんが言ってたし」
「俺に姐さんの家に上がれと!?」
「普通に遊びに行けばいいでしょーが! 何恥ずかしがってんのよ!!」
「じゃあお前ロジェさんの家普通に遊びに行けんのかよ!」
「無理に決まってるでしょ!?」

 言い合っているとメイナードさんが腹を抱えて笑い始めた。
 あたしとブラッドは一旦争うのをやめて、笑うメイナードさんを注視した。

「ヒー……アンタ達ホンット面白いわね……仲悪いように見えて息ぴったりじゃない」
「仲悪いように、じゃなくて本当に仲が悪いんです」

 ハッキリ言うとメイナードさんはまた笑っていたけど、あたしと目が合うと冷蔵庫から冷えた小さなパフェを取り出して、あたしの前に置いた。
 果物は勿論、バニラアイスにはチョコレートがかかっていて、見た目がまず可愛しい。
 これで許してと言いたげなメイナードさんにあたしは苦笑すると、ハンドサインでOKをつくった。
 ブラッドはずっと不満げだったけど、メイナードさんからタダ酒を貰うと態度が一変して、水のように酒を飲んだ。
 あたしはメイナードさんが聞き上手なのもあって、つい色々話し込んでしまった。
正直自分の恋愛関連を知られてしまったのは頭が痛いけど、吐き出した事で楽になった部分もあったのだ。

 次の日の朝、あたしは二日酔いに悩まされる羽目になった。
 どうやって家に帰って来たか全く覚えていなくて、トークアプリの履歴を辿ると、ブラッドに送って貰った事が判明した。
 あいつに借りをつくったのは気持ち悪かったけど、一応迷惑をかけた事については謝罪しておいた。
 
……メイナードさんにも後日謝りに行かないと。

 あたしは痛む頭を押さえて、冷たい水を飲み干した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...