母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら

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「オデット。明日のことだが……。あ、母上もいらしたのですね。休んでなくて、大丈夫なのですか?」
「えぇ、だいぶいいわ。それより、明日、何があるの?」


母は、目に入れても痛くない息子を見て、嬉しそうにした。だが、明日のことに婚約者と出かけると聞いて眉を顰めたのは、すぐだった。わかりやすい人だ。


「……そう。彼女とどこに行くの?」


その流れを聞いていたオデットは、長くなりそうだと思った。しかも、ここはオデットの自室だ。2人には、出て行ってほしい。


「お兄様。お母様の体調がよろしいようですから、新しい洋服から選んでいただいては? 私より、お母様の方が、お兄様のことをよくご存じですから、エルマンガルド様が惚れ直すような装いを選んでくださいますよ」
「そ、そうだな。母上、いいですか?」
「えぇ、いいわよ」


婚約者のためにというフレーズは、気に入らずとも、母が一番息子をわかっているというのは、嬉しいようだ。

どちらもわかりやすすぎる。こんなんで、よくバレないものだと思ってしまった。

そんな2人を見送り、自室に1人となったオデットは……。


「流石にお兄様は、私に自分の宿題をやらせたことないわよ」


エルマンガルドに押し付けられた宿題を見て、オデットはぼやいた。兄が着るものや必要なものが、自分の部屋のどこにあるのかを知らなさすぎるが、それが苦ではない令嬢なら問題はないはずだ。好き勝手にコーディネートできるのだ。世の中、兄のような見た目なのをイケメンというらしいから、素材は悪くないはずだ。

母のような令嬢ならばいいのだが、その役目を婚約者にすんなりと渡すかが問題なだけだ。

母のことだから、絶対に譲りはしないだろう。今回の食中毒では、流石に寝込んだが、それまでのちょっとした腹痛の時でも、母は自分でやっていたのだ。そんなところで、変な根性を見せないでほしいが、そういう人だ。

父には、そんな根性を見せる妻ではない。ちょっと気乗りしないと気分が優れないと言うらしい。それで、公爵夫人が務まるのかといえば、父も色々考えている気がしてならないが、母はその辺のことを全く気にしていない。

そういう人だ。ふと、さっきのことを思い出した。


「でも、危なかったな。留学をやめろって言うとは思わなかった。まだ、具合が良くないのか。私にこのままやらせて、婚約者との仲を引き裂く道具にする気か。……私じゃ、お兄様を完璧な子息にできないと思っているみたいだけど。何が悲しくて、兄を見立てなきゃならないのやら。婚約者がいたら、ちょっとやってみたいけど」


そこまで考えて、オデットは眉を顰めた。やっぱり、母の代わりをしただけで、うげっと思ってしまった。


「毎回なんて絶対にやりたくない。私は、母のしてたのを真似ていただけだし。私らしくコーディネートなんてしてなかったから、兄がしていることだと思ってくれてよかったわ。これで、なんか雰囲気が変わったとか思われたら、母にそれ見たことかって言われていただろうな」


そう思いながら、エルマンガルドの宿題を適当にやり、自分の宿題をきちんとやった。


「字体が変われば、バレると思うけど。そんなところまで気遣ってくれていたのを知らないみたいね」


オデットは、ブランシュは姉の筆跡を知って真似ていたようだが、オデットはそこまでしてやる気は全くなかった。

それどころか。やりたくもないことを代わりにやらされているのだ。そのまま、やられっぱなしではいられない。オデットは、思いっきりぞんざいにエルマンガルドの方の宿題をした。


「…どんな言い訳を言うつもりかな。言い訳すればするほど、まずいことになりそうだけど」


先生に誰かのものを写したとは言えないものだ。オデットのは、ちゃんとしたものにしたが、エルマンガルドのものは最初はそれなりに書いたが、教え方がいまいちでやる気にならないと最終的には、先生への不満を書いておいた。

筆跡は、オデットは両利きのため、自分のはいつも通りに書き、エルマンガルドのはいつもは書かない方で書いたから、他の生徒のものを調べても、誰のものかなんてわかることはないだろう。

それこそ、オデットに書かせたなんて言えないだろうが、そう言われてもオデットはすっとぼけられるようにした。その辺も抜かりはなかった。

何より、エルマンガルドは最初の方をざっと見るだけで、全部は読まないのも把握済みだ。その時に文字の違いにも無頓着だったため、留学するこのタイミングならオデットに直接、文句を言えないとばかりのものに仕上げておいた。

それは、他のものでもそうだ。提出したものにはオデットの仕返しがなされていた。

オデットが思っていることでなく、エルマンガルドがオデットに言っていた言葉を用いただけだ。


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