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しおりを挟む母が生モノに当たった時のことだ。オデットが代わりにやらされているというのにこれまで通りに当然のように兄がしていることにされていた。
「キルデリク様、相変わらず、素敵ね」
「本当ね」
「……」
オデットは、母の代わりなんて手を抜いてしまいたかったが、できなかった。何も知らない令嬢たちが褒めちぎられるのを白けた顔で聞き流していた。
それこそ、適当なものを選んで、そんなくらいなら自分で選ぶと言ってほしかった。そうなったら一番良かったが、そうはならなかった。
センスそのもの以前の問題だったのだ。そうなるとこれを着ろと言われるままに着てしまう兄は、頭の心配をされるような格好でも、なんとも思わないようだ。そのため、そこから変な噂が飛び交うことになり、兄の婚約の話がなかったことにされるかもしれない。いや、絶対になる。
みんなが、何気にチェックして見ているのだ。手を抜けばバレるし、おかしいと気づくはずだ。
だから、母がしていたのと変わらないようにした。それか一番オデットは疲れたが、兄はもう自分で選ぶ気が全くなくなっているのもわかってしまった。彼は、何を選んでも何とも思うことなく着ようとするのだ。
「ちょっ、」
「なんだ?」
正気かとオデットは思ったが、兄は好みやセンスなんてものをとっくになくしているようだった。
適当にこれでと渡したものを兄は、本当に着ようとしたのだ。流石にオデットも驚いてしまい、間違えたと言って、相応しいのを渡したが、兄は怪訝な顔をしただけで何も言ってはこなかった。
オデットは、そんな風にした母にも、それが当たり前と思っている兄にも、益々あり得ないと思ってしまったが、それを言葉にすることはなかった。
だが、オデットならば、そんなのが自分の婚約者だとわかったら、何が何でも婚約を解消するか。破棄している。そんなのと一生添い遂げたくはない。
そんなことを思っていると今度は、兄がオデットの部屋に来た。家族だからといって、ノックはしてほしいところだ。さも当たり前のように部屋に入って来るのにオデットはイラッとしたが、何を言っても母も、兄も、家族なのだからと問題ないように入って来るのだ。
そのせいで、着替え中の時はオデットの部屋の前に必ず使用人が立っている。それでも、入って来ようとするのは、母だけでなく、兄もだ。全く信じられない。
そんなところも、オデットはあり得ないと思っているが、この2人には大したことではないようだ。全く直らない。
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