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しおりを挟む(王妃視点)
シャルレーヌが、留学しに行くと聞いても、国王や王太子のように驚くことはなかった。
あの子は私に似ている。やらなければならないことを回避するのが上手い。……上手くなければ、世界が傾くだけになるのをよくわかっている。
ただ、留学しただけでは大変なことになる。あの美貌だ。噂通りの不細工の方が幸せになる確率が高いとすら私は思っていたくらいだ。
母親として、そんなことを思うのだから、私も中々酷い。
私を超える美貌となるはずの王女だ。引きこもっていなければ、世の男性陣を何もしなくてもその気にさせる魔性さを秘めている。
私は、自分の危うさを自覚したのが遅かった。それでも、何とかなっていたのは、シャルレーヌほどではなかったからだ。
私が何か言う前にシャルレーヌも、わかっているかのように外に出歩くのに向いてはいないことをよくわかっていた。本当に聡い子だ。大丈夫な時期まで色んな知識を蓄えるべく部屋で勉強しているようだ。
そんなことをしているなんて国王も、王太子もわかっていない。シャルレーヌが何のために引きこもっているかをまるでわかっていない男たちは突然、留学すると言い出したことでオロオロしていて、それを私は冷めた目で見てしまった。
散々、引きこもりをどうにかしたいと言っていたはずが、引きこもりから晴れて脱して留学することにした途端、頭が追いつかなかったようだ。
まぁ、普通はそうなのかも知れない。でも、これが国王と王太子かと思うと情けなさしかない。
私は、留学先でどうするのかと気になっていたが、男装をして各国を巡って戻って来たのに血の濃さを感じずにはいられなかった。王族として、やるべきことを見誤ることはなかったのだ。
シャルレーヌの方が、この国に相応しい人物に思えてしまったくらいだ。だが、断られてしまった。そうなるとは思っていたが。
私も、この国にそこまでの思い入れはないが、王族としての役割を完全に放棄する気にはなれなかった。そんなところも似ている。
「全く、シャルレーヌを平手打ちするようなのと婚約するとはな」
「平手打ちをしたくなるようなことをしたのは、王太子なのでは?」
「ん? いや、そうかもしれないが」
「……」
この国王も、シャルレーヌが何をするために男装して各国を回ったかをまるでわかっていない。増えすぎた王族を減らすために動いただけなのだ。
私が一番と言いながら、側妃を増やし続け、それに比例するように子供も増えた。増やす必要などないのに何をしているのか。一層のこと去勢すべきかもしれない。そんなことを思っても、言葉にしたことがないから、呑気なものだ。
王太子のために動く気はないが、シャルレーヌのためにやるのはやぶさかではない。でも、それで政に支障をきたされては困るから、側妃となる方をどうにかすべきか。
せっかく、減らした王族を増やさない方面で私は動くことにした。ついでに王太子の婚約者も、シャルレーヌに迷惑のかからないのをあてがえるようにした。
引きこもっていても、私のために動く者はいる。私の側には、私のために命を惜しむ者はいない。喜んで死ぬ者ばかりだ。
国王は、それを寄越せと言った途端に逃げるだろう。その程度でしかない
まぁ、そちらはシャルレーヌの婚約者が有能だから、動くことはなかったが。
やはりシャルレーヌの方が、この国に相応しく見えてならなかったが、それをさせたら婚約者が大暴れしそうなので引き下がることにした。
私は、シャルレーヌの幸せを願ってやまない。私のように引きこもって、おかしな方向に向かないようにしているのと同じく、彼女が幸せにならない方向に向かないようにすることに一生懸命になることにした。
それによって、国王や王太子が色々と大変なことになろうとも、王妃は何食わぬ顔をし続けることをやめはしない。
元より、そうなりやすい世界なのだから。
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