母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
12 / 22

12

しおりを挟む

(王太子視点)


ここまで来るとトレイシーより、男爵令嬢のオリーヴとの婚約の方が良かったように見えてならなかったが、誰もそんな愚痴を聞いてはくれはしなかった。

オリーヴがミュリエルと話していてもうんざりして聞こえていたのは仕方がないとしても、王太子の私が同じように聞こえてしまっていたのは、情けないという言葉しか返ってこない。

今更になって、トレイシーになぜ騙されてしまったのかと思うばかりとなっていたが、そんなことお構いなしに今日も今日とてトレイシーに追いかけられていて、恐怖を感じ始めていた。

執務をしていても、ノックもなしにやって来て入り浸るのだ。何を言っても話が通じないせいで、側近たちも同情するより、私の自業自得のようにしていて、私には理解してくれる者が側にいなくなっていた。


「殿下。ご自分の婚約者をどうにかなさってください」
「そうですよ。ここに入り浸れても仕事になりません」


側近たちは、そんな事ばかり言うようになっていた。側近なら、困ってる私の代わりをして、トレイシーを遠ざけてくれても良さそうなものなのに。

そんなことをしてはくれず、トレイシーを恐れつつ、執務もこなせと言われても無理がある。


「くそっ! 私にどうしろと言うんだ!」


そんな風に愚痴っても誰も私の気持ちなんてわかってはくれない。

それこそ、厄介でしかないトレイシーと婚約破棄したかった。ミュリエルの時よりも、色んなところからどうにかしろとトレイシーのことで言われないことがなくなっているのも頭痛の種になっていた。

側近たち以外からも言われる私の気持ちがわかるはずがない。

そのうち、どこまでも付きまとわれることになって、ミュリエルの良さが身にしみてわかって夜な夜な泣くまでになった。

彼女こそ、王太子という私の立場を理解し支えてくれていたのだ。一見、冷たそうに見えて情に厚い令嬢はいなかったのだと改めてわかったのだ。

勘違いしたことで責め立ててしまったが、男爵令嬢のことは完全なる誤解でしかない。


「そうだ。あれは、誤解でしかないんだ。トレイシーのせいで、こうなったんだ。私が悪いわけではない。騙されていただけなんだ」


後悔してもしきれない日々の中で、疲れ切っていた私は、そう思うようになった。そんなわけないと思わなかったのは、夜な夜な独り言を呟いていることを誰も知らなかったからだ。もう、私の言うことを真剣に聞いてくれる者など誰もいなかった。

そんな私が、そんな独り言によって自分は悪くないと自己暗示をかけ続けて、次第に元気になり始めた。

最近になって、現実逃避をするようになった。あろうことか、貴族令嬢となったばかりの娘がトレイシーに色々物申すようになって、それに本気で喜んでいた。

彼女こそ、救世主だとばかりになった。そんなことを周りは誰もしてくれなかった。みんな自業自得だとばかりにしていて見捨てられていたが、そんな令嬢が救世主に見えてしまうほどに疲れていたのは間違いない。

言い訳にもならないが、本当に心身ともに疲れてしまっていたようだ。まともな判断ができなくなるくらいに疲れていた。

だから、救いを求めてしまった。ただ、それだけだった。

それが、とんでもないことになるとは思わなかった。疲れ切っていた後でも、何がいけなかったかの中に自分が含まれることはなかった。

ただ、珍しい色合いを持っているのに勿体ない女に騙されただけでしかない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶がある伯爵令嬢は、妹に籠絡される王太子からの婚約破棄追放を覚悟して体を鍛える。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

侯爵令嬢が婚約破棄されて、祖父の傭兵団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 侯爵令嬢が無双をする話です。

異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。

婚約解消の理由はあなた

彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。 私の人生を壊したのはあなた。 許されると思わないでください。 全18話です。 最後まで書き終わって投稿予約済みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

処理中です...