母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
14 / 22

14

しおりを挟む

一方のミュリエルはというと父親違いの妹が、どうなったかも知らずに留学先の国王と婚約して充実した日々を送っていた。

何気にミュリエルは、祖国のことを耳にするのを楽しみにしていた。もちろん、トレイシーと元婚約者、伯父のこと以外でだ。

最近のお気に入りは、すっかり仲良くなれた男爵令嬢のオリーヴからの手紙を心待ちにしているところだった。彼女は、周りと仲良くできているようで、文面からも楽しくてしょうがないと言わんばかりにしていて、それを読むのが楽しみでならなかった。

ミュリエルとは同い年のはずが、年下のように思えてならなかった。最初こそ、反発して、ミュリエルが婚約破棄される時に色々言われもしたが、それも知らなかったからにほかならない。自分の過ちに気づいてからは、物凄く反省したようだ。

それが、謝罪の手紙からも滲み出ていたが、楽しいことや嬉しいことも手紙に書けるのだ。文才がある。それだけでも、将来が楽しみだと思えていた。

すっかり、ミュリエルはオリーヴの姉というか。近所のお姉さんみたいになっていた。


「ミュリエル」
「陛下」


そこに慣れ親しんだ声が届いた。立ち上がろうとするのを制して、ダンスを踊るかのようにミュリエルの隣に座った。彼こそ、ミュリエルの今の婚約者となった国王だ。


「また、手紙が来たのか?」
「はい。前にお話した男爵令嬢からです。お友達がたくさんできて、学園でも色んな方に気にかけてもらえているようです」
「そうか。素直な令嬢なのだな」


だからこそ ミュリエルはついつい口うるさくしてしまったと思っていた。トレイシーに言われるままにあれこれと言ってしまったが、わざとではなくて知らなくてやっていたのだ。そこをもうちょっと考慮していたら、あんなことで悪目立ちさせなかったのにとミュリエルは、そこを後悔していた、

それも、トレイシーのことを信じていたからこそ、喧しくしてしまってもいた。

それがわかって、トレイシーが何をしていたかもよくわかった。大体、姉を利用して王太子の婚約者になったのだ。可愛がって信用しきっていた妹にそんなことをされるとは思いもしなかったし、そんなことをする子だとは思ってもいなかった。

それにオリーヴの素直さこそ、ミュリエルが妹として求めるものを持っていた。トレイシーがこうであったならと無意識に思うこともあった。


「そういえば、あちらの王太子はまた婚約者をか
えたそうだ」
「え?」


国王が、珍しくミュリエルのところにやって来ると少し前に知らせてきたのは、それを知ったからのようだ。

急に会いに来ると聞いたミュリエルは、そんな話をされるとは思っていなくて目をまん丸にした。それこそ、少しでも時間が空くと顔が見たいと訪れるが、今日はきちんとどうしているかを聞いて来たから、それなりのことだとは思っていたが、それが婚約者をかえたと言う話だとは思わなかった。

そんな方向にいくとは思わなかった。まだまだ元婚約者のことをわかっていなかったようだ。

それこそ、自分は悪くないと思い込んだ挙句、追い込まれた王太子が藁にすがった結果だとは、流石に思わなかった。

それを目撃した面々も、そんな理由で婚約破棄をして、新しい婚約者を選んだとは思っていなかった。

ただ、そういう令嬢が好みなんだろうなと思う者は、それなりにいた。


「よりにもよって、そちらが好みとはな」
「それなら、元婚約者になった令嬢のままでもよさげだが」
「そうだよな」


子息たちは、そういうのが好みなのだと思って残念なものを見る目をして王太子を見ていたことに王太子は気づいていなかった。

子息のみならず、令嬢たちの多くが残念な王太子を白けた目で見ていたことにも気づいていなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

婚約解消の理由はあなた

彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。 私の人生を壊したのはあなた。 許されると思わないでください。 全18話です。 最後まで書き終わって投稿予約済みです。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

私の方が先に好きになったのに

ツキノトモリ
恋愛
リリカは幼馴染のセザールのことが好き。だが、セザールはリリカの親友のブランディーヌと付き合い始めた。 失恋したが、幼馴染と親友の恋を応援しようとする女の子の話。※連作短編集です

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

(完結)妹の身代わりの私

青空一夏
恋愛
妹の身代わりで嫁いだ私の物語。 ゆるふわ設定のご都合主義。

処理中です...