母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
18 / 22

18

しおりを挟む

王太子が、再び婚約者をかえるとは、まぁいずれはそうなるかとは思っていたが、ミュリエルの時と同じく、婚約破棄してその場で新しい婚約者を手にしたことに驚いてしまった。

その場で、婚約者を選ばなくてもいいと思うが、婚約者がいないことが不安なのだろうか?

その辺もよくわからないとばかりにミュリエルは首を傾げたくなった。それこそ、トレイシーはどうしているかと聞いたら、国王は答えてくれるだろうが、そんなことミュリエルは聞かなかった。

予想など、考えないようにしていても出ている。あの伯父は、お気に入りの姪っ子のためなら、いい格好をするだろうが、恥をかかせた実の娘には厳しいだろう。

前にミュリエルが色々言って恥をかかせたとして、その後ネチネチと色々と言われ続けたことがある。


「伯父の私に恥をかかせるとは、とんでもないな。母親に見た目だけでなく、中身も似ていないようだな」
「っ、」


それこそ、数日経ってもそれを言っているのを見ていて、まだ言うのかと思ってミュリエルは見ていた。そこに母を持ち出してわざわざ似ていないと言うのも、大人気ない。

そんな人だ。トレイシーにもしているに違いない。自分が可愛いのだ。大人気ないにもほどがある。でも、そういう伯父なことをトレイシーはよく知っているはずだ。

ミュリエルが色々言われるのを見聞きしていたのだ。自分がそんな目に合うことになる日が来るとは思っていなくても、伯父がどういう人かなんてよく知っているはずだ。

トレイシーをあんな形で養子にすることになったことで、家族が出て行っただけで終わらず、離婚することにまでなって、跡継ぎまでも失ったのだ。

更には、何があったのかを周りに知られることになったのは明らかだ。それを婚約破棄になったことで、すべてトレイシーのせいだと言い出す伯父が、ミュリエルには簡単に想像できた。

婚約を破棄された娘を庇うどころか。騙されていたとして、元妻によりを戻すチャンスのように思っているに違いない。

そうなれば、トレイシーは勘当されるか。修道院にはいるかになるはずだ。あの家に置いてはおけないだろう。

流石にパーシヴァルに戻って来いとは言えないだろう。

ミュリエルの母が、夫の弟との不倫の末に生まれることになったトレイシーを守ってほしいと亡くなる時にもミュリエルに言っていた。なぜ、あんなことをミュリエルに何度も頼んだのか。

そこに、ミュリエルは引っかかっていた。トレイシーを産んだことで、寿命を縮めることになったようなものなら、それだけの覚悟があって産んだはずだ。

それなのにトレイシーとは会わずにミュリエルに会ってばかりいて、そんなことを頼んでいたのが、どうにもわからなかった。

そこが、ミュリエルは気になってならなかった。でも、それを誰にも話したことはなかった。目の前にいる婚約者となった国王にも、話してはいない。

父のことより義弟となった方を愛していたのかと聞くこともできない。

少なくとも、命がけで産んだトレイシーには、そんな風にして産んでもらったことについて特に何とも思っていないようだが。


「陛下」
「なんだ?」
「お願いしたいことがあります」
「聞こう」


ミュリエルが、トレイシーを守るにしてもやらかしすぎている。そもそも、妹だからとか。姉なのだからでは済まされないことをしている。

悪いと思っているかも怪しい。ミュリエルの心の葛藤がわかるのは、今目の前にいる国王だけだろう。彼だからこそ、ミュリエルはお願いを口にできるのだ。

母に頼まれたことを伝えていなくても、ミュリエルがミュリエルらしく行動することを知っている。そういう人だ。

母に言われた言葉が耳に残っているミュリエルは、約束したのだからとそのまま守るのではなくて、トレイシーのことを試すことにした。欠片でも姉に悪いと思っているのなら、最初で最後のチャンスを与えるくらいはしようと思ったのだ。

そうでなければ、無責任に守るなんてできない。守ったことで、迷惑を被る人が現れることになるのなら、ミュリエルはミュリエルらしく守ることにするまでのことだ。

そのために国王に頼んだ。彼はまるで、そうするのを知っているかのように静かに聞いてくれていた。

ミュリエルが言葉にしながらも、それが本当に正しいのかとぐらつくものがあったが、国王を見ているとその不安もどこかにいってしまっていた。

妹を守るように約束させた母はもういない。

そして、守ってほしいとトレイシーは思ってすらいないだろう。

それに守り続けるなんてことを約束はしていない。あんなことをしたのだからと今更チャンスを与える必要はないと思ってもいいところだ。

でも、母は父親が違うのをわかっていながら、ミュリエルにあんなことを何度も頼んだ。それには意味があるはずだ。

具合が悪くなっていってもなお、その願いだけをミュリエルに伝え続けた。思い返せば、トレイシーのことばかりだった。それもこれも、トレイシーが母に似ているからだと思っていたが、特別な娘だったからだとしたら母にとってのミュリエルは、そういう娘でしかないということだ。

もう母が何を考えていたのかが、ミュリエルにはわからなくなっていた。だからといって、父に詳しく聞く気にもなれなかった。ずっと昔から結婚したくてもできなくて、不倫していたのだとしても、トレイシーが生まれる少し前からだとしても、母が床に伏した頃には関係が終わっていた気がしなくもない。

そうでなければ、あんな風にトレイシーを構い倒しに遊びに来ておいて、母に会わなかったのは変だ。一体、あの2人に何があったのか。

というか、伯父がそんな関係だったのに公爵家に何でもない様に通い詰めていられた根性も気になるところだ。

別れていたのなら、トレイシーが似ているからと遊びには来ていないはずだが、やはり伯父のやることなすことはわけがわからない。

ミュリエルが見ていた母は、物凄く儚く見えた。トレイシーを命がけで産んだから、そう見えていたのかと思っていたが、違ったのかもしれない。

そんな母に生まれたばかりのトレイシーが同じく見えていたが、もう同じに見えることはなさそうだ。

それでもオリーヴのように変わってくれないかと願わずにはいられなかった。未だに期待を失っていない。

そうなれば、幸せになれるはずだ。今からでも遅くはないことをトレイシーが気づいてくれればいいと思わずにはいられなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶がある伯爵令嬢は、妹に籠絡される王太子からの婚約破棄追放を覚悟して体を鍛える。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

侯爵令嬢が婚約破棄されて、祖父の傭兵団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 侯爵令嬢が無双をする話です。

異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。

婚約解消の理由はあなた

彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。 私の人生を壊したのはあなた。 許されると思わないでください。 全18話です。 最後まで書き終わって投稿予約済みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

処理中です...