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しおりを挟む王太子が、再び婚約者をかえるとは、まぁいずれはそうなるかとは思っていたが、ミュリエルの時と同じく、婚約破棄してその場で新しい婚約者を手にしたことに驚いてしまった。
その場で、婚約者を選ばなくてもいいと思うが、婚約者がいないことが不安なのだろうか?
その辺もよくわからないとばかりにミュリエルは首を傾げたくなった。それこそ、トレイシーはどうしているかと聞いたら、国王は答えてくれるだろうが、そんなことミュリエルは聞かなかった。
予想など、考えないようにしていても出ている。あの伯父は、お気に入りの姪っ子のためなら、いい格好をするだろうが、恥をかかせた実の娘には厳しいだろう。
前にミュリエルが色々言って恥をかかせたとして、その後ネチネチと色々と言われ続けたことがある。
「伯父の私に恥をかかせるとは、とんでもないな。母親に見た目だけでなく、中身も似ていないようだな」
「っ、」
それこそ、数日経ってもそれを言っているのを見ていて、まだ言うのかと思ってミュリエルは見ていた。そこに母を持ち出してわざわざ似ていないと言うのも、大人気ない。
そんな人だ。トレイシーにもしているに違いない。自分が可愛いのだ。大人気ないにもほどがある。でも、そういう伯父なことをトレイシーはよく知っているはずだ。
ミュリエルが色々言われるのを見聞きしていたのだ。自分がそんな目に合うことになる日が来るとは思っていなくても、伯父がどういう人かなんてよく知っているはずだ。
トレイシーをあんな形で養子にすることになったことで、家族が出て行っただけで終わらず、離婚することにまでなって、跡継ぎまでも失ったのだ。
更には、何があったのかを周りに知られることになったのは明らかだ。それを婚約破棄になったことで、すべてトレイシーのせいだと言い出す伯父が、ミュリエルには簡単に想像できた。
婚約を破棄された娘を庇うどころか。騙されていたとして、元妻によりを戻すチャンスのように思っているに違いない。
そうなれば、トレイシーは勘当されるか。修道院にはいるかになるはずだ。あの家に置いてはおけないだろう。
流石にパーシヴァルに戻って来いとは言えないだろう。
ミュリエルの母が、夫の弟との不倫の末に生まれることになったトレイシーを守ってほしいと亡くなる時にもミュリエルに言っていた。なぜ、あんなことをミュリエルに何度も頼んだのか。
そこに、ミュリエルは引っかかっていた。トレイシーを産んだことで、寿命を縮めることになったようなものなら、それだけの覚悟があって産んだはずだ。
それなのにトレイシーとは会わずにミュリエルに会ってばかりいて、そんなことを頼んでいたのが、どうにもわからなかった。
そこが、ミュリエルは気になってならなかった。でも、それを誰にも話したことはなかった。目の前にいる婚約者となった国王にも、話してはいない。
父のことより義弟となった方を愛していたのかと聞くこともできない。
少なくとも、命がけで産んだトレイシーには、そんな風にして産んでもらったことについて特に何とも思っていないようだが。
「陛下」
「なんだ?」
「お願いしたいことがあります」
「聞こう」
ミュリエルが、トレイシーを守るにしてもやらかしすぎている。そもそも、妹だからとか。姉なのだからでは済まされないことをしている。
悪いと思っているかも怪しい。ミュリエルの心の葛藤がわかるのは、今目の前にいる国王だけだろう。彼だからこそ、ミュリエルはお願いを口にできるのだ。
母に頼まれたことを伝えていなくても、ミュリエルがミュリエルらしく行動することを知っている。そういう人だ。
母に言われた言葉が耳に残っているミュリエルは、約束したのだからとそのまま守るのではなくて、トレイシーのことを試すことにした。欠片でも姉に悪いと思っているのなら、最初で最後のチャンスを与えるくらいはしようと思ったのだ。
そうでなければ、無責任に守るなんてできない。守ったことで、迷惑を被る人が現れることになるのなら、ミュリエルはミュリエルらしく守ることにするまでのことだ。
そのために国王に頼んだ。彼はまるで、そうするのを知っているかのように静かに聞いてくれていた。
ミュリエルが言葉にしながらも、それが本当に正しいのかとぐらつくものがあったが、国王を見ているとその不安もどこかにいってしまっていた。
妹を守るように約束させた母はもういない。
そして、守ってほしいとトレイシーは思ってすらいないだろう。
それに守り続けるなんてことを約束はしていない。あんなことをしたのだからと今更チャンスを与える必要はないと思ってもいいところだ。
でも、母は父親が違うのをわかっていながら、ミュリエルにあんなことを何度も頼んだ。それには意味があるはずだ。
具合が悪くなっていってもなお、その願いだけをミュリエルに伝え続けた。思い返せば、トレイシーのことばかりだった。それもこれも、トレイシーが母に似ているからだと思っていたが、特別な娘だったからだとしたら母にとってのミュリエルは、そういう娘でしかないということだ。
もう母が何を考えていたのかが、ミュリエルにはわからなくなっていた。だからといって、父に詳しく聞く気にもなれなかった。ずっと昔から結婚したくてもできなくて、不倫していたのだとしても、トレイシーが生まれる少し前からだとしても、母が床に伏した頃には関係が終わっていた気がしなくもない。
そうでなければ、あんな風にトレイシーを構い倒しに遊びに来ておいて、母に会わなかったのは変だ。一体、あの2人に何があったのか。
というか、伯父がそんな関係だったのに公爵家に何でもない様に通い詰めていられた根性も気になるところだ。
別れていたのなら、トレイシーが似ているからと遊びには来ていないはずだが、やはり伯父のやることなすことはわけがわからない。
ミュリエルが見ていた母は、物凄く儚く見えた。トレイシーを命がけで産んだから、そう見えていたのかと思っていたが、違ったのかもしれない。
そんな母に生まれたばかりのトレイシーが同じく見えていたが、もう同じに見えることはなさそうだ。
それでもオリーヴのように変わってくれないかと願わずにはいられなかった。未だに期待を失っていない。
そうなれば、幸せになれるはずだ。今からでも遅くはないことをトレイシーが気づいてくれればいいと思わずにはいられなかった。
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