母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら

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晴れ晴れした顔で、公爵家に着いたミュリエルが見たのは、父でも義兄となったパーシヴァルでもなかった。

思いもかけない人がそこにいた。もう、会うこともないと思っていた人だった。


「お前のせいだ!」
「伯父様」
「お前が、あいつを見捨てて、自分だけが幸せになって、よく戻って来れたものだな!」
「……」


伯父は、血走った目をして公爵家の門前にいた。どこで知ったのか。ミュリエルが戻って来ているのを知って待ち伏せていたようだ。その言葉に聞き捨てならないものがあった。


「見捨てた? おかしなことをおっしゃるのね。あなたが実の父親であり、散々子供の頃から息子以上に可愛がっていたではありませんか。それを養子にしたのに見捨てるなんて、あなたの方が酷いはずでは? そこに私の幸せは、全く関係ないはずです。むしろ、あなたが我が家を壊すようなことをなさってきたのにそんな方に責め立てられたくありません」
「何だと! 生意気な奴だな!」


公爵家の門前でそんなことをしていたのだ。中から父や義兄が出て来ても不思議はなかった。ミュリエルが行くことは知っていたのだ。

でも、そこに全く予期せぬ者が現れた。


「ミュリエル様……?」
「え?」
「やっぱり、ミュリエル様」


そこには、手紙でやりとりを続けていたオリーヴがいた。

伯父は、男爵令嬢のオリーヴを見るなり更に怒り狂った顔をした。


「お前のせいだ!!」
「っ!?」


伯父は、オリーヴのことを覚えていたようだ。ミュリエルしか見てなかったオリーヴは、鬼の形相をしているミュリエルの叔父がいるのにびっくりしていた。

トレイシーの実父だとわかったのかはわからないが、恐ろしさに身をすくめてしまっているのをミュリエルは抱きしめて庇ったのは、すぐだった。

それこそ、トレイシーがオリーヴのような令嬢となっていて、やったことを後悔していたら、まさにこうして身を呈してでも守っていたであろうことをミュリエルは彼女にしていた。

それは、無意識のものだった。ミュリエルの中で、オリーヴは本物の妹のような存在になっていた。守るべき人物とは、オリーヴのようになっていた。

殴られるだろうと思っていたが、ふっ飛ばされることになったのは伯父の方だった。


「ぐっ!?」
「国王陛下の婚約者に手を上げるとは、無礼がすぎるぞ!」


ミュリエルを護衛していた男性が、そこにいた。事の成り行きを見守っていてくれたのをミュリエルはすっかり失念していた。

いや、実際には暴言だけでも割って入って来れただろうが、ここまでになれば伯父をそのまま野放しにはならないと思ってのようだ。


「ミュリエル様!? 怪我は?」
「私は平気よ」
「よかった。私、ごめんなさい。ミュリエル様がいらしていると聞いていても経ってもいられなくなって来てしまったんです」
「わざわざ、会いに来てくれたのね」


あんなことがあった後だからこそ、ミュリエルはオリーヴが可愛くて仕方がなかった。もう泣かないと決めていたのに泣いてしまった。

伯父が、暴れまわり罵詈雑言を浴びせかけてきていても、ミュリエルの耳に入ることはなかった。

すぐに隣国の国王の婚約者を傷つけようとしたとして、捕まって牢に入れられることになったようだが、ミュリエルはそんな伯父がどうなったかなんて気にもならなかった。


「2人共、怪我はないか?」
「はい」
「だ、大丈夫です。……腰が抜けましたけど」
「まぁ、大変だわ」


オリーヴは、パーシヴァルの言葉にそんなことを言った。ミュリエルは、怖い思いをさせてしまったと悲しげな顔をして、公爵であるミュリエルの父や義兄もオリーヴを心配した。


「あ、でも、ほっとけば大丈夫です。ミュリエル様にお会いできましたから、立てるようになったら帰ります」


そんなことをケロッと言うパーシヴァルは、眉をしかめていた。


「そんなところにミュリエルの大事な友達を置いてはおけないな。公爵家で休んでいくといい」
「え、でも」
「失礼」
「っ、!?」


パーシヴァルは、そう言うなり抱きかかえた。オリーヴは、それで大慌てになったが、顔を真っ赤にさせて小さくなったのも可愛らしかった。

その後、公爵家ではオリーヴも抜けた腰が戻ってきたと言い出し帰ろうとするのを公爵家の面々が止めて、みんなで食事をすることになった。

それが、とても楽しかった。オリーヴとパーシヴァルがいい感じなのをミュリエルと公爵は微笑ましそうに見ていたくらいだ。


「ミュリエル。お前が、気にかけるのもよくわかる」
「?」
「昔の妻に似ている」
「っ!?」


ぽつりと言う父にミュリエルは、何とも言えない顔をしてしまった。

母に似ているから、気になって仕方がなかったとはミュリエルは思ったことがなかったのだ。

それを知ってもオリーヴのことをミュリエルが色眼鏡で見ることはなかった。

それこそ、似ていたとしても、自分をこんな目に合わせた令嬢となると伯父はあぁなるのだ。やはり、誰より自己中だったのは伯父だったようだ。


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