親しい友達が、みんな幼なじみみたいな厄介さをしっかり持っていたようです。私の安らげる場所は、あの方の側しかなくなりました

珠宮さくら

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とりあえず、色々ありすぎて休日は美味しいお菓子を食べ比べることになった。

それは、ヴィリディアンの希望通りにはなったが、複雑で仕方がなかった。

だからといって、食べなかったわけではない。何なら、太ると言っていた友達も、よく食べていた。そうでない友達が、ドン引きして一番食べてなかったくらいだ。

そんな風に休日を楽しんだ後の週明けの学園でのことだ。

一応、ヴィリディアンだけでなく、友達もクオーラの婚約者のことをそれぞれ親に確認している。間違えてはいなかった。

いなかったのだが……。


「ヴィリディアン」
「殿下」


ヴィリディアンは、いつものように友達と楽しんでいたところに第2王子のアビシェクが疲れた顔をして現れた。

カーテシーはせずにみんな頭を下げた。畏まられるのを嫌うため、学園ではそれで許されていた。


「友達と楽しんでいるところ、すまない。だが」
「アビシェク様!」
「……助けてくれ」
「……」


アビシェクを呼んで駆け寄って来たのは、クオーラだった。

ヴィリディアンだけでなくて、そこにいる友達も察するものがあった。


「こんなところにおられたんですね!」
「……クオーラ嬢」
「クオーラ。殿下に何の用?」


困り果てているアビシェクにヴィリディアンが動いたのが先程だった。流石に面倒くさいなんて言っていられない。


「何の用って、野暮なこと聞くのね」
「野暮? 野暮は、どっちよ。私が、婚約者と話しているのに割り込まないで」
「はぁ? 何、言ってるのよ」
「何は、こっちの台詞。クオーラ、あなたの婚約者は、あっちよ」


この間、クオーラがしたようにヴィリディアンは指差した。

それを見たクオーラは……。


「は? あっちは、あなたの婚約者でしょ。自分が酷い子息と婚約したからって、現実逃避して幼なじみの婚約者と勘違いしないで。とんでもないわ。あなたみたいなのが、幼なじみで恥ずかしい」
「……」


その言葉、そっくり返してやりたい。


「クオーラ嬢。何を言ってるんだ?」
「え? 何って??」


アビシェクが、そんなことを言うとクオーラは、ヴィリディアンのようなことを言わずに困惑した顔をした。

ヴィリディアンが同じことを言ったら、ボロクソに言われるところだが、王子には流石にできないのだろう。

その気遣いを幼なじみにもしてほしいところだが、そんなことしてくれたこともないし、これからもないだろう。

あまりにも見かねたのか。ヴィリディアンの友達も加勢してくれた。


「あなたの婚約者は、あっちってことよ」
「そうですよ。勘違いしているのは、あなたの方です」
「はぁ? みんなして何を言うのよ! ヴィリディアンに弱味でも握られてるの?」
「……」


クオーラは、とんでもないことを言いつつ、そんなわけないと言って、ディリッパ・ヴァーレナのことをボロクソに言った。


「あんなのと婚約するわけないでしょ。女をとっかえひっかえしているようなの誰も婚約したいわけがないわ」
「……」


そこまで言うかというほど、はっきりと言った。まぁ、みんな内心で思っていることではあるが、言葉にした者はいない。

それは、いつもの難癖ではなくて、ド正論なことではあったが、そんなのと婚約したら自分なら、潔く修道院に入った方がマシとまで言った。

そこまで言い切ったところだった。ヴィリディアンは何も言わなかった。止めたら、矛先が自分に向いて、ボロクソに言われるだけだ。


「クオーラ嬢」
「……ディリッパ様」


大きな声でクオーラが言うため、辺りは静まり返っていた。この状況をどうしたらいいのかとヴィリディアンは頭を抱えたくなっているところにディリッパがこちらにやって来て声をかけた。

それを追って、最近のお気に入りの令嬢たちが後ろにいた。片方は心配そうにしていて、片方は面倒くさそうに見えた。


「君は、理解してくれているから、ほっといてくれていると思っていたんだがろ…」
「は? あなたを理解? できるわけありません。婚約しても、好き勝手に他の令嬢といる子息なんてできるわけがない」


クオーラは、不愉快そうな顔を隠そうともせずにそんなことを言った。

たぶん、この後はそもそも婚約者は私にはにいのに話しかけて来ないでくれとか言いたかったはずだが、そうはならなかった。


「……そうか。なら、君との婚約は破棄することにしよう」
「え? 私との、婚約を破棄?? あなたまで、何を言うんですか? あなたの婚約者は、ヴィリディアンですよ」
「ヴィリディアン嬢は、殿下の婚約者だ。この場にいる誰もが知っていることだ。納得いっていないのは、君だけだ」
「え……?」


クオーラは、周りを見渡してそんなことないと言ってくれる人を探したが、見つからなかった。

幼なじみは、縋るようにヴィリディアンを見た。そんな顔をされても迷惑でしかない。でも、そうなるだろうことはわかっていた。いつも、そうだ。幼なじみだからと助けるのは当たり前みたいにするのだ。


「ヴィリディアン。違うわよね?」
「私が、さっき言ったのをもう忘れたの? 私の婚約者は、アビシェク様よ」
「っ、そんなわけないわ! こんな女ったらしと婚約なんて、あり得ない!」
「うん。だから、今、破棄になったでしょ?」
「あ、そ、そうよね。よかったのよね……?」
「……」


ヴィリディアンは何も答えなかった。本人が良ければいいのではなかろうか。確認されても困る。それに同意したら、気まずいことになるだけだ。言葉にしなくとも、同じことを思っているなんて知られなくてもいいことだ。そこまで、巻き込まないでほしい。

凄い状況になっているが、クオーラはハッ!とした顔をして破棄のことを両親に話すと帰ってしまった。

……そう、クオーラが1人納得して帰ってしまったのだ。残された方は、どうしたら良いのだろうか?


「あー、殿下。まだ婚約者なので、彼女のしたことに謝罪させてください」
「あぁ、そうか。そうだな」


アビシェクは、新種の生き物に遭遇したみたいに呆然としていた。

クオーラに追いかけ回されて、こんな終わり方をしたのに思考が追いつかないのだろう。


「ヴィリディアン嬢も、すまない」
「いえ。あの、1つお聞きしても?」
「ん? 何かな?」
「あの、今回の婚約の話をどちらからなかったんですか?」
「ヴィリディアン」
「あ、いえ、ただ、幼なじみが突撃して来るのは、私のところの気がして、確認しておきたくて」
「あー、あちらからだ」


ディリッパの言葉に更に静まり返った。気温も下がった気がする。

ヴィリディアンがやらかしたわけでもないが、聞くんじゃなかったかと焦った。いや、焦るのも変だが。


「それといつも一緒にいるのは、従姉と再従妹たちだ」
「え?」
「こちらの言葉に疎いんだ。その、婚約する前だから、問題ないかと思っていたんだが……」
「そうだったのですね」


元から、女ったらしで取っ替え引っ替えしてお付き合いしていたせいで、ディリッパは誤解されていたようだ。ヴィリディアンも含めて、みんなに。

その辺を婚約者に説明するはずが、中々会えずにこんなことになったようだ。

ヴィリディアンは、何があったのかわからないように見えるディリッパの従姉とどうでも良さそうに見える再従妹たちに挨拶した。

するとディリッパたちだけでなくて、王子も驚いていた。


「話せるのか?」
「えぇ、ちょっとだけですけど」


そう、ヴィリディアンという友達が堪能なので習ったのだ。


「彼女が、堪能なので習ったんです」
「そうなのか!」


ディリッパは目を輝かせていた。そんなふりを望んでいなかったかもしれないが、友達は何とも言えない顔をして流暢に挨拶していた。

やはり、まだヴィリディアンはぎこちない気がする。

ディリッパの従姉は、それを聞いてヴィリディアンの時よりも嬉しそうに会話していた。再従妹の方は、眉を顰めていた。こちらの方は、ディリッパに他のところに行きたいと言っているようだが、ディリッパに待ってくれと言われて、ふてくされていた。

従姉たちの会話は、ヴィリディアンは半分くらいしかわからない。……いや、そこまでわからなかった。もうちょっとできると思いたかった。

それでも、話せる人ができたのを嬉しそうにしていた。やはり、言葉が不安だったようだ。

いや、1人ムスッとしているのがいる。再従妹の方の令嬢は、ディリッパとべったりしていたかったようで、終始不機嫌だった。

しかも、こちらの言葉が疎いふりをしていたようで、友達もできたと従姉がヴィリディアンたちといるようになり、再従妹もディリッパにくっついていられなくなって、数日して流暢に余計なことをしたと怒鳴られたのは、ヴィリディアンだけではなかった。

それを呆然と見ていた友達は……。


「性格悪っ!」
「あなたの幼なじみより質悪いわね」


だが、それをディリッパも見ていたため、再従妹がディリッパに甘えようとしても取り合うことはなかったのには、ざまぁみろと思ってしまったのは、内緒だ。


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