親しい友達が、みんな幼なじみみたいな厄介さをしっかり持っていたようです。私の安らげる場所は、あの方の側しかなくなりました

珠宮さくら

文字の大きさ
6 / 16

しおりを挟む

男爵夫妻が嬉しそうに帰って行った後のことだ。

いつもと変わらないかのように夕食をみんなでとってデザートを食べていた。


「シャルマ伯爵一家より、まずい連中だったのか?」
「……どうでしょう。どちらがと比べると微妙ですが、どちらも関わったら駄目なのはわかりました」
「……疲れてるのは、今回の方が酷そうだが?」
「まともそうに見えたギャップにやられました」


公爵家の跡継ぎの子息であるラジェス・ハーサンは、父がげんなりしているのを見て苦笑しながら、母が輝かんばかりの笑顔でいるのには一切触れようとしなかった。

この笑顔が機嫌がいいからではないことをこの息子はよくわかっているようだ。何があったのかをそこだけ聞こうとしなかった。流石である。

ヴィリディアンがギャップにやられたのは、男爵夫妻だけではないが、そこは言わなかった。言ったら、今後に差し障りがある。絶対にうっかりなんてできない。

だが、母親のちょっとした変化には目ざといが、義妹となったヴィリディアンの変化には疎いようだ。


「あー、ヴィリディアン。疲れているよな」
「いえ、大丈夫です」
「だが」
「なら、彼女に直接勉強を教えてもらっては?」
「っ、いや、それは、その、もう少しできてからがいい」
「私も、全然ですよ。一緒に習う方が断然いいと思いますけど」
「一緒に……? そうか。それなら……」


ラジェスが頑張っている理由は、ディリッパの従姉に一目惚れしたらしく、会話をするにも彼女の母国語が全くわからないらしく、ヴィリディアンは義兄に頼られていた。

そのことは、ディリッパにも伝えてある。ラジェスには内緒にしているが、彼の従姉もラジェスに一目惚れしているらしく、向こうはヴィリディアンにラジェスを紹介してもらえないかと頼もうとしていたのだ。

そのため、ディリッパといきなり2人っきりにするのは無理だろうからとヴィリディアンも入って勉強するという方向にして、そのうち彼女からこちらの言葉をラジェスに教えてもらう方向にディリッパが促すことになっている。

それを悟られずに動こうとしているが、ハーサン公爵夫妻にはバレている気がする。

ヴィリディアンが、チラッと養父母を見るとにこにこしていた。養母の方は、さっきまでと打って変わって穏やかにしていて、微笑ましそうにしているから、兄妹仲がいいと思っているのかもしれない。


「ふふっ、どちらが年上かわからないわね」
「……」
「本当だな。あぁしていると心配にもなるな」
「……」


バレていたようだ。部屋を出て移動しようとしたヴィリディアンは、ピタリと足を止めてしまった。


「ヴィリディアン? どうした?」
「いえ、何でもないです」


ラジェスは、不思議そうにしていて、両親の微笑ましそうな顔にも全く気づいていなかった。

……うん。このくらいの方が、あの令嬢には丁度よいはずだ。

そんなことをヴィリディアンが思っていることにも、ラジェスが気づくことはなかった。彼は、それどころではなかったようだ。

ハーサン公爵家の跡継ぎとしては、ちょっと頼りない気がするし、義兄としても頼りない気がするが、これからだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

婚約破棄した王子が見初めた男爵令嬢に王妃教育をさせる様です

Mr.後困る
恋愛
婚約破棄したハワード王子は新しく見初めたメイ男爵令嬢に 王妃教育を施す様に自らの母に頼むのだが・・・

悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。 王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。 私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!! だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。 おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。 2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます! →続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751 →王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...