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しおりを挟む幼い頃、気づいた時には、ヴァシーリーがアナスタシアの横にいつもいた。
そんな彼に絶対に来ないでと約束したのにその日も現れたのだ。それにアナスタシアは初めて彼の前で泣きそうになった。
唇をきゅっと結んで、泣きそうになるのを耐える姿にヴァシーリーは何とも言えない顔をした。
「アナスタシアの幼なじみ?」
「うん。そう」
「ふーん」
アナスタシアに着いて来たヴァシーリーは、従姉と会っていただけとわかって何とも言えない顔をしていた。
でも、アナスタシアが浮かない顔を見て、そんな顔をヴァシーリーはあまり見たことがなかった彼は眉を顰めていた。
ヴィクトリアが、じろじろと不躾に見ているのに第1王子として生まれたヴァシーリーには、あまりそんなことをしてくる者はいなかった。
アナスタシアは、取られると思っていたのにそうならなかったことに驚くばかりだった。
「アナスタシア。大丈夫か?」
「駄目」
「怒っているのか? 約束したのに来たから」
「ううん。それは、もういいの」
ヴァシーリーは、他に駄目なことをしたかと頭を悩ませた。
「ヴァシーリーは、あげない」
「?」
「絶対、あげない。あなたは、あの人にあげたくない」
「アナスタシア?」
一心不乱にヴァシーリーのことをあげないと言うアナスタシアにどうしたのかと思った。
ヴァヴィロフ侯爵夫妻は、アナスタシアの気が動転しているのに驚いていたが、ヴィクトリアに会ったと聞いて凄い顔をした。
「アナスタシアは、ヴィクトリアに色んなものを取られて来たから、あなたのことも取られると思っているのね」
「っ、」
「あなただけは、取られたくないのよ」
アナスタシアの母の言葉にヴァシーリーは、嬉しそうにした。一目惚れした相手にあげないと言われた理由がわかって嬉しそうにしたのだ。
だから、ヴァシーリーは王太子にならないと決めた。アナスタシアの婚約者になるために王太子を弟に譲った。そこに躊躇いなんてなかった。
「婚約……?」
アナスタシアは、ヴァシーリーと婚約すると聞いて驚いた。できないと思っていたのに婿入りして来ると聞いて、嬉しそうに抱きついた。
そう、第1王子と婚約したと話した辺りで、母の我慢の限界を迎えたと言っていたが、婚約して幸せそうにするアナスタシアを悲しませるわけにいかないと絶縁したのだろう。
そんなことを昔を思い出しながら、リュドミラに話していたアナスタシアは気づくことになった。
初めて取られたくないものが、アナスタシアにとってヴァシーリーだった。それ以外は、仕方がないと思って来た。
母も、叔母にそういう目にあっていた。ヴァヴィロフ侯爵家の娘のアナスタシアとカーメネフ公爵家の娘に生まれたヴィクトリア。叔父は、優しい人だが、こちらで色々ある全てを伝えていなかったのは、叔父を気遣ってのことだった。
そのせいで、アナスタシアが犠牲になり続けるのはおかしいと動いてくれたのだ。
そのおかげでアナスタシアは、絶縁したから安心だと思い込もうとした。でも、そんなのまやかしに過ぎなかった。
これで、ようやく安心できた。
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