自己中すぎる親友の勘違いに巻き込まれ、姉妹の絆がより一層深まったからこそ、お互いが試練に立ち向かえた気がします

珠宮さくら

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「すまない」
「あなたは、怪我はなさっていませんか?」
「私はしていない」
「そうですか」


姉は、何かあったのだと察したようだ。妹の頭と背中を優しく撫で続けて、どうしたのかと妹を問い詰めることはしなかった。


「お姉様」
「えぇ、私はここにいるわ。どこにも行ったりしないわ」


医者はオールポート侯爵家から急いで来てほしいと呼ばれて、姉の方が具合が悪くなったのかと血相変えてやって来た。

両親も出先から急いで戻って来たのは、姉の方に何かあったのだと思ってのことだった。

だが、どちらも、エイプリルの方ではないとわかって複雑な顔をした。


「シャーリー……?」
「どうしたの?」


姉に抱きついてシャーリーが泣いているのを見て両親は驚き、医者は驚いたのは最初だけで、しっかり診察をしていた。そこは、医者である。どう見ても、片方の頬が腫れていて、取り乱しているのだ。


「精神的にだいぶまいっているようです。頬の腫れも酷いですし、しばらくはゆっくり休んだ方が……」
「シャーリー?!」
「どうした?」


姉は、シャーリーの身体から力が抜けてびっくりしたが、医者がすぐに脈を診た。


「気を失ったようです」
「……部屋で休ませよう」


シャーリーの父が抱きかかえた。その時に頬が腫れているのを見て、父は眉を顰めずにはいられなかった。


「部屋に連れて行く。ジェレマイア、戻って来たら何があったかを話してくれ」
「わかりました」
「シャーリー」
「お前は、ここにいなさい」
「……はい」


姉は、父に言われて側にいたかったが、自分に関連することだろうと思って残るしかなかった。

医者は姉のことを心配そうにしていて、シャーリーと一緒に部屋に移動した。


「あとで、エイプリルの診察も頼む」
「わかっています。ここで、シャーリー嬢を診ています。あとで、呼んでください」


医者は、長らく姉の方を診て来たが、こんな風に取り乱すシャーリーのことを診察したことはなかった。

残された医者は、シャーリー付きのメイドと泣きつかれて眠っているシャーリーを見ていた。


「シャーリー様は、大丈夫なのですか?」
「頬の腫れは治せるが、心の傷は薬では癒せません」
「……」


医者は、何に傷ついたにしろ。心の傷を癒すのに役に立つことがあるだろうかと思っていた。


「何があったのやら。シャーリー様の取り乱すことは……」
「エイプリル様のことですね」


医者とメイドは、思い当たる人物はいるにはいたが、それを口にすることはなかった。

気にしなくともアンゼリカのことだとこの2人は思っていた。医者は、他にも診察している家があって、シャーリーにとって親友の令嬢が学園で婚約破棄をしようとして騒いでいるらしく、それが酷くて具合を悪くしている生徒がいた。

アンゼリカの元婚約者となった子息だ。突然、破棄したいと言われ、理由を聞いただけで後ろめたいことでもあるのか。それを言いたくないと言うので、理由がないのに彼の父親は破棄に同意できないと言うので、彼は必死になって理由を聞こうとしたら、全然関係ないことを言われ始めたようだ。

そこから、言われ放題でどうするんだと母親に言われ、学園で言い争うことになったせいで、精神的におかしくなりかけたのだ。

両親は、そこまでになっていると思っていなくて息子が馬鹿にされすぎていると思っていたようだが、他から息子の心配をされるようになり、診察している医者も、これ以上は精神的にギリギリだと言うとようやく詳しい話を聞くようになったのだ。

それによって、馬鹿にしているというより、そもそも話の通じる相手ではないとわかったようで、婚約破棄が成立することになった。

今では新しい婚約者と仲睦まじくしているが、いざとなると両親が役に立たないことがよく分かったと子息は思っていて、両親は信用と信頼を失ったことに気づいていない。

そんなことを知っている医者は、その令嬢がシャーリーの親友なことに驚いていた。

それに関してエイプリルが何とも言えない顔をしているのにも医者は気づいていたが、追及したことはなかった。


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