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しおりを挟むそんなことがあって、御者が振動の少ないように馬を操ってくれていたことも、ジェレマイアが抱きかかえた方が速そうだと思って見ていることにも気づかないまま、シャーリーはオールポート侯爵家にたどり着いた。
頬の痛みで打ちひしがれているのではない。シャーリーが心を痛めているのは、親友だった令嬢からの物理的な痛みによってではない。
シャーリーは、どんなことを言われても感情をあらわにすることはない。頬を平手打ちされようとも、仕返しをしようとは思っていなかった。
でも、そこに姉が絡んで来ると色々と変わってくる。それは、昔からだ。シャーリーにとっての命そのものは自分の心臓ではなくて、姉の方にあった。
シャーリーは物心がつく前から病弱で家からあまり出れないが、最近は婚約者も留学して来ているのもあって、楽しそうにしていた。
嫁ぎ先が隣国だが、相思相愛の2人を引き離すなんてできないほどだった。姉は病弱だが、とても頭がいい人で、こちらの学園では自宅で課題をしたら、単位が取れるというシステムではないため、隣国の学園の課題をこなして特待生となっている。
そこで、ジェレマイアは姉のことを知って文通がはじまり、気になって会いに来て一目惚れをした。しかも、お互いに。
シャーリーは、姉と文通している子息がいたのも知らなかったが、わざわざ会いに来たのにどれほど驚いたことか。
どんな子息なのかと疑心暗鬼になりかけていたが、姉が見たことないほど嬉しいそうに微笑んだのを見て、自分の感情などどうでもよくなった。
姉が、心の底から喜ぶ相手と出会えたことにシャーリーも笑顔になっていた。そこから、姉に大事な妹とと紹介されて喜んでいた。
そこから色々あって婚約をした。病弱なこともあり、ジェレマイアの両親が心配したようだ。その心配は、アンゼリカのようなことではなかった。
嫁いで来るのに移動があるが、大丈夫なのかと言うようなことを気にしたようだ。頭の良さは学園からのお墨付きが出ている令嬢だ。そんな令嬢が、ジェレマイアの妻になるのを喜んでくれているようで、体調を心配していた。
彼の母親も、病気がちで嫁いで来る時に色々あった方のようで、理解ある両親だったようだ。
そんな母でも、ジェレマイアという息子を産んだのだからと嫁いで来てくれるのなら、そんな1人息子が選んだ令嬢に来てほしいと言うのが、彼の両親の本音なようだ。
そんなジェレマイアもまた、とても優秀な人物らしく、何かと忙しい身の上のようだが、こちらに留学しにまで来て婚約者と一緒にいようとしていた。
その間にどんな風に具合を悪くするのか。その時にどういう風にしたら、苦しいのが緩和されるのかと見ているようだ。
それが、どこをどうしたら、あんな勘違いができて、アンゼリカは婚約を破棄までしたのやら。元より、強引で自己中すぎたのだ。他からしたら今更だと言われそうだが、シャーリーには謎でしかなかったが、今回ばかりは許せなかった。
そんな色んな感情が、うずまいていた時に姉が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。……シャーリー? どうしたの?」
「お姉様」
「まぁ、私の可愛いシャーリーのほっぺたが……、なんてことなの。痛いでしょう。すぐにお医者様を呼んで」
「はい」
部屋ではなく、今日は具合がいいのか。そろそろ帰って来ると思って、リビングにいた姉のエイプリル・オールポートを見て、優しい声音で声をかけられてシャーリーは泣き出した。
「お姉様」
「泣くほど痛いのね。可哀想に。冷やすものも、お願いね」
「はい」
子供のように泣きじゃくるシャーリーに姉は、一緒にやって来た婚約者を見た。その間も、妹の頭や背中を撫でていた。それは、幼い頃から変わることはない。姉は自分が苦しい時でも、妹にこうして世話をやこうとしてくれた。
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