自己中すぎる親友の勘違いに巻き込まれ、姉妹の絆がより一層深まったからこそ、お互いが試練に立ち向かえた気がします

珠宮さくら

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「……よくわからないが、シャーリー嬢の頬が腫れている原因は、君なのか?」
「その女が、私が婚約するはずだったのに横取りするのがいけないんです!」
「横取り……?」


ジェレマイアは、その言葉に目をパチクリさせた。気を利かせて冷やすものを持って来た令嬢がシャーリーの頬を冷やそうとしているのを見ながら……。


「……シャーリー嬢、婚約したのか?」
「いえ、まだしていません」


シャーリーの言葉にアンゼリカは、まだってつけるのねと白々しいとばかりにしていた。


「婚約したかった子息を取られたからと言って、こんなことをするのか? しかも、どうも君の勘違いのようだが……」


ジェレマイアは信じられない者を見る目をしていた。元より婚約破棄する時に散々騒ぎ立てていたのを見ていたのもあり、何を言っても話が通じそうもないと思ってもいた。

それよりも、ジェレマイアは辛そうに見えるシャーリーを送ることを優先した。


「シャーリー嬢、家まで送る」
「やっぱり! 婚約間近なんじゃない!!」
「……それは、私たちのことを言っているのか? だとしたら、誤解もいいところだ。私は、シャーリー嬢の姉と婚約している」
「へ?」


留学して来ているのも、姉に会いたくて来ていたのだ。だが、アンゼリカは誤解をしていた以上に酷いことを更に言った。


「嘘でしょ。あんな病弱なのと婚約したの?」
「っ、!?」


シャーリーの姉は確かに病弱な人だが、親友だと思っていたアンゼリカがそんな風に思っているとは思いもしなかった。それを平然と言葉にしたことにも驚いてしまった。

友達の令嬢も、アンゼリカの言葉に息を呑みこんだ。それは、周りに集まって来ている学園生たちも、ぎょっとすることだった。

ジェレマイアは冷めきった目でアンゼリカを見ながら、こう言った。


「シャーリー嬢。こんなのと親友でいるのは、すぐに考え直した方がいい」
「……私も、そう思っていました。アンゼリカ、わけのわからない勘違いで私の頬を平手打ちしたこと。それとお姉様を侮辱したことは、そちらの家にきっちりと苦情と抗議をさせてもらうわ」
「は? ただの勘違いと本当のことじゃない」
「っ、」


シャーリーは、腸が煮えくり返る思いをしていた。思わず、アンゼリカを平手打ちしそうになっていた。それを止めたのは、ジェレマイアだった。


「シャーリー嬢。手をあげるな。私の方からも、君の家に苦情と抗議をしてもらう。私の婚約者を侮辱したことと婚約者の大事な妹を傷つけたんだ。ただでは済まさない」
「っ、」


シャーリーの言ったことより、ジェレマイアに言われた方がアンゼリカは傷ついた顔をしていた。

すると謝罪することなく、大袈裟だと言いながら、逃げて行く姿にシャーリーたちは呆れるしかなかった。

それこそ、ジェレマイアと婚約するのは自分の方だったとアンゼリカは言っていたが、ジェレマイアは全く知らないことだったことにもシャーリーは驚いた。


「私と婚約する気でいるなんて、おかしな話だ。私は、随分前から婚約しているというのに」
「……」


留学する前から、ジェレマイアはシャーリーの姉と婚約しているのだ。あの調子でアンゼリカが勘違いしていたのだろうと思っても、シャーリーは頬の痛みよりも、姉のことをあんな風に思っていたことに気づいていなかった自分に腹が立って仕方がなかった。


「シャーリー嬢。家に帰って、きちんと冷やした方がいい」
「……やり返したいと思ったのは、生まれて初めてです」
「止めたのを怒っているか?」
「いえ、そんなことしたら、お姉様が気になさるでしょう。止めてくださって、ありがとうございます」


ジェレマイアは、シャーリーが殴ろうとしていなかったら、自分が手を上げていたとぽつりと呟いていて、シャーリーはそれに驚きながら、心配する友達に驚かせたことを謝罪しつつ、冷やしてくれたハンカチの礼などを述べて帰路についた。

もしかするとこうして、侯爵家に立ち寄って姉に会ってから帰るジェレマイアのことを勘違いしたのかも知れない。

一緒に帰っていても話すことは姉のことが中心でしかないが、この時のシャーリーはそんな話をする気力も残ってはいなくて、ぐったりしていた。

それをジェレマイアが心配そうにしながら、御者に振動の少ない速度で頼んでいた。頬がかなり腫れているのを見て、気分が悪くならないかと気が気ではなかったが、そんな気遣いもわからないほどシャーリーはアンゼリカの言った言葉に腹を立てていた。


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