6 / 14
6
しおりを挟むヴィディヤは、気を引き締めねばならないと思いを新たにしたが、すぐに途方に暮れてしまったが、そんなことになっている原因の方は、全く別のことで頭がいっぱいだった。
トリシュナは、あのあと帰宅するなり、ドタバタと廊下を歩き、ノックもせずに母の部屋に突撃していた。
「お母様! 王太子の婚約者がとっくに決まっていたのをご存じですか?!」
「あら、そうなの?」
公爵夫人は、娘にその話をできずにいたが、すっとぼけることにしたようだ。元より、随分経っているのだが、情報源が限られていることもあり、そんなに経っていると公爵夫人が誤認していた。自分が知っていることを最新情報のようにしたいのだが、無理がありすぎた。
でも、娘にはそれで誤魔化せているため、他にも通じると思っていた。都合のいい頭を昔からしていた。
そして、娘がノックもなく部屋に入って来ても全く気にしていなかった。普通は、ノックをしろと言うところのはずだが、母親も娘の部屋にはノックなしに入るため、そういうものだと2人は思っていた。
そこからわかるだろうが、この親子に常識はない。マイルールがあるだけだ。
そんな人たちの側で働く面々は、非常識な人たちに顔色1つ変えたりしない。お給料がいいから、辞めたくないだけで、この家に義理立てしているわけでも、忠誠を誓っているわけでもない。そのお金が見合わなくなれば、みんなこぞって辞めるだろう人たちしかいない。
それはさておき、母親の反応から母も知らなかったのだとトリシュナは思ったようだ。そもそもの元凶は母親だというのにトリシュナは、母を疑うことをしなかった。そういう風に幼い頃から、母を手本に育ってきたからこうなったのだ。
そして、元の性格から、母を凌ぐ逸材に成長しているが、その辺までは公爵夫人も気づいていなかったりする。自己中が、自己中を育てるとこうなるという令嬢になっているが、適当に相手をしていて、ちゃんと見ていないせいで取り返しのつかないことにとっくになっていることにも公爵夫妻は気づいていなかった。
「ヴィディヤが、婚約者になるなんて、信じられない!!」
「あら、あの女の娘が選ばれたの? それは信じられないわね」
トリシュナの母親は、ヴィディヤの母親が昔から気に入らなかった。そのため、あの女の娘が王太子の婚約者に選ばれたと聞いて、腹が立って仕方がなかったのだ。それも、つい最近知った。
その上、王太子妃となる令嬢の母親にあの女がなるのだと思うとイライラして仕方がなかった。だから、娘に嘘を吹き込んだ。でも、そのくらいでは婚約が台無しになることはなかったようだ。
最低女の娘は、最低なのだと思われればいいと思ってのことだが、少しはまともなのが、その通りだと思っているに違いないと思っていた。
だが、そのことで娘が学園でどう思われることになるかまでは考えていなかった。全ては、気に入らない女の娘が、母親もろとも、酷い目にあえばいいと思っているだけに過ぎなかった。
酷い目にあいそうなのが、自分たちになるとは彼女たちの頭には欠片もなかった。
彼女は、娘同士を幼なじみのようにして、何かにつけてトリシュナをヴィディヤの側にいさせた。
王太子の婚約者になるのは、自分の娘だとずっと思っていたからこそ、幼い頃から幼なじみに仕立て上げることにしたのだ。
なのに王太子の婚約者になぜか選ばれなかったのだ。そこで、娘を責め立てるなんてことを公爵夫人はしなかったし、する気もなかった。
選ばれた方が何かしらしたからだと即座に思ったのだ。あの女の娘なのだ。どちらも、最低最悪にきまっている。そうでなければ、自分の娘が選ばれないなんてことはないと本気で思っていた。
それこそ、トリシュナは成績も酷く、礼儀作法もここまで酷い方は初めてだと言われてきたが、それは先生たちの教え方が、下手だったからだ。そんな風に思っているような母親だ。
自分に似ている娘が、人並み以下のこともできないはずがない。そう思って、これまで過ごしてきたのだ。
トリシュナが家庭教師に教わるのを見学することは一度もなく、今は学園の成績も見ようともしていない。わかりきったものを見る気がしなかったのだ。
それこそ、何も教わらずとも人並み以上に生まれながらに自分の娘は優秀だと思っていた。かなり本気で、そう思っていた。根拠は、自分が優秀すぎて妬まれたからだ。
だから、未だにどこにも呼ばれないのだ。そこまで嫉妬される存在なのだと本気で思っていた。
そもそも、自分に似ているのなら、そこそこでしかないと思わないところに問題しかなかったが、そこには行き着くことはなかった。
公爵夫人がパーティーに呼ばれなくなっているのも、礼儀の欠片もないせいだとは思っていない。
王太子に挨拶すらまともにできないのは、トリシュナは母親譲りでしかなかったりするのだが、それがわかっていなかった。
そんな母娘に苦労させられているのは、公爵だ。それこそ、どこに出しても恥ずかしい娘と妻しか家にはいないのだ。そんな家に帰って来なくなっていた。
彼は愛人のところを我が家のようにしていた。妻は、好きにさせておけば、仕事が忙しいと言って家に帰らずとも、グダグダ言うことはなかったため、公爵は家でとんでもないことを母親が娘に吹き込み続けていることすら知らなかった。
何より、母親に似すぎた娘を公爵は生まれてから一度も可愛いと思ってすらいなかった。それよりも、愛人が産んだ子供たちの方がまともで、血の恐ろしさを感じずにはいられなかった。
そのせいで、公爵家が危ういことになっているのだが、そんなことにも気づかずに愛人と可愛いがっている子供たちとの時間を大事にしていた。
そのせいで、とんでもない迷惑をかけていることに全く気づいていなかった。
86
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
聖女をぶん殴った女が妻になった。「貴女を愛することはありません」と言ったら、「はい、知ってます」と言われた。
下菊みこと
恋愛
主人公は、聖女をぶん殴った女を妻に迎えた。迎えたというか、強制的にそうなった。幼馴染を愛する主人公は、「貴女を愛することはありません」というが、返答は予想外のもの。
この結婚の先に、幸せはあるだろうか?
小説家になろう様でも投稿しています。
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
それって冤罪ですよね? 名誉棄損で訴えさせていただきます!
柊
恋愛
伯爵令嬢カトリーヌ・ベルテに呼び出された男爵令嬢アンヌ・コルネ。
手紙に書いてあった場所へ行くと、カトリーヌだけではなく、マリー・ダナ、イザベル・クレマンの3人に待ち受けられていた。
言われたことは……。
※pixiv、小説家になろう、カクヨムにも同じものを投稿しております。
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~
真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。
自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。
回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの?
*後編投稿済み。これにて完結です。
*ハピエンではないので注意。
公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。
「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」
ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。
本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる