幼なじみは、私に何を求めているのでしょう?自己中な彼女の頑張りどころが全くわかりませんが、私は強くなれているようです

珠宮さくら

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公爵は、久々に家に慌てて帰った。いつもなら、愛人たちが待つところに機嫌よく帰っているところだが、寄り付きたくもないところに来ていて、そこに来ること以上に機嫌を悪くしていた。


「トリシュナ!!」
「え? お父様??」
「あら、お珍しいこと。仕事が一段落ついたのですか?」


大慌てで、ここに来た公爵は、娘を大声で呼んだ。娘の部屋が、どこなのかを知らなかったからに他ならない。

ついでにこの公爵は、妻の部屋もどこかなんて覚えていない。そんなこと、どうでもいいことだ。もう、ここにこの妻子と住む気はないのだ。

すると妻も、出てきた。なんだかんだ言っても、公爵が帰ってくるのを待っていたようだ。それは、嬉しいことではなくて、公爵には鬱陶しいことでしかなくなっているが、久しぶりに見た好かれてに眉を顰めるばかりだった。

この妻は、夫が愛人のところにいることを知らなかった。パーティーにも、お茶会にも、滅多に呼ばれないせいで、街や使用人たちの噂を耳にして情報を集めるしかなかった。もっとも家に居過ぎて、体型がすっかり崩れてしまっている彼女は、家から出るのも億劫になってしまっているため、街に出かけることも、若い頃に比べてめっきり減った。

本人は、ぽっちゃりとか思っているが、そんな可愛いものではないことに気づいてはいない。そんな妻の変りはてた姿を視界にいれるのも心底嫌そうにしながら、怒鳴ったのはお飾りの妻に対してだった。


「お前が、ついていながら、どうなっているんだ!!」
「は? いきなり、何ですか?」


帰って来るなり、出迎えているというのに怒鳴りつける夫に眉を顰めた。彼女は、歩くのも面倒くさくなっているのだ。それを頑張って出迎えたというのに怒鳴られたくなどないと言わんばかりだった。


「王太子と侯爵家から、苦情と抗議が来た。王太子の婚約者候補にも上がっていないのに騒ぎ立て、半年も前に決まった婚約者を散々馬鹿にしたとあったが、本当なのか?!」


公爵は、必要なものがこの家ではなく、愛人といる方に届くように最近になってしたが、それを見るなり慌てて、こちらに来たところだった。


「だって、ヴィディヤよ? あんなのが、相応しいわけないわ」
「そうですとも。あの女の娘が、王太子妃になるなんてあり得ないわ。この子こそ、王太子に相応しいのよ。それをどんな手を使ったんだか知らないけど、あなたからも言ってやってくださいな。そんなのを送って来るくらいですもの。図に乗っているとしか思えませんわ」


案の定、母はすぐさま娘の肩を持った。更には、あちらに言い返せとまで言ったのだ。非など、トリシュナにあるわけがないと言わんばかりだった。

それを聞いて、父親はトリシュナを冷めた目で見つめた。


「お前は、王太子を前にして、礼の1つもせずに立ち尽くしていたとあったが?」


それにすぐさま返答したのは、トリシュナではなかった。聞き捨てならないとばかりに反論したのは母親の方だった。


「は? トリシュナが、そんなことするわけありませんわ。そうでしょ? 王太子の婚約者に相応しいのは、この子です。この子以外にありえませんわ」


トリシュナは、何も言えずに視線を彷徨わせた。礼儀作法なんて、面倒できちんと勉強したことはないのだ。生まれながら、彼女は公爵令嬢だ。王太子と婚約したら、適当でも許されるとすら思っていた。

そう何もかも思いのままになるはずだから、頑張る必要などないと思っていた。そんなわけないのだが、都合のいい解釈をしていた。

母親以上に自分中心な考え方をしていたが、それに母は全く気づいていなかった。


「どうあっても、白を切るんだな。だが、学園からも手紙が来ている。トリシュナの成績が、卒業するために全く足りていないから、留年するしかないとな」


公爵は、それにも驚いた。それこそ、再三、公爵家に手紙を出していたのにもう決定事項となってから、公爵はどうなっているかと問い合わせたため、学園の方は呆れていた。その手紙をずっと帰っていないこの家に送っていたのだ。それを公爵夫人は見ていなかったことになる。


「なっ?! それこそ、そんなわけありませんわ! 王太子の婚約者が侯爵に頼んで、何かしたに決まってます!!」


母親は、すぐさまそう言った。だが、トリシュナはケロッとしていた。母とは違って、大したことないとばかりにこう言った。


「あぁ、そのこと。そんな成績が足りないくらい、お金でどうにでもなるでしょ?」
「「は?」」


娘の言葉に両親は、2人とも間抜けな声を出した。母親は、トリシュナのことを初めて奇妙なものだと思った。それは、娘が生まれて初めてのことだった。


「金で、どうこうするつもりで、こんな成績を取っていたのか?!」


学園に問い合わせて、散々なものを見ることになった公爵は、トリシュナの言葉にそんなことを言った。

それにしては、酷すぎる。どんなに金を積んでも隠しきれはしないだろうほどの酷さなのにトリシュナには対したことないことのようだ。


「勉強なんて、しなくとも、玉の輿にのりさえすれば、贅沢できるから必要ないでしょ」


その言い分に母親も絶句したが、トリシュナはそれに気づいていなかった。

公爵は、全く理解していないトリシュナに話した。


「最低限、礼儀作法ができなければ、公爵家の娘であろうとも、嫁にしたがるところなんてどこにもないぞ。そもそも、お前は、この母親の娘と言われているんだ。勉強が人並み以上にできたところで、婚約者を見つけるのは無理がある」
「お父様まで、勘違いしているの? それは、ヴィディヤの母親の話でしょ」


トリシュナは、父までも勘違いしているのかと言う顔をした。それを見て、父親の方が呆れた顔をした。


「何を言ってるんだ。周りに言われているのではないか? お前の母親がやっていたことだ。よく考えてみろ。そのせいで、お前たちをパーティーに招待しようとしなんいんだろうが」
「え? でも、お母様は……」


トリシュナは、父親までもが周りと同じことを言うのに眉を顰めた。そんなはずないのだ。そう思って、トリシュナは母を見た。

だが、母は夫から突きつけられた書類をさっくり目にした。


「トリシュナ。こんな成績しか取れていないの?」
「え? あ、うん。でも、どうにでもなるでしょ?」
「……信じられない。全然、私に似てないわ」
「お母様……?」


留年するしかないという成績表を母は見て、その酷さに目眩を覚えた。それを見た瞬間から、トリシュナは自分には欠片も似ていないと思った。

似たりよったりでも、ここまで公爵夫人は若かりし頃を思い出して、悪くはなかったと思っていた。

それこそ、留年するまでにはならなかったのだ。たとえ、ギリギリでも、学園からの手紙なんてもらったことは一度もなかった。

だが、この母親が娘をそういう風に育てたようなものだ。まぁ、途中から自分流を極めたようになっただけなのだが、公爵夫人は自分のせいだと思うことは決してなかった。

全て、娘が似ていなかったせいだと思うだけだった。


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