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しおりを挟む(ラウラの妹視点)
私にとって、あんなのを姉と呼ぶのも嫌でならなかった。そんな女が、我が家どこらか。このアデル国からようやくいなくなったことに喜んでいた。でも、大喜びするまでには至らなかった。
なぜなら物凄く癪だが、あの女はイネス国の侯爵令嬢になったのだ。それも一時的なことだろうとも、癪なことに変わりはない。本当にそこだけが腹が立って仕方がなかった。
それもこれも、私が隣国の王太子に見初められて婚約しやすいように気を利かせてくれたからだ。そこは、有り難いとしか言いようがなかったし、浮かれずにはいられなかった。
両親も、兄も、そう思っていた。何より私が一番そわそわした長期休暇を過ごしていた。その知らせがいつ来てもいいように朝早くから夜遅くまでバッチリにしていたが、一向に知らせが来ることがないまま、新学期が始まってしまった。
新学期にあわせて他国の留学生がたくさん来ると聞いていたのもあり、もしかして留学生に紛れて王太子が来るのかも知れないと思った。
この国に見目麗しい令嬢がいると聞きつけて来たがっていると聞いていたこともあり、馬鹿みたいに自分のことだと思っている令嬢たちがいて、鼻で笑ってしまった。
自意識過剰すぎるのよ。王太子の婚約者に選ばれるほどの私以上の令嬢がいるわけがないというのに。王太子は、この国随一の美人だから婚約したがっていると両親が話しているのを聞いていたから、婚約するのに色々と手続きが上手くいかないだけだろうとか、一目見るついでに驚かせたいのかも知れないとか。あれこれと私は考えて、それに対応できるようにしておいた。そのくらいできなきゃ、王太子の婚約者にはなれないわよね。
王太子との婚約が一番だとしても、まだ婚約者ではないのだから、留学生にちやほやされたところで問題ないはずだ。これだから、美人に生まれると大変なのよね。それにこれだけ待たせているのだから、やきもきさせたって悪くないはず。
そんなことを思っていたら……。
「え? もう、帰ってしまったの?!」
「そう、みたい」
美形の子息たちは、留学して来るなり群がる令嬢たちに迷惑そうにしていたため、私が蹴散らしてあげていた。
「ヴェルニエ? なら、君の家に美人の令嬢がいるはずだが、学園には来ていないのか?」
「え? 私の家に令嬢は、私しかいませんけど?」
「そんなわけないだろ!」
「は? いないものはいません」
そこから、姉のことを探していることがわかったが、そこでなぜやっといなくなった姉のことが出て来るのかが全くわからなかった。だから養子となって、もういないと言えば、次の日にはもう用はなくなったとばかりに留学をやめていなくなってしまったのだ。
どうなっているのよ!?
どいつも、こいつも、留学生は姉のことをこの国どころか。この世界でも美人の令嬢だと思っているようで、イライラして仕方がなかった。
気づけば、この国の美人は養子になってイネス国にいるとわかるや否や留学生たちはあっという間に留学を切り上げて帰ってしまっていた。
1人残らず、あっという間にいなくなってしまっていて、学園では……。
「一体、何だったの?」
「まさか、他所の国では美人の価値観が違うのかも」
「は? まさか、そんなわけないわよ。あんな気味の悪いのが、美人? ありえないわ」
「そ、そうよね」
そこから、隣国の王太子との婚約の話がいつ来てもいいようにするのに両親は必死になっていたし、私もそうしていた。
でも、隣国からではなくて、この国の王太子からの婚約の話が舞い込んで来て、色々と勘違いしたようだとなったのは、わりとすぐのことだった。
私は、自国の王太子との婚約の話なら、これまで断り続けて来た子息との婚約の方がマシだったと怒鳴り散らしたくなった。
それでも、王太子との婚約なら贅沢ができる。そう思って、嫌々ながらも承諾して婚約した。本当に渋々、了承した。
その頃には、兄も婚約していた。そこそこの美人と楽しげにしているかと思いきや……。
「あれがほしい。これがほしいと出かけるたびに買わされる」
「お兄様も、大変ね」
「何を言ってるんだ。お前の方こそ、大変になるだろ」
「私が、何で?」
兄が何を言っているのか全くわからなかった。すると兄は呆れた顔をした。そんな顔をされるおわれはないとばかりに私はムッとした顔をした。
「王太子妃になるんだ。お妃教育が始まるだろ」
「お妃、教育……?」
私は、目をパチクリさせた。両親は、王太子と婚約したら何不自由なく好き勝手なことができると耳にタコができるほど、よく言っていた。それ以外のことは言ってはいなかったのに。教育って、何のことだと思ったのだ。
ただですら、学園の勉強もしたくないのに。王太子と婚約した途端、更に勉強しなければならないなんて聞いていない。そう、私は全く聞いていなかった。王太子と婚約したら、そんなことをしなければならないなんて誰も教えてくれなかった。
兄の話を聞いて、両親に怒ると……。
「お前は、あいつと違ってやろうと思えばできるだろ?」
「そうよ。あのいなくなったのでも、簡単に同学年の娘たちの一番になれるくらいだもの」
「一番……?」
「そうよ。頭のできだけはよかったみたいだわ」
「そうだな。あの髪と目さえしていなければ置いておいてもよかったんだがな」
「っ、」
あの女にできたと聞いて、できないとか。したくないなんて言いたくなかった。……言えなかった。
そう、私がちょっと頑張れば、簡単に超えられるはず。そんな難しいわけがない。
でも、私がどんなに頑張っても上手くできなくて、そのうち、王太子からも両親からも、兄からも色々と言われるようになった。
「こんなこともてきないのか?」
「っ、!?」
「おい、もっと頑張れるだろ?」
「そうよ。しっかりして頂戴」
「あの女でもできたのにできないはずがないだろ。何をやってるんだ」
周りからは、責め立てられていた。私は必死になって頑張っているのに何一つとして認めてもらえないまま、ストレスが溜まっていく一方になって我慢ならなかった。周りに怒鳴り散らしていたら……。
「え? 婚約破棄……?」
「そうだ。全く、恥さらしがいなくなったと思っていたのに。お前まで、恥をさらすとは思わなかった」
両親は、心底失望したかのように私を見ていた。その目は、あの女に向けているものだったはずなのに。今は私に向けられている。それに腹が立っていた。
「全くですよ。私たちの娘なら、勉強くらいできるでしょうに」
「……嘘つき」
「「?」」
「何が、私たちの娘ならよ! お父様たちが学生時代、成績が酷かったの知ってるのよ!」
「「なっ、!?」」
そう、散々なことを言って来るだけの周りにイラッとして、知っていることを言えば逆ギレされた。
兄は、そんな言い争う姿に関わりたくないとばかりに部屋に行ってしまった。婚約破棄になるような妹の味方なんてしたら、自分の婚約も危ういとでも思ったのか。もう既に危ういのかはわからないが、薄情なもので子爵家で味方になってくれる人も、学園ですら誰もいなくなっていた。
そんな私が傷物になったからと修道院に入ることになったのは、それから間もなくのことだった。
そこまでになって、姉は生まれた時から虐げられてきたのだと思うと髪と目のことだけで、馬鹿にするのが当たり前となっていて何も深く考えずに周りと同じように。いや、それ以上に酷いことを散々したことが思い出されて、申し訳ない気持ちになっていた。
両親がそうしていたから、兄がしていたから、私は何の疑いも持たずに同じことをしていた。学園でも、当たり前のように同じ考えを持っている連中ばかりだから、それが当たり前だと思っていたが、自分がこんな目にあって見るとおかしすぎたのだ。
今更かも知れないが、私は……。
「お姉様。ごめんなさい」
もう、会うことはない姉にそんな風に謝罪する気持ちになったのも、自分が散々な目にあってからだったが、それでも何も気づかないままの両親や兄、周りの人たちよりも人間になれた気がした。
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