姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです

珠宮さくら

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プレストン侯爵家で、楽しそうに話す男女がいた。片方は、この家に住んではいない。しばらく前から、それがこの屋敷で見慣れた光景となっていた。

もっとも、帰って来るなり使用人が言いにくそうにするのを見て、今日も来ているのかと楽しげにしているのを見ることになるのがわかるのだ。使用人にも申し訳なくなってきていた。毎回、それを伝えなければならないのだ。

だが、今ではそれを聞いていた方は言葉にされずとも表情だけでわかってしまった。それですら、心苦しそうに使用人にされるのだ。教えられる方は、もっとやるせない気持ちになってしまう。

出先にいる時より帰って来た時が、どっと疲れてしまう日々を過ごしていた。帰って来るなり、ため息をつくようになったのも、最近だ。

もっと遅く帰ってくれば会わなくていいのかもしれないが、そんなことをわざわざするのも癪だった。この屋敷に住んでいるのに帰るのに気を遣うのも変な話だ。遠慮なんてする必要など、なにもないというのにこの状況のせいで、遠慮しなければならないかのようにそれているのも癪でしかなかった。

その原因の1人である女性の方は、この屋敷の長女であるアミーリア・プレストンだ。彼女は、好き勝手なことをしていた。

そして、男性の方は伯爵家の子息のバージル・デイビーズ。プレストン侯爵家に入り浸り気味で、好き勝手なことばかりしていた。それも、アミーリアが許していたことが大きかった。


「随分と楽しそうですね」


この2人は、いつも楽しそうにしていた。そう言うのは嫌味でしかないというのにそれが通じたことはない。どれだけ図太いのかと思ってしまうほど、通じてなかった。

一体、何を言ったら通じるのやら。通じる日は来ないかのようになっていた。


「あら、オーガスタ。帰って来たのね」
「お邪魔しているよ。オーガスタ嬢」
「いらっしゃいませ。バージル様」


さも当たり前となっているやり取りだが、彼は姉の婚約者ではない。今、オーガスタと呼ばれるこの家の次女の婚約者だ。

それなのに姉とばかりいるのだ。

父が、オーガスタにデイビーズ伯爵家の子息と婚約したと言ったのだから、そのはずだ。だが、婚約してからオーガスタを無視して、2人で楽しげにしていた。段々とエスカレートしていって、今やオーガスタが不在でもお構いなしだったりするのだから、困ってしまう。困ってしまうといえのも変なのだが、どうにもオーガスタをのけ者にしたがるのだ。

その癖、オーガスタが側にいれば、何でずっといるのかと言う顔をされるのだ。姉だけでなく、両方からされるのだから、たまったものではない。

そのせいで、自分の家なのにオーガスタは非常に居心地の悪い思いをしている。全てがストレスでしかない。なのにオーガスタの方が悪いかのようにされるのだから、謎でしかない。


「さて、オーガスタ嬢も帰って来たようだし、私はそろそろ帰るとするかな」
「……」


オーガスタの嫌味の返しのつもりか。わざとらしくバージルはそう言うようになった。それにも、オーガスタはイラッとしていた。

あなたの婚約者にその態度はあからさますぎないかと言ってやりたいが、姉がすぐさま応対してしまうのだ。


「そうですか? では、お見送りをいたします」
「……」


もう一度言うが、バージルはオーガスタの婚約者だ。なのに姉ですら、この調子なのだ。イライラしないわけがない。

これじゃ、どっちの婚約者かわかったものじゃない。全く知らない人が見たら、お邪魔虫はオーガスタにしか見えないはずだ。

見送ろうとしても、オーガスタは必要ないかのようにされていて、それに気づいて以来、オーガスタはしなくなった。

バージルは、アミーリアさえいればいいのは明らかだ。そのため、オーガスタは見送ることすらしなくなって、どのくらいになるか。

婚約して、数ヶ月にして、解消してしまいたくなっていた。それどころか。こんなに仲良くしているのなら、2人が婚約すればいいのにとすら思い始めていた。

それをする気がないのか。世間体を気にしているのはわからないが、オーガスタのストレスは消えることはなかった。


「全く、気が利かないんだから」
「……」


アミーリアは、そんなことを言いながら、オーガスタがすべきことをして戻って来た。それを耳にしてムカついた。

そっくりそのまま返してやりたい。気が利かないのは、姉の方だ。

オーガスタは、何を言い出すのかとアミーリアを見た。その目はイラついていたはずだ。目だけではない。態度も、そうだ。

それなのに姉の方は……。


「オーガスタ。バージル様に気を遣わせるようなことはしないでよね」
「……本気で言っているの?」
「そうよ。当たり前でしょ。何を今更なこと言ってるのよ」
「……」


姉の言葉にオーガスタは、更にイラッとしてしまった。何で、アミーリアにそんなことを言われなければならないのか。オーガスタにはさっぱりわからなかった。気を遣わせるのは、おかしな話だ。婚約者は、オーガスタの方なのだ。それを婚約者の姉と仲良くして、気を遣わせているのは、2人の方ではないか。

それこそ、言ってやりたいのは、こちらの方だとオーガスタは言葉にすることにした。


「お姉様こそ、何を考えているの?」
「何って、何がよ?」
「はっきり言わないとわからないわけ?」


オーガスタは、流石にそこまで言わずともわかっていてわざとしていると思っていた。だが、何やら惚けるにしても妙なのだ。

勝てない喧嘩をわざわざふっかけるとは思えない。勝算があるのは明白だとしても、婚約してからにしてほしい。


「それは、こっちの台詞よ。婚約者といるのを邪魔しないでよ」
「は? 婚約者といる……? 何、言ってるの??」


姉の言葉にさも、自分の婚約者のように言うのにオーガスタはわけのわからない顔をした。これは、惚けている以前の問題のようだ。

アミーリアが、わざとしていると思っていたオーガスタは、何やらおかしなことになっていることで頭の中が混乱したのは、すぐだった。

そこに出かけていた両親が戻って来た。


「どうした?」
「また、姉妹喧嘩? いい加減になさい。昔は、仲が良かったのに最近、変よ」


この両親は、いつまでも仲がいい。父は、忙しくしているが、母との時間は取っている。同じくらいとは言わないが、娘たちにもその時間をわけてくれてもいいと思うが、母が一番な人だ。

かと言って、ぞんざいにされているかというとぞんざいというか。雑なところがあったりする。なにせ、オーガスタの婚約の話も、デイビーズ伯爵家の子息と婚約者したからと言うだけで、その後は母が最近、何に興味があるかの話題だった。

誕生日や記念日を大事にしているのは、悪いことではない。良いことだ。だが、オーガスタとしては、婚約者の話をもっと詳しく聞きたかったが、父には娘の婚約話より、母のことが知りたいようだ。

まぁ、この家では、いつものことだが。


「お姉様が、おかしなこと言うのだもの」
「はぁ? そっちでしょ。お父様たちからも言ってやってよ。私が、婚約者といると妬んでいるのか。毎回、邪魔して来るのよ。いい加減にしてほしいわ」


アミーリアの言葉に両親が、きょとんとした。それを見てオーガスタは、やっぱり自分が正しいと思った。


「お前の婚約者……?」
「何を言っているの? アミーリアには、婚約者なんていないでしょ?」
「え?」


両親の話を聞いて、オーガスタはやっぱりとばかりにこう言ったのは、すぐだった。


「おかしなこと言ってるのは、そっちよ。バージル様は、私の婚約者よ!」
「ん?」
「?」


オーガスタが、そう言うと父が首を傾げた。それにオーガスタは同じように首を傾げてしまった。

そうだと言ってもらえると思っていたのに母の方も、不思議そうにしていた。それこそ、この子たちは何を言っているのかしら?と言う顔をしている。

オーガスタとしては、そんな顔をされる理由は全くないため、あれ?なんだろうこの空気。思っていたのと違うなと思っていた。


「オーガスタ。あなたの婚約者は、チェスター様よ」
「え……?」
「そうだぞ。デイビーズ伯爵家の長男の方だ。バージルは、次男だったはずだ」
「次男……?」


どうやら、オーガスタの婚約者はバージルの兄の方とだったようだ。それを聞いて、オーガスタは目を点にした。

自分が間違えていることは考えていなかったため、思考が大混乱に陥ってしまった。

だが、姉は……。


「そんな、ちょっと待って! バージル様は、私の婚約者ではないの?」
「違うわよ」
「そもそも、お前が格下の家の子息の家に嫁ぐのは嫌だと言ったんだろうが」
「え、バージル様って、侯爵家の方じゃ……?」
「彼は、伯爵子息よ」
「伯爵!?」


姉妹揃って、勘違いしていたようだ。

この場合、どっちがより酷いのだろうか。明らかにアミーリアの方がまずいが、もっとまずい者がいるが、そちらは後だ。


「じゃあ、何でバージル様はここに入り浸っていたの?」
「そ、そうよ! 私は、てっきり婚約者かと思ったのに」
「それは、私の台詞よ」


姉は、父に聞かれて嫌だと言っていたのにバージルが同じ侯爵家だと思って自分の婚約者だと思ったのも、どうかと思う。

それも、酷いとしか言いようがないが、オーガスタはそんなこと父に聞かれてもいないのだ。それも、酷い話だ。今、混乱しているところで、それを言ったらややこしくなり過ぎてオーガスタの頭の中がショートしそうだから言わないが。

オーガスタは、婚約者ができたと言われたが、姉が辞退したからだと聞いていない。

まだ、あちらはする気がないとは、聞いた気がするが……。なにせ、話の本筋が母のことがメインな父だ。オーガスタの知りたいことを聞き出すのが物凄く大変なのだ。

そして、そう言ったことを聞くと父は雑な対応をしてくるのは、いつものことだ。まぁ、そのせいで、今、こんなことになっているのだが。父の頭の中は9割方、愛してやまない母のことでいっぱいのような人だ。

娘たちにも、そこを割いてほしいが、オーガスタが物心ついてから、そんな父が当たり前のようになっていて、父とはそういうものだと常々思っていたが、最近になって我が家がおかしいことに気づき始めていた。

普通は、妻と同じか。それ以上に娘たちに気を配ってくれるもののようだ。特に婚約者についても、アミーリアにはちゃんと聞いておいて、オーガスタには聞くこともないなんてあんまりすぎる。

父への不満が膨れ上がっていたが、それよりも奇妙なのは、バージルだ。

あの子息は、兄の婚約者の家といえより、とう考えても、自分の婚約者の家だと思って堂々とし過ぎていた。この家に入り浸り、姉とばかりいたから、婚約者が彼だとオーガスタのみならず、この屋敷の使用人たちみんながそう思っていた。

そのため、使用人たちみんなも、え? あの子息、お嬢様たちの婚約者じゃないの?? とひそひそと話している。

そりゃ、そうなるのは無理はない。いつもなら、私語は禁止だと怒る側も、混乱した顔をしている。


「オーガスタの婚約者は、今、留学中のはずよ。というか、お父様から聞いていなかったの?」
「全く聞いていません。デイビーズ伯爵家の子息と婚約したとしか言われていないんですもの」
「ん? あー、そうだったか? 仕事が忙しくて、言いそびれたかも知れんな」
「……」


母と一緒にオーガスタは、父をじと~っと見た。


「ちょっと待って! じゃあ、あの子息は、何なの!?」
「それは、お前が招いていたからではないか?」
「っ、あっちが、婚約者だって言ったのよ!」
「「は?」」


両親は、珍しく間抜けな顔を2人揃ってしていた。

オーガスタは、姉がギャーギャーと騒ぐのをぼんやり聞いていて、それどころではなかった。

内心では、婚約者だと勘違いしていたのは、姉と一緒でお互いさまだったことにびっくりしたが、婚約者ではないのと2人っきりで過ごすことはしなくてよかったとそこだけは、ホッとして姉が相手をしてくれてよかったと思ってならなかった。

そして、姉が婚約者だと思っていたとは言え、我が物顔でいたバージルもまた、どう見てもアミーリアと婚約していると思っていそうなのに首を傾げたくなった。


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