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プロローグ
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しおりを挟む後宮で、ディェリンが生まれた日にもう1人、側妃が子を産んだ。
それは、予定通りの出産だが、予定日はもう少し先ということにしていたのは、ズーウェイのように皇帝に寵愛を受けているわけでもなく、子供が生まれるまでは義務のようにたくさんいる側妃たちが代わる代わる寝所に呼ばれ、その他大勢の側妃の1人でしかなかったから、彼女は色んなことに神経をすり減らすことになった。
お腹の子の性別がわかるまでではない。わかってからも守るために必死に頭を悩ませ続けた。
この後宮で、何の力もない母の子として産まれて来るのだ。
「何としても、守らなくては……。でも、どうやって?」
彼女は懐妊したと伝えてはいるが、2人の側妃と違い産まれた後に我が子を守りきれる自信が、どうしても持てなかった。
頼れる味方は、侍従と女官の2人だけだ。実家に頼るなんてできなかった。そんなことをすれば、母子共に寿命を縮めるだけだ。
それに産気づいたと言っても、ズーウェイの方に侍医たちの多くが行ってしまい、彼女のところには駆けつけてくれもしなかった。
ほら見たことか。生まれる前から、差別されている。これが、ここで続くのだ。
「産まれるというのに侍医は、まだなのですか?!」
彼女付きの女官は、同じく、侍従の男に怒鳴った。
「それが、皆、ズーウェイ側妃のところに行っているようで」
「そんなに侍医がいたって仕方がないでしょうに」
「いいのよ。知らせないで」
「ですが」
「あなたが、取り上げて。同じ日に生まれるのなら、私が、この子を守る」
「っ、」
「この子を何が何でも守り切る。それが、誰からであろうと守ってみせるわ」
だから、どうか、無事に生まれて来て。
彼女は、人知れず産むことになった。母は強しとはよく言う。守れるか、どうかで不安に思っていたのが、嘘のようにその側妃は言い切った。
その子は、女の子だった。
「おめでとうございます!」
「すぐに陛下にお知らせせねば」
「待って」
しかも、ズーウェイが同じく女の子を産んだことで、お祝いムードで浮かれていた。
ここまで、街であがるお祝いの花火の音がしている。
そこにもう1人、名も皇帝に覚えられているかもわからない側妃が産んだところで、侍医も来てはくれず、人知れず産まれたこの子を皇女と認められるかも怪しい。
まして、あの歴史を抹消しきらずに残しているのは、いざという時に対処しろと言っているのだとこの側妃は思った。
確かにそのつもりのものだったが、それを書いた者たちが見えた通りに書いたものであり、本当に何かあったかを書き記されたものではなかった。
彼女は、それを見て歴史好きなことから、同じことを繰り返さないために最初から、いなかったことにすればなんてことはないのだと歴史の闇をそこに見た。
確かにそうだ。隠そうとしたのだ。都合の悪いものを。でも、見る目の曇ったものが見たその時の皇女たちをちゃんと見てはいなかった。天変地異の恐怖から、滅ぼそうとした者とそれを救った者に見えてしまったのだ。
まさか、守り切れなくなってしまったのを滅ぼそうとしているように見えてしまい、そんな皇女を救おうとしたのを国を救った者として見られるとは思わなかったのだ。
そう2人共、救おうとしていたのだ。そして、2人は、こんな結末になる前にお互いが幸せになることを誰よりも願っていた。それが、自分の見たいものだとして、自分の幸せよりも願った。
それによって、救おうとした者の方には想い人がいたかのようにされたが、そこも違うのだ。
まぁ、それより勘違いが酷いことになっていたが、ちゃんとした過去とこの側妃は知っていた。
あの皇帝が、どうやって皇帝になったかをこの側妃は知っていた。誰も何も気にしていないが、男兄弟の真ん中より下だった男が、今や皇帝となっているのだ。
そんな男を信じ切るなんて、恐ろしいことできなかった。それこそ、数多くの歴史を読み漁った彼女には、同じようなことになるのをよく知っていた。
「ジンリー側妃様」
「……この子をここから連れ出せる?」
「ジンリー側妃様、それは」
「ズーウェイ様の皇女がいる。今更、2人の皇女は、災いを呼ぶだけよ。この子が、滅ぼす者と言われるに決まっている」
「「……」」
彼女は、この大国が隠した歴史を正しく知っていた。双子でなければ、大丈夫だと安易に考えられはしない。同じ日に生まれたのだ。同等の関係性を持っているに違いない。
でも、他の者たちは双子で、国を滅ぼそうとした者とそれを救った者がいた事実を知らない。
犠牲になったのは、皇女のどちらもなのだ。
だけど、今は誰もが皇女は1人。その方が救い、生まれ変わると約束したことが語り継がれているが、もう一方が、次こそは幸せになりたいと死んだのに後から国を救った皇女が、希望を残したのだ。共に幸せになろうと。
それを救った皇女に想い人がいたかのようにしたのだ。彼女が何より大事にしていたのは、片割れの皇女だった。
周りの思惑に翻弄され、望まれる皇女となっただけなのに特別な力があったのに心を保てずに暴走させてしまったのだ。
それでも、国を滅ぼし尽くしたい怒りや憎しみがあったからではない。ただ、深い絶望に飲み込まれて己を見失ってしまっただけなのだ。優しすぎるが故に。
そんな彼女のことをもう一方の皇女は正しく片割れと理解していた。そんな彼女を幸せにしたくて、幸せになってほしくて奮闘したが、彼女を助けることができなかったのだ。
その結果が、この国を救ったことに繋がっただけなのだ。もしかすると救うつもりではなく、たまたま結果的に国を救うことになって犠牲になったが、片割れを救うためなら彼女の方こそ、世界をどうにかしてももう一方の皇女を救うことに躊躇いはなかったかもしれない。
この側妃は歴史が好きだった。だから、側妃となり、後宮の書庫を読み漁った。そのために側妃となることを受け入れたようなものだった。
そこで、知ってしまった歴史に驚愕し、妊娠してから、もしものことを考えていた。
「この子だとは、思いたくない。でも、ズーウェイ様の女児がそうだとも思いたくない。だから、隠さなければ」
「……わかりました」
こうして、その側妃の彼女に仕える女官と侍従によって後宮から連れ出された。
そして、ズーウェイが亡くなった時に死産したと報告し、その後、子を亡くしたショックから塞ぎ込んだことを理由に後宮を去ることになった。
皇帝が何かと気遣ってくれていることに心苦しさがあったかというとあまりなかったが、名前で呼ばれたことがないからだ。
最後まで、側妃としか呼ばれなかったから、その程度でしかなかったのだ。いつも、皇帝として見られるためにそれなりのことをしているようにしか見えなかった。
そこに心を感じなかった。会った時から、己が皇女の父になると妙な自信を持っていた。その自信が、どこから来ているかに気づいて吐き気がするほどだった。
皇帝となるために身内を蹴落とし続けた男でしかない。そんな者にもう1人の皇女をその腕に抱かせるなんてしたくはなかった。
そんな風に後宮から去ることになった親子は、街で静かに暮らすことになった。
それを知るのは、わずかな者だけで、もう1人の皇女はリーシーという名前を与えられて、己の出自を知らないまま、街で暮らすことになった。
リーシーは母が後宮でひた隠しにした魅力を存分に放つ女性となっていく。自分の周りが幸せになれば、皇女も幸せになれると信じる者となっていく。
ディェリンは、周りに語り継がれるような皇女となることを期待され、そうならねばならないと己を縛り続けていく。
埋もれた歴史を掘り起こした者によって、2人の皇女が再びファバン国に生まれたことによって色々と起こるのだが、その2人が、それぞれどうやって成長して、どんな結末を迎えるかを見て行こう。
お互いが幸せになれたら、それでよかったでは終われない。2人が幸せにならねば、終われない。終わらせられないとして、この皇女たちは必死に生まれ変わり続けている。
そんな2人が、出会えないまま終わる物語となっているが、最後まで読んでもらえれば、悲恋のようであって、生まれ変わり続けた先の未来に希望が必ずあることをわかってもらえるはずだ。
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