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プロローグ
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しおりを挟むかつて、ファバン国が大国と呼ばれる前の小さな国を救った皇女は、双子のようにそっくりだった。
産まれた時から、見た目はそっくりだった。でも、中身が全く違っていた。当たり前のことだ。双子のようであって、双子ではなかったのだ。
でもあまりにもそっくりな見た目から、いつしか双子だと思われることになった。2人共、とても仲が良かったから、そう言われることが嬉しくてたまらなかったからにほかならない。
そのせいで、多くの者たちが誤解をしていくことになるとは思いもしなかった。
片方が国を救う者となり、片方が国を滅ぼす者となった。そういう風に見えてしまったのだ。
そうならざる終えなかった出来事がいくつか重なってしまったのだが、その後に語る時に省かれた。
更に滅ぼす者のことも、いつの間にか都合の悪いものとされて、語られることはなくなった。双子のようにそっくりな者から、双子がそうなったとなったことで、どちらがそうなるかに疑心暗鬼になってしまったから、1人の方が都合が良かったのだ。
これが、演劇とかなら、演出上のカットとか言われるところだろうが、本当にあった歴史をそんな風にされたら、みんなが誤解してしまうに決まっている。
そもそも、滅ぼそうとしたわけではないことも、わかっていなかった。そう見えてしまっただけなのだ。
それを改ざん、改変してからは、ファバン大国では一字一句ネジ曲がらないように暗唱できるまでになって語り継がれ続けたのも、もう一方のことを語られたくなかったからに他ならないが、そもそも間違えていることを知る者がいなかった。
周りの国から、見栄っ張りだと思われる、誇張していると揶揄されても、その通りだったりするのだ。それすらひた隠しにされていて、もう知っている者は僅かしかいなくとも、何度も言う。そもそもが、間違っているのだ。
皇帝と限られた者が、双子の場合を想定して、ずっとヒヤヒヤしていた。双子のようにそっくりな皇女のことをさしていることを知らないが故におかしなことになっていった。
皇帝は、皇女の父には自分がなると思っていた。自分以上に相応しい男はいないとまで思っていた。
そんな自分に相応しい妻を探していた。大国の隅々から、側妃が後宮に皇帝の花嫁としてあてがわれ、さらには周りの小国からも今後のことがあるからと嫁いで来た。
そこにズーウェイが現れた。その美しさに目を奪われ、心を鷲掴みにされた。
この側妃こそが、女児を産むと確信した。だから、寵愛した。他の側妃の誰よりも優れていたから、間違いないと思っていた。
夜も、ズーウェイが相手だと思えば励んだが、それ以外は義務として執務をこなすかのように淡々とした。
淡々とした者の方が先に懐妊したのにはびっくりしたが、そちらの懐妊を聞いて、益々ズーウェイを孕ませることに躍起になった。
懐妊しなければ、側妃の中で扱いを変えねばならなくなるから、皇帝は必死になっていた。
そのおかげで、お気に入りの側妃が懐妊したと知らせを聞き、そこから他の側妃を寝所に呼んで相手をし続けた。
皇帝は、ズーウェイが女児を産むと思っていたが、産ませるまではわからないとして、側妃を相手にし続けなければならなくて面倒だった。
ズーウェイほど燃える相手はいなかった。乱れた姿は、艶やかで、抱いても抱きたりないほどだった。
ズーウェイの前に懐妊した側妃は、あまり好きではないが、隣国のガンラシュ国から来ていることもあり、それ相応の相手をしなくてはならなかったから、懐妊したのは面倒ではあったが、よかった。小国を蔑ろにしていると思われずに済んだのだ。
その後、ズーウェイの懐妊を聞き、他にもいたが、そちらの側妃のことはあまり印象に残っていない。わざと皇帝の記憶に残らないかのように立ち振る舞っているようだった。
誰もが寵愛を受けようと必死になっていたが、その側妃だけは義務として、その行為をしているだけだった。
まぁ、そんな側妃が他と違うのが気になったが、名前も覚えてはいない。ただ、この国の生まれではあるが、両親の身分はそこそこで、こんなのが孕んだら、母娘共に長くは生きられはしないだろうなと頭の片隅で思ったが、その程度だった。
この側妃が、産んだところで、女児のはずがないと思ってのことだ。
ズーウェイが、女児を産んだのが、1人だけだったことにホッとしていて、双子でないなら問題はない。他のことなど、どうでもよくなった。
そのことをズーウェイには、話せなかった。双子だったら、どちらを外で育てるか。あるいは、殺すかを迫られていたため、1人だとわかって、どれだけホッとしたことか。
皇帝となるまで、男兄弟の真ん中より下で生まれ、それでも皇帝にまで上り詰めただけはある。もとより、他の者より運があるのだ。そうなるべくして生まれたのだ。
そう、1人だけなら何の問題はない。何を血迷った事を考えていたのか。
どうせ、本当の歴史なんて誰も知らないのだ。少しくらい誤魔化しても、いつものようにどうにでもなる。それで、これまで上手くいっていたのだ。何の心配もない。
「陛下」
「何も言うな。見たはずだ。あの皇女こそ、この国を救ってくださった方の生まれ変わりだ」
「……はい」
他に産まれたとは聞いていないため、そうだと思うことにした。
それから、女児が生まれたことに色んなところからのお祝いに追われた。本来なら、産んだ生母が対応するのだが、それができないほど具合が思わしくないらしく、皇帝がしていた。
ついでのように皇子のことを祝う面々に応対し続けたが、皇女のことを言われることが多いため、皇子のことはついででやり過ごせばいいから、そんなにやる気をなくすことはなかった。
それが済んでもなお、ズーウェイが具合を悪くしたまま、よくはならなかったが、役目は真っ当したと半分以上、思っていてさほど心配していなかった。
皇女がいれば、皇妃など飾りに過ぎない。具合がよくないままでも、構わなかった。その間、皇帝が代われば、寝所に側妃を呼ばずに済む。もう、女児が生まれたのだから、そんな義務を強いられることもあまりない。
そんなことを思っていたのがいけなかったようだ。もはや何が、どういけなかったのかもわからなくなっていた時に不幸は続いた。
「陛下。ジンリー側妃が、死産したと知らせがまいりました」
「……そうか」
ズーウェイが亡くなった時にその知らせを聞いた皇帝は、その名前を聞いて、その側妃が誰だったかを思い出す気力もなかった。
流石に死ぬとは思っていなかった。皇女を産んだ者が、こんなにもあっさりと死ぬとは思わなかった。
なのにズーウェイは、皇女に母を助けるために力を使うなと諭した。
泣き叫ぼうとも、ならないと皇女に言ったのだ。
それに皇帝は……。
「私は、何ということをしていたんだ」
己が、名を残したいために皇女を欲していただけなのだ。
ズーウェイのような気高さなんて、皇帝には欠片もなかった。それを恥じた。
そういえば、もう1人、孕んでいたなと思う程度だった者の子も己の子だとなり、そこから変わろうと試みた。
「死産した側妃を労ってやれ」
「わかりました」
それだけを言うだけなら、前の皇帝と同じだった。しばらくして、喪に服すその側妃に会いに行った。
周りは、ご自分もお辛いのにと言っているようで、気遣われることも増えた。
彼女は、皇子と皇女の誕生を喜び、ズーウェイが亡くなったことを悲しんでいた。我が子ではなく、皇子を死産したことを申しわけないと謝罪したのだ。
「謝罪は必要ない。身体は、どうだ? あまり食がすすんでいないと聞いた」
「……」
食べる気がしないのは、無理もない。前に会った記憶よりも痩せていた。実に抱き心地の悪そうな身体つきをしていたから、そのはずだ。どんな具合の良さだったかも覚えていないが、身体つきはこんなんではなかったはずだ。
ズーウェイの死に目のように儚さが見えて、この側妃も逝ってしまいそうに見えた。
気になっていると思った周りが、やたらと気を遣って、公務の合間に様子を侍従長や女官長が話して聞かせてくれたが、それに応対を間違わなければ、夫として皇帝としても、それなりに見えた。
その後、子を亡くしたショックが大きく身体の具合が良くないから後宮を去りたいと言っていると言われて、その通りに許可をした。
このまま、後宮で息を引き取られるより、ずっといいと思ってのことだ。ここで死なれては、ズーウェイの素晴らしい死に様に埋もれてしまうだけだ。
ズーウェイの方が国母として街でも騒がれているのに。ここでは、ズーウェイよりもその側妃のことを気に掛ける者がいた。
大した側妃でもないのになぜか、怖くなった。ここに残っていたら、後宮の中をかき乱す存在になる気がしてならなかった。
そうとは気取られることなく、その側妃は街で静かに暮らすことになった。彼女の実家には労をねぎらったものをたくさん贈った。
だから、もう会うことはない。それにホッとした。自分には、皇女という娘がいる。何の心配もいらない。
だご、彼女がとても重要な女性だということに皇帝は怖さを感じてしまったが、周りの殆どが子を産んで失った側妃がいなくなることを喜んだ。主に数だけはたくさんいる側妃たちだ。
極一部が、ズーウェイ側妃よりも秀でた部分があるのにそれをひた隠しにして、皇帝のみ見せなかったことを不思議がった。
だからこそ、その側妃が上手く隠すことができた嘘に気づかなかったのは、死産した者が後宮で暮らすより、実家で暮らす方が幸せだと思ったからにほかならない。
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