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『認められた皇女』
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しおりを挟むあれやこれやと考えているような顔をディェリンはしてはいなかった。
皇子と仲良くなる機会とばかりにして、年相応にはしゃいでいるかのようにした。
ジュエランたちも常に美しくしている皇女が更に美しく見えるようにするのに忙しなかった。
「皇女様が、年相応に見えますね」
「やはり、殿方殿、お茶会は兄皇子であろうとも、緊張なさるのね」
「なんて、お可愛らしいのかしら」
「本当ね」
女官たちが、そんな風に話しているのにそう見えているのなら、上々だと思った。
「ジュエラン。変ではない?」
「とても、お可愛らしいですよ」
「そう。……殿下は、来てくださるかしら?」
「どうでしょう」
流石に急すぎるとジュエランとて思っているのだ。
そんな他愛無い話をしながら、別の事を考えていた。
ディェリンは、勉強をおれだけしていても、皇城で小難しい本を読んでいたが、歴史書までは深く読んでいなかった。
そこに双子うんねんの記載があるのだが、それを見ていないため、気にもしていなかった。だから、兄皇子と生まれるとしたら、弟たちのみになるだろうから、今のうちに兄皇子と仲良くしておいてもいいかと思えたのだ。
そんなことをして、お茶会の準備をしているところにズールイが、息を切らして戻って来た。
「皇子が、お見えになるそうです」
「そう」
断るとは思っていなかった。忙しいのだから、断られるはずだと思って仕掛けてはいない。皇女が招いたことを断るなんて、皇子であっても避けたいことなのだ。そこを利用したにすぎない。
(本当に特権尽くしよね。使い方次第で、みんなが私のことを皇女だからと許してくれる)
そんなことを利用するのに完璧であらねば、ただのわがままな皇女になる。だから、必死に唯一の皇女らしく振る舞えるように何もかも他よりも一目置かれるようにするのに必死になっていた。
それこそ、かつて皇帝の寵愛を独占していた母と同じ思考を同じ年頃の時に考えていたのだが、誰もその辺のことを知らなかった。
母の父も、その一面をよく知らなかったのだ。上手く隠していたからこそ、祖父が生きていても本当の母を教えるのは無理だった。
それにディェリンの今後のためであり、仕方がないと思う思考も母譲りであり、更には父にも似ていた。それを周りは知らないから、そっくりだと思うことはない。
そんなことを考えているとズールイが……。
「はい。ですが、その着替えてから来るそうで、もうしばらくかかるかと」
「そのくらいいいわ。急に呼びだてのは、私だもの」
そこから、皇子たち一行は大慌てでディェリンのところに来た。
「お、遅くなりました」
年頃の女の子と話したことがないのだろう。お互い装いを褒め合うことなく、本題に入った。
「謝ることはありません。急にお呼びして、申しわけありません。庭に花見席をご用意しました。皇子から頂いたお菓子と私が淹れたお茶があえばよいのですが」
「っ、こ、皇女様が?」
「はい。母には劣って、まだまだ練習中ですが、先日、陛下にも褒めていただきました」
「き、聞いています。とても美味しいと陛下が、嬉しそうに話してくださいました。嬉しいです」
それを聞いてディェリンは……。
(そんな話をしているのね。やはり、皇子のことは、気に入っているんだわ。私にその話をしてくださらないのは、私が信用ならないのか。それとも、余計なことでわずらわせたくないのか。……ただ単に昔話に付き合ってくれる人がいないだけか)
ディェリンは、そんなことを思いながら、皇子が頼んで用意させた菓子を外で一緒に食べるべく、移動した。
皇子一行は、ディェリンの庭園に見惚れていた。皇女のために誂えられた場所は、皇城の皇帝が住まうところよりも豪華だった。
この大国を救った皇女のために整えられ続けた。いつか、生まれ変わって戻って来た時に喜んでもらいたくて造られた。
そこにすぐさま準備ができるのも、ディェリンの気分転換になることならばと花を見るのが好きなディェリンのために皇帝が用意させたものだ。
最も、ディェリンは花は好きではない。皇帝は、皇女の机に飾られた花を見て、花好きだと思ったのだ。
あれは、別格だ。ディェリンのためにわざわざ、ここでは見えない景色のものをディェリンのために手ずから用意してくれているのだ。一緒にされては困る。
口で指示をするのと自らがその場に赴き、取って来てくれるのだ。だからこそ、あの花を見て心から嬉しそうにするのだ。本心でそう思っているからなのを皇帝どころか。周りの多くが気づいておらず、誤解をしていた。
花を見て庭を歩くだけで、好き勝手なことを言っているから楽だと思っていたのに。それが1人歩きを始めて、特大のブーメランで戻って来たのだ。誰も彼もディェリンが、本当はどう思っているかを見ようともしない。
そして、そこで茶を飲むのが、皇帝の息抜きであり、楽しみになっているのも、ディェリンの淹れる茶が亡き母であるズーウェイに似ているからに他ならない。
それを期待されているからこそ、並々ならぬ努力で極めようとしているに過ぎない。ディェリンは母のようになりたいわけではない。
周りに期待される皇女になりたいわけでもない。ただ、愛してやまない人と幸せにこの国で暮らせたら、それだけでよかった。
それなのに皇帝本人はお互いの息抜きのためにしていると思っているが、息抜きになっているのは皇帝のみとなっていて、他のことでも母をディェリンの中に探してばかりいる。
でも、皇帝も忙しく、ディェリンも忙しいため、月に数回しかない。何度も、皇帝だけの息抜きに時間を割くことにディェリンは、げんなりしていることに誰も気づいていない。
それでも、皇帝がいつ来ても対応できるようにと整えられているのは、どちらにも休憩をしてほしいからにほかならない。これまた、女官たちも誤解していた。
何度も言うが、ディェリンの息抜きにはなっていない。
ズーウェイが亡くなってから、ディェリンが日に日に似てくる姿を皇帝は、懐かしむことも増えた。
そんな皇帝の目を見て、懐かしむよりも、褒めてくれた方がいいと思っているのも、ズーウェイ譲りということに誰も気づくことはなかった。
そして、誰もディェリンも見てくれない中で、唯一ディェリンのために飾られる花の見事さに誰も気づいてくれないことにディェリンの心は、少しずつ疲れをためることになる。
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