10 / 50
『認められた皇女』
6
しおりを挟む「どうぞ」
「い、頂きます」
皇子は、お茶を淹れてもらえるとわかって益々緊張してしまったようだ。ずっと吃っている。
(初々しいのよね。それに私が淹れたからって、毒の心配もしないなんて将来が心配だわ)
ディェリンは、どうにも演技をしているようには見えなかった。むしろ、兄が年下の弟のように見えてならなかった。
「っ、美味しい!」
「お口にあって、よかった。こちらは、皇子の侍従に」
「へ? わ、私ですか?」
「えぇ、おやつを皇子に教えたのは、あなただとズールイに聞きました。とても良いですね。私も真似ることにします」
にっこりと言えば、照れた。こちらも、わかりやすい性格のようだ。皇子の侍従として大丈夫なのかと思ってしまうレベルだった。
「っ、い、いえ、そんな」
「どうぞ。良いことを教えてくれたお礼です」
「ありがたき幸せ。いただきます!」
ズールイは、それを羨ましそうに見た。そんな顔を隠しもしないところが、彼だ。ディェリンは、それをどうにかしろとは言わない。丁度良いと思うだけだ。
そして、皇子の侍従はそれを羨ましいだろうという顔をしなかった。申しわけなさそうにしたのだ。
(良い友ね)
ここで、羨ましいだろうと言わんばかりにしていたら、ディェリンは今後のことを考えていたが、そこまでしなくてよさそうだ。
「ズールイ。あなたにも」
「わ、私にも?」
「良い友を持っているわね。そのおかげで、こうして皇子と花見ができた。ありがとう」
「そ、そんな、滅相もありません。お役に立てたのであれば、それだけで私は幸せです」
「あら、じゃあ、いらないのね」
「いえ、いただきます!」
「「っ」」
それに皇子と彼の侍従が笑っていた。他の者たちも、楽しそうにしていた。
(良い人たちの集まりになったわね。……私の心だけが、濁っているようで、物凄く嫌だわ)
お菓子を食べたが、それはとても美味しかった。
(優しい味。……私のために作ってくれたのね。それを毒の心配をしたり、こうして疑ってしまっている。後宮とは、恐ろしいところだわ)
その日から、皇子が朝と夕に挨拶に来ても、扉越しではなく、きちんと挨拶してくれるようになった。
そのたび、ディェリンはにっこりと微笑み続けた。
何なら、他の側妃たちも、しばらくしてディェリンの庭に呼んで、楽しくお茶をするまでになった。一片に呼んでも、話をするのが難しくなるから、後宮に来た順に呼んだ。
身分で呼ぶと面倒なことになったからだ。ただ、どうしても参加ができなかった者は次の時に呼ぶことにした。
流石に皇子を最初に呼んだ時のような急なことはしなかった。ディェリンが開くとなれば、側妃のほとんどが集まった。そこに皇子が常に参加していた。彼には側妃たちと仲良くしてほしかった。
実母があんなんだからだ。
そして、毎回来なかったのは、皇子の実の母だけだった。
「母が申し訳ありません」
「あなたが謝ることではありません」
「ですが……」
何度目になるだろうか。彼の母親の席を毎回作ったまま訪れないことが、気になったのだろう。皇子が、何とも言えない顔をして謝罪した後に尋ねてきた。
「なぜ、席を?」
「恐れながら、出欠の返事をいただいたことがないのです」
ディェリンの女官であるジュエランが、そう言うと皇子は目を丸くしていた。
「え? ない??」
「はい。今まで一度も、お返事がありません」
「っ!?」
皇子は、それに顔を真っ青にさせた。他の側妃たちも、眉を顰めずにはいられなかった。
「何だ。私だけかと思っておりました」
「私もです」
「え?」
側妃たちも、同じく無視されているようで、益々皇子の顔色は悪くなった。
それでも、そこから数年して今は皇太子となり、それに準じて、そのありえないことばかりをしていた側妃が皇妃となった。他に皇女どころか、皇男も生まれなかったからだ。
側妃たちが妊娠したと報告があっても、無事に生まれなかった。それが続くうちに皇帝は、皇子を皇太子にすることにしたのは、後ろ暗い噂が流れ始めていたからだ。
皇子の母親が、妊娠している側妃たちを堕胎させるべく画策して動いたと。
本当かどうかわからないが、流産した知らせを喜んでいるらしく、ディェリンの後に生まれた側妃の時も、裏で手を回していたのではと言われている。
そんなのを皇妃にしたくはないが、息子が皇太子となれば、恐ろしいことをやめると思ったようだ。
それに生まれる前の子供たちだけでなく、ディェリンにまで何かしたら、困ると思ったのもあったようだ。
一応は、皇妃となる試験に合格したと言われているが、昔と変わったところがあるとしたら、態度が益々大きくなったくらいで、この大国のことをきちんと学んだようには思えなかったことだ。
(あれで、合格したなんて、どうしても思えないけど。でも、陛下が決めたことだもの)
その辺もディェリンには口出しできたがしなかった。皇妃の仕事も、引き継ぐに値しないからとやらせないことをディェリンはしなかった。
それこそ、それをしていたら、今度こそディェリンの命を狙い始めただろう。
(できると言うなら、やってみればいい。それで、皇太子がどう動くかで、私がどう動くかを決めればいい)
何より、こんな皇妃が大国で、誕生してしまったのだ。それによって、殺されかけることはなくなったようで、じわじわとディェリンが疲れる日々が、自然と増えていって、いつしか危うい状態となっていたことに誰も気づいていなかった。
それは、当の本人も、そこまでとは思っていなかった。そこに母との約束が関係しているとは、思いもしなかった。
36
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。
専業プウタ
恋愛
中学2年の時、告白をクラスで馬鹿にされたことにより不登校になった橘茉莉花。そんな彼女を両親が心配し、高校からは海外で寮暮らしをしていた。日本の大学に進学する為に帰国したが、通学途中にトラックに轢かれてしまう。目覚めるとスグラ王国のルシア・ミエーダ侯爵令嬢に憑依していた。茉莉花はここが乙女ゲーム『誘惑の悪女』の世界で、自分が攻略対象たちを惑わす悪女ルシアだと気が付く。引きこもり時代に茉莉花はゲームをやり込み、中でも堂々としていて男を惑わす程の色気を持つルシアに憧れていた。海外生活で精神は鍛えられたが、男性不信はなおらなかった。それでも、神様が自分を憧れの悪役令嬢にしてくれたことに感謝し、必死に任務を遂行しようとする。
アクアリネアへようこそ
みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。
家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!?
可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ!
やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。
私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ!
働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。
聖なる森と月の乙女
小春日和
恋愛
ティアリーゼは皇太子であるアルフレッドの幼馴染で婚約者候補の1人。趣味である薬草を愛でつつ、アルフレッドを幸せにしてくれる、アルフレッドの唯一の人を探して、令嬢方の人間観察に励むことを趣味としている。
これは皇太子殿下の幸せ至上主義である公爵令嬢と、そんな公爵令嬢の手綱を握る皇太子殿下の恋物語。
【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。
里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。
でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!!
超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。
しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。
ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。
いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——?
明るく楽しいラブコメ風です!
頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★
※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。
※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!!
みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*)
※タイトル変更しました。
旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』
置き去りにされた恋をもう一度
ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」
大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。
嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。
中学校の卒業式の日だった……。
あ~……。くだらない。
脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。
全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。
なぜ何も言わずに姿を消したのか。
蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。
────────────────────
現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。
20話以降は不定期になると思います。
初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます!
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
狭山ひびき
恋愛
サーラには秘密がある。
絶対に口にはできない秘密と、過去が。
ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。
両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。
事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー
これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。
【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!
Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。
見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、
幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。
心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、
いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。
そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、
この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、
つい彼の心の声を聞いてしまう。
偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、
その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに……
「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」
なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た!
何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、
あれ? 何かがおかしい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる