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『認められた皇女』
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しおりを挟む(皇子視点)
皇女にお菓子を届けさせたのは、きちんと裏があってのことだ。
数週間しか違わないが、私の方が兄なのだ。なのに皇女が産まれたことで、私の足元は常にグラグラとしていた。
それを揺るがしているのは、皇妃となった母だ。やめろと言ったら、益々やる人だ。
「何がいけないのよ」
「……」
そこからなのか。母に会うたび、疲れてならなかった。何で、あんなのに親だからと挨拶しに通わなければならないのか。
だが、それをしなくなれば、また好き勝手なことを周りに言われるだけだ。
だから、続けているが、1日の中であんなに時間を無駄にしている時間はない。
本当に勘弁してほしい。どんなに点数を稼いでも、皇太子になるのが近付くことはない。むしろ、凄い勢いで遠ざかっている。
皇子は1人しかいないのにおかしな話だ。
だが、それでも、皇子として皇帝は私のことを可愛がってくれている。皇女のことを気にかけているから、彼女のことをあれこれ教えてくれる。
こんな程度が、皇帝なのかと思うほどだった。もう、皇女の父になっているから、こうなのか。その前からこうなのか。
それでも、皇女の父として名を残すのかと思うとゾッとする。
だが、数週間でも、兄なわけで、皇女の兄として動くにも、皇女とは仲良くしておいて損はないと思って動くことにした。
毎日朝と夕に挨拶を扉越しにしているのも、そろそろ飽きた。だから、次の段階に動くことにした。
するとお茶会に呼ばれて、その日のうちに動くのは流石に考えていなかったが、すぐに庭で茶会ができるのだから、とんでもない。
美味いと言ったお茶だが、変な気分がしばらく続いた。その違和感に眉を顰めずにはいられなかった。
「……皇女が淹れてくれたお茶は、献上茶だったよな?」
「はい。お茶には疎いですが、あんなにも淹れた方で違うのですね」
「そうだな」
侍従は、すっかり皇女に心を許していた。
あのお茶は危険だ。気を確かに持っていないと彼女のことしか考えられなくなる。
彼女の思惑に応えたくなる。
「皇子? いかがなさいましたか?」
「いや、何でもない」
私の周りには、厄介なのしかいないようだ。生まれた時から、何らかの力を持っていると言われている。
これが、そうなのかと思うと首を傾げたくなる。どうにも、これは語り継がれる皇女とは違う気がしてならなかった。
その上、側妃たちとお茶会をやるのに呼び出されて、毎回席を誂えたまま、母が来ないことをこれ見よがしにされていた。それも聞かない限り、そのままだった。
今更、そんなことをされずとも、母の厄介さは知っている。側妃たちも、みんなあのお茶を飲んでから、皇女の味方のようになっていた。
いや、彼女の側に近づくのも、駄目なようだ。思考が鈍るのをどうにかするのに扉越しのほうが良かったと思いつつ、恐ろしくてたまらなかった。
あのお茶は危険どころか、皇女にとっても危険だ。飲まないようにしているが、うっかり飲むと数日は皇女のことが頭から離れなくなる。何なら目を見つめられたら、もっと何も考えられなくなる。やはり何かしらの力があるのは、間違いない。
それを暴こうとしていたところで、母の黒い噂が持ち上がり始めた。
それをどうにかするために皇帝がついに私のことを皇太子にしたのだ。
証拠を掴めなかった時点で、私は母ではないと思った。そんなことできる人ではないのだ。なのに皇帝は、皇女の身を案じて動いた。
それによって、更に私は厄介なことになってしまった。
今更、皇女がお茶に盛っているとか、変な力を使っているのを暴露したところで、皇太子となって図に乗って、これまで良くしていた皇女を蹴落とす気だとか言われるだけだ。
皇帝が、やっと認めたのだ。今のタイミングで、皇女のことを探って失敗したら、まずいことになる。
母は、もちろん、あの調子で大喜びして、側妃から皇妃になったことに浮かれて、好き勝手なことを益々始めた。本当に勘弁してほしい。
そして、皇女は……。
「皇太子となられたことをお喜びいたします」
「ありがとうございます」
欠片も喜んでいないのを微塵も出せずに私のところにわざわざやって来た。私は、この皇女が末恐ろしくてたまらなくなった。
何より、彼女自身が自分の恐ろしさに気づいていないのではなかろうか。
確かに特別なのかも知れないが、この大国を救った方と同じには、私はどうしても思えなかった。
だから、私は歴史をきちんと把握するために皇城の書庫で本を読み漁ることから始めた。
そこで見つけた本当の歴史では、皇女は双子だとわかり、それにゾッとした。
「まさか、もう1人を亡き者にしたのか?」
だが、そんな改ざんは見られなかった。本当に1人しか生まれなかった。
でも、他の側妃は……。
「死産した日を誤魔化している……?」
もしかするとその死産したとされる子供が、女児だったのではないかと私は、更に調べるようになって、それ以来、ディェリンのところの朝と夕の挨拶を控えるようになった。
「皇太子殿下」
「……皇女も、皇太子になった私の顔なんて見たくはないだろ」
「それは」
「母上が、あんな風に色々更にやっているんだ。それを何もできないのにどんな顔をして会えと言うんだ」
「……」
侍従や女官たちは、それを聞いてからあまり言って来なくなった。
そのうち、なぜ、あんなにも皇女のことを褒めちぎっていたのかと周りが疑問を持ち始めた。側に寄らないようにすれば、正気でいられるようだ。
私は、皇女にどんな顔をして会えばいいのかが本当にわからなかった。前までは初々しい皇子を装っていたが、今会えばボロを出すに決まっている。
もう1人いるのだとしたら、街にいるのではないかと思い、何かと城を抜け出して街を散策するようにした。
「殿下」
「街では、若君と呼べ」
「ですが」
「探し人がいるんだ。お前も手伝え」
父の護衛をしている護衛長の息子の1人だ。1人はユーシュエンと言い、皇女の側にいるのが、同い年の幼なじみだ。
こいつは、ジュンユー。私より年上だ。更に可愛らしい婚約者がいる。その婚約者と婚約したいがために皇女の護衛役も幼なじみの座も弟に譲った男だ。
「皇女の護衛になったら、四六時中皇女殿下のことをお支えすることになる。私がずっと心に留めおきたいのは、婚約者したいと願う女性のみです」
そんなことを護衛長の父に言ったことで、こいつは私の護衛になった。悔しいかな。そんなこいつの婚約者は、ベタ惚れしている。
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なにせ、もう一方の方で、もう1人の妹が淹れる素朴なお茶が恋しくなって、彼女のことを暴く気が失せて会いに行って食事をして戻って来るのを楽しみにしてしまうのだ。
何とも不甲斐ないが、この時の私はディェリンの方が怪しくて仕方がなかった。
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