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『認められた皇女』
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しおりを挟むそんなユーシュエンに更に睨まれでもしたのか。好き勝手に話していた子息は、ビクッ!と震え上がった。それに気がついても、ディェリンは可哀想だと思うことは一切なかった。
可哀想なのは、これに巻き込まれている自分だと思っていたから助ける気など最初からない。チラチラと子息がディェリンを見ていたが、それが助けてもらえると思ってのことなら、おめでたい頭をしている。
もっとも、これがディェリンの好みの男性なら、ちょっとは……。いや、顔が好みでも、ここまでの態度の人を助けたりしたら、もっと面倒になる。
それにそんなのを気に入ったと思われたら、ディェリンの沽券に関わる。顔+良い声でも、足りない。足りなさすぎる。こんなのを見初めたら、笑いものになる。
颯爽と助けてくれたのが、顔と声が良かったら、グラグラしていただろうが。
そんなことをあれこれ考えているなんて思わせない顔と雰囲気を保ちながら、ディェリンは答えた。
「さぁ? 名乗りもしていないからよくわからないわ。でも、不思議よね。私が、婚約破棄になって、撤回してほしいとこれが言ってきたの。いつの間に私は婚約者ができて、破棄をしたのかしらね」
「……この男が、そう言ったのですか?」
一段とユーシュエンから低い声が聞こえた。ディェリンは、慣れっこだ。だが、初めて聞く者には恐ろしいようだ。
知らなかったとは言え、皇女を偉そうに指さし、あれこれ好き勝手なことを言っていた子息は、顔色を悪くしていた。今更でしかない。
「そうよ。おかしなことにそれを撤回してほしいのだとか。婚約者の顔も知らないのだが、我が国にいようとは思わなかったわ。そもそも、ここにいる女性は、私以外はいないはずなのにおかしなことをするものよね」
「へ?」
「我が大国では、男女の学び舎が別々なのよ」
「は? なら、何で……」
「私が皇女だからよ」
「……は? とんだアバズレだな」
その言葉により、その子息の三方向から風が舞った。
「やめよ」
「恐れながら、殿下を愚弄した。こんな奴、生かしておけません」
「ひぃ!! な、何だよ!?」
三方向から剣を向けられて、震え上がって腰を抜かしていた。
ディェリンが止めていなければ、首は宙を舞っていただろう。3人共、ディェリンの静止の言葉に従っていた。
1番遅かったのはユーシュエン。速かったのは、花影と見覚えがないが、良い腕の男子だ。彼が、生かしておけないと言った。先ほど、興味をなくして立ち去った者だろう。どうやら、戻って来たようだ。
「聞こえなかったの?」
「っ、申し訳ありません」
彼は、すぐに剣を鞘に戻した。花影も、声に従っていた。
ユーシュエンは、もたつきながら鞘に戻していた。無様すぎる。
「これは、どこの一族?」
「ガンラシュ国の留学生だと思われます」
見覚えのない男子は、そう答えた。
本来ならユーシュエンが、即答しているはずだが、彼を見た。ユーシュエンは、眉を顰めて思案していた。
「ユーシュエン」
「……留学生は、来週来る予定だと聞いておりましたが」
どうやら、早く着いたから、ここを見て回りたいと入って来たようだ。騒ぎを聞きつけて、学び舎の警備の者たちが慌ててやって来て、そう言った。
「あぁ、それで、見覚えがないのね。……だが、こんなのがよく留学できたものだわ」
ディェリンは、本気でそう思ってしまった。それこそ、彼のせいで、その国の評判がだだ下がりどころではない。今まさに下がっている。下がり続けていることがわかっていないのだろう。
この場にいる腰を抜かしている子息以外とディェリン以外が殺気立っている。
「な、何なんだよ。頭、おかしいんじゃないのか!?」
「おかしいのは、お前だ。皇女殿下。これは、私の落ち度です」
「いえ、我々がよく確認せずに通したことが発端です」
ユーシュエンと警備の者たちが、そんなことを言っていた。
「陛下に報告する。皇城の牢屋に入れておけ」
「は? 何でだよ!」
「うるさい! いい加減、殺されていても仕方がないことを理解しろ!!」
「っ、」
学び舎の警備の者たちは、何を言っても、理解できない子息を拘束して連れて行った。
「お前の名前は?」
「ハオランと申します」
「そう、良い腕ね。私の花影といい勝負だったわ」
「っ、」
それを聞いて、ユーシュエンは悔しそうな顔をした。彼は自分より距離があったところから、現れたのにユーシュエンがあの子息の首に剣を這わせるよりハオランが速かったことに気づいていたようだ。
「それは、訓練用の長剣ね」
「はい。訓練に行く途中で、聞くに堪えない言葉に動いてしまいました。お許しください」
ハオランは、跪いた。それすら様になる。
「ここでは、不要よ。訓練というと武官を目指しているの?」
「はい。父と祖父と兄は文官なのですが、私はそちらより武官を目指しております」
(変なことに腹の立つことを言われたけど、面白いものを見つけたわ。これよ! これ!)
ディェリンは、うきうきしていた。
「ハオラン。ここに来ている時に話し相手になって」
「あの、話し相手とおっしゃられても、殿下の好むような話は、俺には……」
「剣術のことでも、好きな食べ物、まぁ、何でもいい」
「はぁ」
「お前のことを知りたいの」
「っ、」
そこまで言われて、ようやくハオランは頬を赤らめたかというと違っていた。何を言われているかわかったようだが、目を見開いて驚いただけだった。
でも、ディェリンはそんな態度を気にもしなかった。やっと、探しものを見つけたことに浮かれきっていた。
花影が無表情になっていることにも気づいていなかった。
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