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『認められた皇女』
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しおりを挟む(ハオラン視点)
訓練をするのに訓練用の長剣が壊れてしまい、別のものを取りに行って、訓練棟に戻るところだった。
今日は怪我をしないようにしなくては。
いや、したら手当てしてもらえるなんて、邪なことを考えてはいない。……いないはずだ。
街の料理屋で見つけた女性がいるが、彼女が何かと怪我を見咎めて手当てしてくれるのだ。
そのせいで、張り切りすぎて訓練に熱を上げ過ぎて怪我をする。そう、わざとではない。
それに兄上までも、気にいってしまって、嫁にするとはざいたせいで、彼女の父親にボコボコにされかけた。
あれは、恐ろしかった。流石は、最年少で武将になれるとまで言われた武人だ。それが、愛してやまない妻のために身分も仕事もあっさり捨てて、料理屋の主人になったらしいが、最初はそんな話を全く信じていなかった。
でも、この間のを見ていたら、俺もまだまだだとわかった。
「どっちって、何で選ばなきゃいけないの?」
最初、何を言っているのかがわからなかった。いや、今も混乱している。
「こうしていると楽しいし、凄く安心感があるから、私が選ぶより、選んでもらえたら、嬉しいな」
兄と取り合っているのがわかっていたはずなのに彼女は、そんなことを言った。
彼女ならば、兄上と共有しても……。いや、そんなことをしていたら、あの手この手で兄上に取られることになる。
兄上は、魔性の女性だと言いながらも、彼女の案をあれこれ優先して実行できるように張り切って文官の仕事をしている。
完全なる私情で仕事していて、それを褒められているから腹が立つ。周りだけでなく、彼女を喜ばせていることがムカついてならない。
そんなことに頭を悩ませていたら、何やらおかしな連中がいた。隠れる気が全くない連中が、たくさんいて気持ち悪いなと眉を顰めていた。
「訓練バカも、皇女を見に来たのか?」
「誰が、訓練バカだ。……皇女が、来ているのか?」
「あぁ、また、空を見ている」
「また?」
「お前、ここ数ヶ月、この学び舎に顔を見せてくれているのを知らないとか言わないよな?」
「は? そうなのか?」
「……マジかよ」
そんな会話をしていると皇女がいると言うせいで気になって、目で追ってしまった。
「っ、」
そこには女性がいた。なぜ、この男子のみの学び舎にそんなのがいるのかと思ってしまったが、それが先ほどの話をしていた皇女なのだろう。
だが、何やら顔色が悪く見えて仕方がなかった。
「皇女は、具合がよくないのか?」
「は? 何、言ってるんだ?」
「そう見えないのか?」
「?」
他の者には、そうは見えないようだ。
家族の中でも鈍いとよく言われるが、皇女が息苦しそうにしているように見えてならなかった。
最近は、女心を知ろうとしているから、気遣えるようになってはいるはずだ。前までは兄上が、弟に春が来たと教えてくれていたが、今はライバルになってしまっている。
両親は、それを知って面白がっているが、兄上は誂われても余裕そうで、それすら腹が立って仕方がなかった。
あまりにも無理して辛そうな姿を見ているよりも、訓練をしようと移動をした。
でも、訓練に戻ってもやはり頭から離れない姿に今日は訓練しても、大怪我をしそうだと引き返した。
すると皇女に何やら言っている男がいた。
見かけたことのない男だった。武官を目指しているのもあり、顔と名前を覚えるのは得意だったからわかる。
それなりに頑張ってはいるが、周りからは筋肉バカと言われ続けている。
そんなつもりはない。兄上と取り合うほどの女性に惚れ込んでいる。そこの娘と仲良くなろうと必死になって通い詰めているが、そこの話をしていないだけだ。
女となると見境ない連中だ。街の娘なんか、遊び相手には丁度いいと思うに違いない。……と兄が言っていたから、絶対にしない。
兄も、最初は何気に気に入っているだけで、ふらっと立ち寄っている程度だった。それを聞いて、俺がどんなにイラッとしたことか。
「そんな顔するな。私の好みじゃない」
「……」
「なんだ? 詳しく聞きたいのか?」
「……なら、何で、立ち寄ってるんだ?」
「あの娘のしていることは、私が考えたものに似ているんだ。だから、困っていることがあればと思っているんだが、関わらせてくれないんだ」
「?」
「城仕えは仕事が忙しいだろうとまで言われた。あぁまで言われると是が非でも関わりたくなる」
「……」
兄の思考は理解できない。あれで、気に入っていないはずがない。
案の定、気に入ったと言い出して、嫁にしたいたまで言った早さにどれだけ驚かされたことか。
他にも、どこかのボンボンが狙っているから、気が気ではない。まぁ、あちらに取られるくらいなら、兄が掻っ攫う方が早いだろう。……負けたくはない。
まぁ、それはさておき、目の前のことだ。あんなのを学園で見た記憶はないし、思い当たるのは、留学生が来週に来るというものだった。
でも、それが早く到着したとは聞いていない。そう言うのを早めにもらえるのも、人の顔と名前を覚えて、街でも常習犯のスリを捕まえたりしているからだ。
警備の人たちとも仲良くなり、いざとなったら動けるようにと声をかけられて覚えるようになったが、あれは皇女がここに来ることになったからだったようだ。
そんなことをあれこれ考えていると聞き捨てならない声が聞こえて、それに身体が動いていた。
それは、断じて許しがたい言葉だった。初めて、人を殺そうとしていた。しかも、無意識で。
「やめよ」
その声に身体がすんでのところで静止した。訓練用でも、それなりの怪我を負わせられていただろうが、皇女の目がまっすぐに俺を見ていた。
それだけで、ゾクリとした。これは、主君にしてはいけない。何やら、色んな思惑の中にいるのに平然としている。
人として、平然としていられることがおかしく見えた。
俺が美しいと思ったのは、後にも先にも、街で働くあの娘だ。
あの娘が、俺の主君ならばとこの皇女を見て、なぜかそう思ってしまった。
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