歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

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『隠された皇女』

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側妃の1人だったが、皇帝に名前を呼ばれたことのない大勢の側妃に自らを意識的に埋もれさせながらも、このファバン大国が隠した歴史を正しく知ってしまった。彼女の名前は、ジンリー。

歴史好きなことから、皇帝の側妃に選ばれて街では読めない歴史の本を求めて後宮入りした彼女は、隠された正しい歴史を知る1人となった。

そして、そんな彼女が身ごもった。

皇帝のようにそれを知りながら、双子でなければ大丈夫だと安易に考えられはしなかった。

ましてやどちらが、そうなるかもわからないのに殺そうなどと思うことは決してなかった。

同じ日に後宮で、皇女が生まれたのだ。少しばかりディェリンが早く生まれたが、同等の関係性を持っているに違いないとジンリーは思った。

自分が産んだから、特別なのではない。生まれる前から、特別なのだ。

でも、他の多くの者たちは、自分たちが語り継いで聞かされて来た皇女が本当は双子で、国を滅ぼそうとした者を救おうとした事実を知らない。

皇女は1人。その方が救い、生まれ変わると約束したことが語り継がれているが、犠牲になったのは皇女2人で、彼女が救いたかったのは、その皇女だったことを誰もわかっていない。

何なら、己を犠牲にしても、他の何を犠牲にしてでも、先に逝った皇女を救いたかったことを誰も知らない。

愛しい人とは、恋人や婚約者のことではない。片割れのことをその皇女は大層、大事に思っていたのだ。

優しすぎて人々の思惑に翻弄され、己を消しても、そうなろうとし続ける彼女が、一度違う 面をあらわにした途端、その心を傷つけて暴走させることになったことを消し去ったのだ。

書庫の本を読み漁ったことで、その真実にたどり着いたことを悔やんだことはジンリーにはない。だって、それが正しい歴史なのだ。知らなければよかったというわけではない。

むしろ、多くの者が知らねばならないものだと思うほどだった。知ってしまった歴史に驚愕し、己が妊娠してからは、ずっともしものことを考えていた。


「この子だとは、思いたくない。でも、ズーウェイ様の女児がそうだとも思いたくない。だから、隠さなければ」
「……わかりました」


こうして、その側妃の彼女に仕える女官と侍従によって後宮から連れ出された。

そして、皇帝の寵妃として誰もが、彼女が皇妃となると思われていたズーウェイが亡くなった時に不謹慎ながらも、チャンスとばかりにジンリーは死産したと報告した。

そもそも、懐妊の知らせはしていても、ジンリーの子のことなど、皇帝だけでなく、ジンリーの側にいる者以外が興味なかったからこそ、なし得たことだった。

もとより皇帝にだけは、興味を持たれないようにジンリーは意識的にしてきた。己が皇帝になるために彼が何をして、皇帝の地位に就いたかをジンリーはよくわかっていた。歴史は繰り返すとはよく言ったものだ。

皇女を産ませるのは、自分だと歴代の皇帝が子作りに励んだことで男子は大勢生まれた。それが、次の皇帝の座をかけて争うのだ。

とんでもないことだ。黙って殺されろとジンリーは言う気はないが、その座に就くために血なまぐさいことになった。それで、数ヶ月おきに皇女のために感謝と祈りを捧げる特別な祭事を行っているのだ。滑稽でしかない。いや、むしろ、虫酸が走る。

だが、そんなことを考えているなんておくびにも出さずにその後は、子を亡くしたショックから塞ぎ込んだことを理由に後宮を去ることになった。

そんな演技しなくとも、ジンリーには簡単だった。産んだあの子が、街で安心できる人に預けられて暮らしていると女官に聞かされても、気が気ではなかった。なにせ実家には頼れない。存在を知った途端、有頂天になった家族が話さないわけがない。

そのため、食事なんて喉を通らなかった。食べる気はしないが、それでも必要最低限の栄養のみをとることにした。


「ジンリー側妃。少しはお食べになりませんと」
「……」


女官があれこれと食べさせようとしたが、ジンリーは痩せていくばかりだった。

そんな日々が続いて、ある日、皇帝が何かと気遣ってくれるようになった。それに心苦しさを感じなかった。

皇帝をも騙しているのだ。罪悪感がないわけではないが、でもそこに心を感じなかった。


「側妃よ」


だって、名前で呼ばれたことが一度もないのだ。いつも、そう呼ばれていた。それを聞くたび、ジンリーは大勢の側妃の中の1人だと思うことができた。

その目に宿っているのは、ジンリーへの気遣いのようでいて、寵妃があっさりと亡くなったことに悲しんでいるようでいて、目の前のジンリーと死んだとされる子を悼んでいるようにはあまり見えなかった。

そもそも、子供の性別を一度も問われなかったのだ。

ズーウェイが産んだのが女児で、もう他の者が皇女を産むわけがない。生まれたら困る。そんな気持ちが見え隠れしていた。だから、面倒な存在としかなり得ないジンリーの産んだ子供など、いなくなってホッとしているようにも思えて仕方がなかった。

それによってジンリーは、ここから出て我が子と暮らすことを固く誓って、身体を健康体に戻していった。

周りは……。


「せっかくの子を死産するなんて」

「あれで、陛下の心を射止められると思っているのよ」

「あんなのに通うのなんて、今だけよ。同情なさっているだけじゃない」


後宮の側妃たちは、ジンリーのところにやって来る皇帝に嫉妬して、そんな風に言われていたが、そんなの懐妊してからの方が酷かったからなんてことはなかった。

ただ、皇帝の周りの侍従長や女官長やらは、ジンリーの立ち居振る舞いに何やら考えているようだったが、皇帝が気づいていないなら問題はない。

皇帝に寵愛されないように気を遣っているのだ。愛想のない女を演じ、器量もそこそこな化粧をわざと施して、その辺の側妃と並べは特徴のない顔と動きをした。


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