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『隠された皇女』
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しおりを挟むあまりにもわかりやすい態度の違いにジンリーは笑ってしまった。
「ジンリー……? どうしたの?」
おかしそうに笑ってしまったが、気が狂ったように見えたのかもしれない。この家で、ジンリーは笑ったことがないのだ。
「私は、勘当されたはずでは?」
「何を言うのよ。そんなわけないでしょ」
すかさず母は、そう言った。それに頷いて父も……。
「そうだぞ。あれは、私が悪かった。陛下の子を殺したと言ったのは間違いだった」
「あ、あなた、それでは、ジンリーが悪いみたいではありませんか!」
「だが、生きて産む事ができないのなら、殺したと言っても間違いではないだろ!?」
「……」
「あんまりですわ!」
流石に母が聞き捨てならないと言い、使用人たちも父の言葉に眉を顰めていた。不快にならないわけがない。子を宿した者が、どんな気持ちで日々を過ごしているかをこの父は欠片もわかっていないのだ。
「そう、殺したとおっしゃるのなら、尚更私が、ここにいては迷惑になるだけです。私のことは死んだものと思ってください」
「待て! そんなこと言わなくていい」
「そうよ。もう、あなたを嫁にしたいと言う方がいるのよ!」
「は?」
流石に訳がわからなかったが、後宮で皇帝の子を死産したとは言え、妊むくらいの寵愛を受けた娘として、嫁にほしいと言われたようだ。
それを聞いてディェリンは、我慢ならずに激怒した。
「ふざけないで! 私は、もうあなたたちの都合の良い道具に使われたくはない!」
それでも、両親はジンリーのことを逃がすまいとしたのを逃げ出して、それっきりだ。育ててやった恩だと言われたが、そんなもの側妃になったことでチャラのはずだ。
大人しく嫁いだのだから。あの人との将来を泣く泣く棒に振って、体面は十分に保ったというのにまだ利用しようとする家族に対するジンリーの我慢は限界を遥かに超えた。
そこから、やっと我が子に会えた。会いたくてたまらなかった。我が子を抱いて落ち着いた。
「ジンリー様、大丈夫でしたか?」
「大丈夫よ。それより、様付けはやめて。家を勘当されているのよ」
「ですが」
「本当にありがとう。これ、少ないけど、受け取って」
「そんな」
「いいのよ。今回のことは、これでなかったことにして。私たちのことは誰にも言わないで」
「……わかりました」
そう言って受け取ってくれた。女児がふっくらとしているのを見ればわかる。愛情いっぱいに面倒を見てくれていたのだ。予定よりも長く世話をしてくれたから、とうに先に渡した金では足りなくなっていただろうに。
いい人に育ててもらえたことに感謝した。
そこから、ジンリーは街で暮らし始めた。
もう1人の皇女はリーシーという名前を与えて、己の出自を知らないまま、街で再会したジンリーが本当に結婚したいほど好きだった男性が、家を捨て、仕事を捨てて自分を探し出して、一緒に親子として暮らすことになるまで、そんなに時間はかからなかった。
「お前が後宮から戻ったと聞いたから、妻にと頼みに言ったら、いつも以上に酷かった」
「……」
「思わず殴ってしまった」
「っ、」
「大丈夫だ。殺してない」
「その心配はしてないわ」
彼は武官となっていて、ジンリーが覚えているよりも益々雄々しく屈強となっていた。
それに比べて柳のような父を殴ったとなれば、そちらのことを普通は心配するのかもしれないが、ジンリーはそうではなかった。
それを知られて、家でどれだけ怒られたことか。そちらのことを心配したのだ。
家を捨てるだけでなく勘当されて、元側妃と一緒になるのだ。仕事まで辞めたとあっさり言われることまでは、ジンリーは想像していなかった。
何より、探し出すとは思わなかった。もう、過去のことと思って、他の女性を妻にしていると思っていた。
「お前の子か?」
「……そうよ」
「そうか。愛らしいな。俺の子にしてもいいか?」
「っ、!?」
あっさりとそう言われたことに流石にジンリーも驚いた。どう見ても後宮を去ったばかりの女が、我が子というのだ。
怪しさしかないが、ジンリーに姉妹はいない。養子にするタイミングでもない。後宮から出てきて、家を必死に逃げ出した女が、そんな厄介事に首を突っ込むわけがない。
「お前の子なら、それでいい。俺が聞きたいのは、お前と結婚したいから、その承諾とこの子の父親になることを受け入れてくれれば、他には何もいらない」
「……この子を守ってくれる?」
あぅ~?と母が心配そうにしているのを察知したのか。きょとんとした目をして、屈強な男を見た。
まだ顔見知りでもないのか。怖い顔というのがよくわからないのか。じぃ~と男を見た。
「あぁ、お前たちを守ると誓う。この子の名前は?」
「リーシーよ」
「なぁ、リーシー。俺が父親になってもいいか?」
「あぃ!」
「「っ!?」」
その時、とてもいい返事をしたらしいが、リーシーは覚えていない。
何なら、それまでよほどのことがないと泣くこともなければ、声を上げて困らせることもなかった。
「そうか、そうか。お前は、俺の子だ。俺とジンリーの子だ。リーシー、安心していいぞ」
そう言って抱きかかえられて、きゃっきゃっと喜んだのを見てジンリーも喜んだ。
そこには、どこからどう見ても親子がいた。美しい妻と厳つい男。その腕に抱かれてはしゃぐ幼児。
初めて会う男にそんな風に笑うわけがない。
「あら、素敵な家族ね」
「本当だな」
見る者たち、みんながそう思うほど、しっくりくるものだった。
こうして、リーシーは己の出自を詳しく知らされぬまま、この両親のもとで大きくなることになった。
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