歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

文字の大きさ
43 / 50
『隠された皇女』

19

しおりを挟む

皇太子の後ろから、街の娘の格好をしてはいるが美しい娘が部屋に入って来た。

普段は真逆におさえた化粧をしているが、走って汗をかいてしまって、ここに入る前に拭き取ってしまったから綺麗さっぱりと落ちてしまっていた。

その空気は、澄み切っていた。まるで、語り継がれる皇女が現れたかのような雰囲気を纏う娘が誰なのかに気づいたのは、ハオランだけだった。


「っ!?」


ハオランは、彼女だけではない。入って来た3人を知っていた。街で働く娘とどこぞの世間知らずのボンボンだと思っていたのが、皇太子だったのだ。その後ろにお付きの青年もいた。

これまた街で見かけた時と同じような格好をしていて、こいつらリーシーのところから来たんだなとしか、ハオランは思わなかった。

ついでに、彼はリーシーのいつもと違う美しさに見惚れていた。化粧を落とした姿だ。本来は、誰にも見せないようにしている。ここから、本気で化粧をした姿は、誰もが見惚れるものになるはずだ。

ディェリンの時では、そんなことはなかった。彼女を見てゾクリとしたが、リーシーを見て己の主君を見つけた気がハオランはしていた。

そんな中で、護衛長が凄い顔をしていた。皇太子の付き人を睨んでいた。顔立ちが似ているから親子のようだ。もう1人、途方に暮れている子息がいるが、似ているから親子なのではなかろうか。

護衛長の息子たちが、皇子と皇女の護衛がやれるなんて凄いとは思ったが、似ている子息はあちらが年上だから兄なのだろうが、凄いニヤニヤして見ていた。

兄がやらかして怒られると思って嬉しそうにしていた。凄く嫌な奴にしか見えなかった。

その部屋にいた者たちは、それにギョッとしたのは皇太子が、女官でもない者をここに連れて来たからなのと女官の誰よりも、いや、皇女にも負けず劣らず、いや勝るような美しさをもっていたからだ。


「陛下。彼女は、リーシーです。この者なら、皇女様を……」


皇太子が話すのに割って入った。本来なら、してはならないことだ。


「陛下。時間がありません。皇女様にお声をかけてあげてください」


リーシーは、深々と頭を下げて、そう言った。侍医が、お手上げ状態だと言っている時に何を言い出すんだと思う者が多かった。


「……どういうことだ?」
「皇女様、居場所を求めておられます」
「っ、」
「ここにいて良いのだと陛下が、おっしゃってあげてください。そうでなければ、約束が反故になってしまうことに皇女様は、己を罰し続けてしまう。誓いを守ってよいのだとおっしゃってあげてください」


リーシーの言葉にズーウェイが死んだ時のことを皇帝は思い出した。

そこまでなら、それで死なないならばやるだけやってみるかと思っていたが、リーシーは更に続けた。


「そうでなければ、天変地異の被害が拡大していくことになり、この国は昔のような小国に戻ることになります」
「っ、!?」


だが、天変地異の被害が拡大して、小国に戻るという言葉に眉を顰めずにはいられなかった。


「お前は、皇女が天変地異を起こしていると言いたいのか!?」
「ここで幸せになることを約束したから、居場所がなくなってしまうことにその余裕がなくなっただけ。そのせいで、守りが薄まってしまったから、壊れて見えるだけのこと。壊そうとしているのではない。本気で壊す時は、そんな猶予などない。息をするように簡単に消せる。守ることをやめればいいだけのこと。それができないから、彼女は己を閉じ込めた。そうまでして、守ろうとしているのにお前たちは滅ぼそうとしたと言ったのを忘れているだけのこと」
「っ!?」
「彼女は、同じことはしない。そんなことをするくらいなら、自分を閉じ込める。お前たちが滅ぼした者と言って傷つくからではない。多くの民が苦しむからできない。彼女は、そういう皇女よ」


リーシーは、よく知っているかのように語った。それに皇帝が何か言う前に更に続けた。


「あなたは、よく知っているはず。皇女のことをあなたは、彼女の母である側妃を重ねて見てばかりいて、彼女自身を見てはいなかった。彼女の努力を褒めもせず、皇女なのだからと当たり前のようにさせ続けた。あなたは、残された歴史を知っているのに都合のよいことだけを信じて、皇女に当てはめた」
「黙れ!!」
「でも、残念ね。その残された歴史も、本当にあったことと違うわ」
「なんだと?」
「皇女は、双子のようにそっくりだけど、双子ではなかった。片方が滅ぼしたのをもう一方が救ったのではない。どちらも、この国を救おうとして、どちらも犠牲になった。なのにお前たちは、都合の良いようにねじ曲げた。私たちは、この国を救おうとしたのではない。ただ、幸せになってほしかっただけ。そう約束しあったから、お互いが幸せになるために生まれ変わり続けた。なのに」  


リーシーは、ディェリンが何を思って、自分を閉じ込めたかがわかった。だから、こんな国どうなっても構わないなんて思うわけにはいかなかった。

ハオランや皇太子やジュンユーは、それを黙って見ていた。言いたい放題をしすぎていて、皇帝に不敬すぎて、いつ殺せと命じられるかと気が気ではなかった。

もう1人の皇女がそこにいた。ディェリンと似た雰囲気を持ちながら、全く異なるものを内に秘めた者が、怒り狂うのを抑えるのに必死になっていた。

彼女は、皇帝のみならず、この場に居る者たちをを責めていた。そして、問うていた。

父として、この国の王として、あなたは、何を選ぶのかと。他の者も、何を選ぶかと。

その答えによってはリーシーは、この国の守りを放棄して、自分もディェリンと同じく閉じこもろうとしているように見えた。

今も天変地異が各地を襲っているのに皇帝は、皇女の父として、地位が脅かされることをそんな中で恐れているようにしか見えなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

アクアリネアへようこそ

みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。 家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!? 可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ! やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。 私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ! 働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。

置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」  大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。  嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。  中学校の卒業式の日だった……。  あ~……。くだらない。  脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。  全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。  なぜ何も言わずに姿を消したのか。  蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。 ──────────────────── 現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。 20話以降は不定期になると思います。 初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結】赤い薔薇なんて、いらない。

花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。 ■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)

すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき
恋愛
サーラには秘密がある。 絶対に口にはできない秘密と、過去が。 ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。 両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。 事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...