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第11話 木曜日のウサギ
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誕生日会当日。
「わぁ、玉くん似合ってる!」
「凄く可愛いですよ坊ちゃん!」
「……似合ってないし可愛くもない」
狂人デザイナーが作ったとしか思えない、男用バニー衣装。上半身も尻もスースーして、唯一守られているのはブーツのファーに覆われた脚だけという、服としての役割を一切果たす気がないバニーボーイ。
三上会長の友達である不動産ブローカー、秋津源五郎あきつげんごろうの愛人・良若よしわかの二十四歳のバースデーパーティー。二十四にもなってお誕生日会なんて聞いて呆れるが、会場は想像以上にセレブの客達が集まっていた。
今は俺達以外に誰もいない控え室の全身鏡に映る自分を見て、俺は崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「ああもうやだ……みんなに笑われるよこんな格好」
「そんなことないよ玉くん。愛人の子達は結構奇抜な衣装の子も多いから、玉くんが地味に見えるくらいだよ」
「ロッソ君の『地味』は信用できないよ……」
「そういえば頼寿さん、遅いですね。トイレですかね?」
広い控え室をキョロキョロと見回している快晴に、ロッソ君が「にひひ」と笑う。
「頼寿、色んなセレブとその愛人達に囲まれてたよ。ぜひウチのを調教してくれないか、って」
「………」
何だそれ、馬鹿らしい。
他に行くなら行きやがれ。馬鹿。
「心配しなくて大丈夫ですよ坊ちゃん。頼寿さんは坊ちゃんだけのご主人様です」
「し、心配なんかするかっ!」
「それじゃ俺は彼氏んとこ行くから、玉くん頑張ってね!」
「ロッソ君彼氏いるの? 知らなかった」
「店のオーナーだからオッサンだよ。ヒゲ生やしたドMのタチ」
ちょっと見てみたいし挨拶もした方が良いのだろうけれど、今の俺はまだ会場に出て行く勇気が持てない。
頼寿と会長が来てくれるというからこうして待っているのだが、二人ともジャンルは違えど有名人だからかなかなか来てくれないのだ。
「快晴も彼氏と来たんでしょ? 待たせていいのか?」
「そうですね、そろそろ俺も行ってやらないと……。会場のポールに鎖で繋いだままなので」
「な、何それ……」
つくづく俺はこの世界のことをよく分かってないのだと思う。彼らの行動にはいちいち驚かされっぱなしだ。
「……はあ……」
そうして二人がいなくなった控え室で、俺は泣きたくなるほど情けない自分を見て溜息をついた。
こんなことに慣れる日は来るんだろうか。人前でエロいことをするのだって、頼寿のテクニックがあるからへろへろになるだけで……別に癖になったり自分からやりたいなんて思わない。当然だけど。
そういえば頼寿は初めてロッソ君の店に行った時、「次から望んでステージに立ちたくなる」なんて言ってたっけ。
「全然なってないよ、馬鹿……」
それでも何だかんだ言いなりになってるのは、俺の調教師が頼寿だからだ。──他の奴だったらきっと、真剣に会長に頼んで辞めさせてもらってる。
「タマ、いるか」
考えていたら控え室のドアがノックされ、それとほぼ同時に頼寿が顔を覗かせた。
「あ、……!」
黒いスーツに合わせているのは、俺が買った青のネクタイだ。ブランド物で固めているくせに、ネクタイだけが安物で浮いてしまっている。
「………」
だけど頼寿がそれを選んでくれたことが嬉しくて照れ臭くて、俺はきゅっと唇を噛み締めた。
「変態的だな、その格好。流石の俺も勃つか分かんねえ」
「……ぐ、……」
前言撤回、嬉しくも照れ臭くもない。この俺がわざわざプレゼントしてやったんだから、着けて当たり前だ!
「わぁ、玉くん似合ってる!」
「凄く可愛いですよ坊ちゃん!」
「……似合ってないし可愛くもない」
狂人デザイナーが作ったとしか思えない、男用バニー衣装。上半身も尻もスースーして、唯一守られているのはブーツのファーに覆われた脚だけという、服としての役割を一切果たす気がないバニーボーイ。
三上会長の友達である不動産ブローカー、秋津源五郎あきつげんごろうの愛人・良若よしわかの二十四歳のバースデーパーティー。二十四にもなってお誕生日会なんて聞いて呆れるが、会場は想像以上にセレブの客達が集まっていた。
今は俺達以外に誰もいない控え室の全身鏡に映る自分を見て、俺は崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「ああもうやだ……みんなに笑われるよこんな格好」
「そんなことないよ玉くん。愛人の子達は結構奇抜な衣装の子も多いから、玉くんが地味に見えるくらいだよ」
「ロッソ君の『地味』は信用できないよ……」
「そういえば頼寿さん、遅いですね。トイレですかね?」
広い控え室をキョロキョロと見回している快晴に、ロッソ君が「にひひ」と笑う。
「頼寿、色んなセレブとその愛人達に囲まれてたよ。ぜひウチのを調教してくれないか、って」
「………」
何だそれ、馬鹿らしい。
他に行くなら行きやがれ。馬鹿。
「心配しなくて大丈夫ですよ坊ちゃん。頼寿さんは坊ちゃんだけのご主人様です」
「し、心配なんかするかっ!」
「それじゃ俺は彼氏んとこ行くから、玉くん頑張ってね!」
「ロッソ君彼氏いるの? 知らなかった」
「店のオーナーだからオッサンだよ。ヒゲ生やしたドMのタチ」
ちょっと見てみたいし挨拶もした方が良いのだろうけれど、今の俺はまだ会場に出て行く勇気が持てない。
頼寿と会長が来てくれるというからこうして待っているのだが、二人ともジャンルは違えど有名人だからかなかなか来てくれないのだ。
「快晴も彼氏と来たんでしょ? 待たせていいのか?」
「そうですね、そろそろ俺も行ってやらないと……。会場のポールに鎖で繋いだままなので」
「な、何それ……」
つくづく俺はこの世界のことをよく分かってないのだと思う。彼らの行動にはいちいち驚かされっぱなしだ。
「……はあ……」
そうして二人がいなくなった控え室で、俺は泣きたくなるほど情けない自分を見て溜息をついた。
こんなことに慣れる日は来るんだろうか。人前でエロいことをするのだって、頼寿のテクニックがあるからへろへろになるだけで……別に癖になったり自分からやりたいなんて思わない。当然だけど。
そういえば頼寿は初めてロッソ君の店に行った時、「次から望んでステージに立ちたくなる」なんて言ってたっけ。
「全然なってないよ、馬鹿……」
それでも何だかんだ言いなりになってるのは、俺の調教師が頼寿だからだ。──他の奴だったらきっと、真剣に会長に頼んで辞めさせてもらってる。
「タマ、いるか」
考えていたら控え室のドアがノックされ、それとほぼ同時に頼寿が顔を覗かせた。
「あ、……!」
黒いスーツに合わせているのは、俺が買った青のネクタイだ。ブランド物で固めているくせに、ネクタイだけが安物で浮いてしまっている。
「………」
だけど頼寿がそれを選んでくれたことが嬉しくて照れ臭くて、俺はきゅっと唇を噛み締めた。
「変態的だな、その格好。流石の俺も勃つか分かんねえ」
「……ぐ、……」
前言撤回、嬉しくも照れ臭くもない。この俺がわざわざプレゼントしてやったんだから、着けて当たり前だ!
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