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第11話 木曜日のウサギ
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「それにしても、めちゃくちゃ広い豪邸だな。ゲストのための控え室なんて普通ないだろ」
「それだけパーティー狂いってことだ」
しかもここが愛人宅だというから更に驚きだ。俺のマンションだって広さも立地もかなり良い所なのに、何だか世間って本当に俺の知らないことばかりなんだなと思う。
「頼寿、来るの遅かったけど何してたんだよ」
「旦那の知り合いに挨拶していた。それから、快晴の男が鎖に繋がれていたから少し話してきた」
ああ、本当に繋がれてたのか。
「……で、もう行く感じ?」
「お前の準備が終わってるならな」
そう言って、頼寿が不敵な笑みと共に左手を俺に差し出した。映画とかでたまに見るやつだ。
渋いスーツの男前が、ドレス姿の貴婦人に対して取るポーズ。
「エスコートするぜ、玉雪」
「………」
ああ──こんな格好で体験したくなかった。
*
ダイヤのシャンデリア。宝石みたいなきらきらしたシャンパン。各テーブルには豪華な料理の数々──。
メインホールには予想以上の人数が集まっていた。皆シャンパングラスを手に談笑したり、男同士寄り添ってイチャついていたり。
「玉雪!」
そんな人達の中から俺を見つけた三上会長が手を挙げて、こちらへ歩いてくる。
「似合ってるじゃないか! 今日も可愛いぞ、玉雪!」
「あ、ありがとうございます……良かった会長に会えて」
確かにロッソ君の言った通り、スーツ姿のイケメンや渋いおじさまの横についている愛人と思わしき奴らは奇抜な格好をしている者も多い。
どエロいボンテージや、ほぼ全裸みたいな薄っぺらな布の衣装。エスニック風の踊り子みたいな尻丸出しの男前もいる。
それでもやっぱり俺のウサギは地味どころかかなり露出度が高く、こうして立っているだけでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「おお三上くん、久しぶりだな」
俯いていたら背後から会長を呼ぶ声がして、思わず振り向く。そこには白髪の洒落た老紳士と、ワインレッドカラーの派手なスーツを来た青年が立っていた。
「秋津さん。良若くんも! お久しぶりです!」
どうやらこの二人がパーティーの主催者らしい。この派手な男が良若──金髪にブルーの瞳。違和感があまりないのは日本人離れした顔立ちのせいか。
「お誕生日おめでとう、良若くん。今日は招待して頂けて光栄だ」
会長が二人と握手を交わす横で、俺はボーッと立ち尽くしていた。
「挨拶しろ」
「あ」
頼寿に耳打ちされ、慌てて背筋を正す。
「あの、初めまして。三上会長の、えと……玉雪っていいます」
「これはこれは、愛らしいウサギの子だ」
おじいちゃんが学芸会でウサギ役をやる孫に言うみたいな口調で、秋津さんが俺の全身に視線を滑らせる。
「目のやり場に困るな、ははは」
エロい目付きではないから余計に恥ずかしかったが、……その隣で俺を見つめる良若の目は、秋津さんと違って妙にギラギラしていた。
「美味しそうなウサギさんだね」
唇がニッと歪んでいる。何だかゾッとして、俺は思わず頼寿に顔を向けた。
「今日は大いに楽しんでくれ。それではまた後ほど」
二人が去った後でようやく、体の力を抜いて息をつく。
「会長、どうされます。玉雪を連れて行きますか」
頼寿の問に対して、三上会長が俺の頭を撫でながら申し訳なさそうに言った。
「済まないが少しビジネスの話もしなくてはならなくてね。玉雪、しばらく頼寿と一緒にいてくれるかい」
「えっ、会長行っちゃうんですか?」
「話が終わったらすぐに合流しよう。食事を楽しんでくるといい」
仕方なく俺は頷いて、去って行く会長の背中を見つめながら唇を尖らせた。
「仕事の話に愛人は邪魔ってことかな……しょうがないけどさ」
「拗ねるな、タマ。飯でも食っとけ」
言われてテーブルの上のオードブルに視線を落とす。ローストビーフが食べたくてお皿に何枚も乗せていると、頼寿が呆れたように言った。
「……構わねえけど……食いすぎるなよ。その格好だと腹が出た時に目立つからな」
「それだけパーティー狂いってことだ」
しかもここが愛人宅だというから更に驚きだ。俺のマンションだって広さも立地もかなり良い所なのに、何だか世間って本当に俺の知らないことばかりなんだなと思う。
「頼寿、来るの遅かったけど何してたんだよ」
「旦那の知り合いに挨拶していた。それから、快晴の男が鎖に繋がれていたから少し話してきた」
ああ、本当に繋がれてたのか。
「……で、もう行く感じ?」
「お前の準備が終わってるならな」
そう言って、頼寿が不敵な笑みと共に左手を俺に差し出した。映画とかでたまに見るやつだ。
渋いスーツの男前が、ドレス姿の貴婦人に対して取るポーズ。
「エスコートするぜ、玉雪」
「………」
ああ──こんな格好で体験したくなかった。
*
ダイヤのシャンデリア。宝石みたいなきらきらしたシャンパン。各テーブルには豪華な料理の数々──。
メインホールには予想以上の人数が集まっていた。皆シャンパングラスを手に談笑したり、男同士寄り添ってイチャついていたり。
「玉雪!」
そんな人達の中から俺を見つけた三上会長が手を挙げて、こちらへ歩いてくる。
「似合ってるじゃないか! 今日も可愛いぞ、玉雪!」
「あ、ありがとうございます……良かった会長に会えて」
確かにロッソ君の言った通り、スーツ姿のイケメンや渋いおじさまの横についている愛人と思わしき奴らは奇抜な格好をしている者も多い。
どエロいボンテージや、ほぼ全裸みたいな薄っぺらな布の衣装。エスニック風の踊り子みたいな尻丸出しの男前もいる。
それでもやっぱり俺のウサギは地味どころかかなり露出度が高く、こうして立っているだけでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「おお三上くん、久しぶりだな」
俯いていたら背後から会長を呼ぶ声がして、思わず振り向く。そこには白髪の洒落た老紳士と、ワインレッドカラーの派手なスーツを来た青年が立っていた。
「秋津さん。良若くんも! お久しぶりです!」
どうやらこの二人がパーティーの主催者らしい。この派手な男が良若──金髪にブルーの瞳。違和感があまりないのは日本人離れした顔立ちのせいか。
「お誕生日おめでとう、良若くん。今日は招待して頂けて光栄だ」
会長が二人と握手を交わす横で、俺はボーッと立ち尽くしていた。
「挨拶しろ」
「あ」
頼寿に耳打ちされ、慌てて背筋を正す。
「あの、初めまして。三上会長の、えと……玉雪っていいます」
「これはこれは、愛らしいウサギの子だ」
おじいちゃんが学芸会でウサギ役をやる孫に言うみたいな口調で、秋津さんが俺の全身に視線を滑らせる。
「目のやり場に困るな、ははは」
エロい目付きではないから余計に恥ずかしかったが、……その隣で俺を見つめる良若の目は、秋津さんと違って妙にギラギラしていた。
「美味しそうなウサギさんだね」
唇がニッと歪んでいる。何だかゾッとして、俺は思わず頼寿に顔を向けた。
「今日は大いに楽しんでくれ。それではまた後ほど」
二人が去った後でようやく、体の力を抜いて息をつく。
「会長、どうされます。玉雪を連れて行きますか」
頼寿の問に対して、三上会長が俺の頭を撫でながら申し訳なさそうに言った。
「済まないが少しビジネスの話もしなくてはならなくてね。玉雪、しばらく頼寿と一緒にいてくれるかい」
「えっ、会長行っちゃうんですか?」
「話が終わったらすぐに合流しよう。食事を楽しんでくるといい」
仕方なく俺は頷いて、去って行く会長の背中を見つめながら唇を尖らせた。
「仕事の話に愛人は邪魔ってことかな……しょうがないけどさ」
「拗ねるな、タマ。飯でも食っとけ」
言われてテーブルの上のオードブルに視線を落とす。ローストビーフが食べたくてお皿に何枚も乗せていると、頼寿が呆れたように言った。
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