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ブックライター
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家政夫として鈴木家へ住み込むことになった智樹は、和葉の婚約者とも顔合わせすることになり、喫茶店を出たその足で鈴木兄弟の自宅へと向かう。
そこまでの道のりで、彼らの仕事について詳しく教えてもらった。
和葉はテーマパークに隣接するホテルで働いており、以前は裏方の部署で備品の管理や清掃スタッフの取りまとめをしていたのだが、接客部門の人手が足りなくなって駆り出され、今はフロントを担当しているそうだ。
ちなみに、和葉の婚約者は同じホテルのコンシェルジュをしているらしい。
高級ホテルに縁の無い智樹は“コンシェルジュ”というのが何のことか全く分からず
「何ですかそれ?」
と尋ねたら
「宿泊客のリクエストに応えて、チケットの手配をしたりレストランの予約をしたり……そういう案内役というか、お世話係みたいな役割のことだよ」
という答えが返ってきた。
「へえ、なんかカッコいいですね」
敬語は使わなくていいと言われたものの、和葉は智樹より二つ年上だったので、どうしても丁寧な口調になってしまう。
そこへ彩葉が会話に割り込んできた
「仕事してる時はどうだか知らないけど、普段の梨花は全然カッコよくないよ。毒舌だし、図々しいし」
それを聞いた和葉は、ため息混じりに彩葉を咎める。
「なんでそんなに嫌うんだよ。梨花は素直に思ったことを口にしてるだけじゃないか」
「あいつの発言はデリカシーが無さ過ぎるんだよ!」
「悪気は無いんだって」
「それが余計にムカつくんだよ」
二人が口喧嘩を始めたので、智樹はさりげなく話題を変える。
「あの……彩葉くんは何の仕事をしてるの?」
和葉は年上なのでさん付けで呼び、彩葉は三つ年下だと聞いたので、くん付けで呼んでみる。
だが彩葉はそれが気に入らなかったようで、片方の眉をちょっと吊り上げて智樹の方を見た。
「呼び捨てでいいよ、俺も智樹って呼ぶから」
そう言われて
「分かった。で、彩葉の仕事は?」
智樹が先ほどと同じ質問を繰り返すと
「ブックライター」
という耳慣れない言葉が返ってきた。
「ブックライター? 何それ、初めて聞いたんだけど」
「有名人の代わりに、本を書く仕事だよ。芸能人とかスポーツマンとか、他にもいろいろ。本業が忙しい著名人にインタビューして、それをもとに本を書くんだ。それが俺の仕事」
彩葉の説明に、智樹はごくりと唾を飲み込む。
「それって……ゴーストライターってやつ? ていうか、そんな裏事情を軽々しく話しちゃって大丈夫なの?」
誰かに話を聞かれたのではないかと周囲を見回す智樹の姿に、彩葉が吹き出す。
「全然大丈夫だよ。それに、俺はゴーストライターじゃなくてブックライターだから」
違いが分からなくて困惑する智樹に、彩葉が説明を加える。
「ゴーストライターってのは、ある特定の作家から個人的に雇われた日陰の身で、名前が世に出ることは無いだろ? でも、ブックライターは違う。顧客は不特定多数だし、基本的には出版社から依頼が来る。それに、共著者として名前を載せてもらえることもあるから、別に隠す必要もない」
彩葉の話を聞いて、智樹はますます混乱した。
「えっ、でも……やっぱり本人が書いてないって分かったらマズイような気が……」
智樹の言葉に、彩葉は複雑な表情を浮かべる。
「そっか。まぁ、そう思う人もいるよね。でも俺は、仕事のこと聞かれたら正直に答えるよ。別にやましいことをしているわけじゃないし。だってさ、考えてもみてよ。俺は別に他人に成りすまして嘘八百を並べ立ててるわけじゃなくて、ちゃんと本人にインタビューをして、その人の伝えたいことを代わりに書いているだけなんだ。本人の言葉を文字に変えて伝えているだけ。だから、俺の主観とか思想は一欠片も入ってないし、誇張や歪曲も一切してない」
そう語る彩葉の視線が、まっすぐに智樹の眼を射抜く。
途端に、智樹は先程の自分の言動が恥ずかしくなる。
「あー、なんかごめん。彩葉の仕事を貶すつもりは全然なくって……なんて言うか、何も知らなかったから……。とにかく、ごめん」
上手く言えなかったが、彩葉は気持ちを汲み取ってくれたようで、白い歯を見せて笑った。
華奢で中性的な顔立ちの彩葉と、がっしりした体格で男らしい顔つきの和葉は、全く似ていない。
智樹が軽い気持ちで
「二人ってあんまり似てないですよね」
と口にすると
「そりゃあ似てないだろうね。俺達、血の繋がりはないから」
と彩葉が答える。
「えっ」
と驚く智樹に、和葉が事情を打ち明ける。
「俺、養子なんだ。なかなか子供に恵まれなかった彩葉の両親が俺を養子に迎えて……その後に彩葉が生まれた。俺は物心つく前に引き取られたから、自分が養子だなんて全然知らなくてさ。両親が事故で亡くなった後に分かって、本当に驚いたよ」
知らなかったとはいえ、立ち入った話を聞いてしまった智樹は、居たたまれない気持ちになる。
情けない表情で言葉に詰まっていると、彩葉が智樹の背中をポンと叩いた。
「そんな顔すんなって! それよりさ、途中でアイス買って帰ろうよ。なんか俺、甘いもん食いたくなっちゃった」
明るい声で、彩葉が話題を逸らしてくれる。
その心遣いに、智樹は救われたような気持ちになった。
そこまでの道のりで、彼らの仕事について詳しく教えてもらった。
和葉はテーマパークに隣接するホテルで働いており、以前は裏方の部署で備品の管理や清掃スタッフの取りまとめをしていたのだが、接客部門の人手が足りなくなって駆り出され、今はフロントを担当しているそうだ。
ちなみに、和葉の婚約者は同じホテルのコンシェルジュをしているらしい。
高級ホテルに縁の無い智樹は“コンシェルジュ”というのが何のことか全く分からず
「何ですかそれ?」
と尋ねたら
「宿泊客のリクエストに応えて、チケットの手配をしたりレストランの予約をしたり……そういう案内役というか、お世話係みたいな役割のことだよ」
という答えが返ってきた。
「へえ、なんかカッコいいですね」
敬語は使わなくていいと言われたものの、和葉は智樹より二つ年上だったので、どうしても丁寧な口調になってしまう。
そこへ彩葉が会話に割り込んできた
「仕事してる時はどうだか知らないけど、普段の梨花は全然カッコよくないよ。毒舌だし、図々しいし」
それを聞いた和葉は、ため息混じりに彩葉を咎める。
「なんでそんなに嫌うんだよ。梨花は素直に思ったことを口にしてるだけじゃないか」
「あいつの発言はデリカシーが無さ過ぎるんだよ!」
「悪気は無いんだって」
「それが余計にムカつくんだよ」
二人が口喧嘩を始めたので、智樹はさりげなく話題を変える。
「あの……彩葉くんは何の仕事をしてるの?」
和葉は年上なのでさん付けで呼び、彩葉は三つ年下だと聞いたので、くん付けで呼んでみる。
だが彩葉はそれが気に入らなかったようで、片方の眉をちょっと吊り上げて智樹の方を見た。
「呼び捨てでいいよ、俺も智樹って呼ぶから」
そう言われて
「分かった。で、彩葉の仕事は?」
智樹が先ほどと同じ質問を繰り返すと
「ブックライター」
という耳慣れない言葉が返ってきた。
「ブックライター? 何それ、初めて聞いたんだけど」
「有名人の代わりに、本を書く仕事だよ。芸能人とかスポーツマンとか、他にもいろいろ。本業が忙しい著名人にインタビューして、それをもとに本を書くんだ。それが俺の仕事」
彩葉の説明に、智樹はごくりと唾を飲み込む。
「それって……ゴーストライターってやつ? ていうか、そんな裏事情を軽々しく話しちゃって大丈夫なの?」
誰かに話を聞かれたのではないかと周囲を見回す智樹の姿に、彩葉が吹き出す。
「全然大丈夫だよ。それに、俺はゴーストライターじゃなくてブックライターだから」
違いが分からなくて困惑する智樹に、彩葉が説明を加える。
「ゴーストライターってのは、ある特定の作家から個人的に雇われた日陰の身で、名前が世に出ることは無いだろ? でも、ブックライターは違う。顧客は不特定多数だし、基本的には出版社から依頼が来る。それに、共著者として名前を載せてもらえることもあるから、別に隠す必要もない」
彩葉の話を聞いて、智樹はますます混乱した。
「えっ、でも……やっぱり本人が書いてないって分かったらマズイような気が……」
智樹の言葉に、彩葉は複雑な表情を浮かべる。
「そっか。まぁ、そう思う人もいるよね。でも俺は、仕事のこと聞かれたら正直に答えるよ。別にやましいことをしているわけじゃないし。だってさ、考えてもみてよ。俺は別に他人に成りすまして嘘八百を並べ立ててるわけじゃなくて、ちゃんと本人にインタビューをして、その人の伝えたいことを代わりに書いているだけなんだ。本人の言葉を文字に変えて伝えているだけ。だから、俺の主観とか思想は一欠片も入ってないし、誇張や歪曲も一切してない」
そう語る彩葉の視線が、まっすぐに智樹の眼を射抜く。
途端に、智樹は先程の自分の言動が恥ずかしくなる。
「あー、なんかごめん。彩葉の仕事を貶すつもりは全然なくって……なんて言うか、何も知らなかったから……。とにかく、ごめん」
上手く言えなかったが、彩葉は気持ちを汲み取ってくれたようで、白い歯を見せて笑った。
華奢で中性的な顔立ちの彩葉と、がっしりした体格で男らしい顔つきの和葉は、全く似ていない。
智樹が軽い気持ちで
「二人ってあんまり似てないですよね」
と口にすると
「そりゃあ似てないだろうね。俺達、血の繋がりはないから」
と彩葉が答える。
「えっ」
と驚く智樹に、和葉が事情を打ち明ける。
「俺、養子なんだ。なかなか子供に恵まれなかった彩葉の両親が俺を養子に迎えて……その後に彩葉が生まれた。俺は物心つく前に引き取られたから、自分が養子だなんて全然知らなくてさ。両親が事故で亡くなった後に分かって、本当に驚いたよ」
知らなかったとはいえ、立ち入った話を聞いてしまった智樹は、居たたまれない気持ちになる。
情けない表情で言葉に詰まっていると、彩葉が智樹の背中をポンと叩いた。
「そんな顔すんなって! それよりさ、途中でアイス買って帰ろうよ。なんか俺、甘いもん食いたくなっちゃった」
明るい声で、彩葉が話題を逸らしてくれる。
その心遣いに、智樹は救われたような気持ちになった。
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