ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Yukito: 夫婦の会話みたいだな。

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 ピンク、水色、クリーム色。水玉、ハート、お星さま。ふわふわ、キラキラ、やわらかい。
「うわ、ちっせー」
 ぼんぼりの揺れる靴下を壊れ物のように手に取り、空乃が笑う。
 その横で行人は手を顎に当てる。
「もはや何を買えばいいのか分からなくなってきた」
 末弟のたもつの妻、市子いちこが出産した。
 ということで、新宿伊勢丹本館6階ベビー服売り場で絶賛出産祝い探し中の行人と空乃である。
 事前にネットで、喜ばれる出産祝いランキングや貰って嬉しかった出産祝い特集をチェックしてきたのだが、バリエーションが多すぎて逆に何が良いのか分からなくなった。
 周りは夫婦や家族連ればかりで、若干居心地も悪い。
「市子ちゃんに何が欲しいか直接聞こうかな」
「いや、サプライズ感大事だろ。お、この食器、竹製だってさ」
 ベビー用品なんて関心ないだろうと踏んでいたのに、プレゼント選びに誘うと空乃は喜んでついて来た。今も行人より真剣に品物を物色している。
「すんません、姪っ子の出産祝い探してるんですけど、売れ筋ってどれっすか?」
「それはおめでとうございます。ご予算やお好みはございますか?」
 流石老舗百貨店のプロだ。
 中年の女性店員は、金髪ポニーテールでピアスじゃらじゃらの空乃にも眉一つ動かさず、笑顔で応じた。
「ユキ、予算ってある?」
「うーん、送料別で2万円以内かな」
「だそうです」
「少々お待ちくださいませ」
 店員は店内を機敏に動いて、いくつかの品物をテーブルに並べてくれる。
「これだろ」
「これがいい」
 ロンパース、おくるみ、タオル、食器、おむつケーキ。ずらりと並ぶ商品を見た行人と空乃は、同時に同じものを指差した。
「ぜってー可愛い」
「よな」
 クリーム色のクマの着ぐるみである。
 耳と尻尾、肉球までついているディテールで、見た目も可愛いがもこもことあったかそうだ。
「そういや、俺、子供の頃こんなん着せられてたわ。写真で見ただけで覚えてねえけど」
 空乃の発言に、行人は着ぐるみと空乃を見比べる。
「金髪のクマって」
「いや、これ染めだからな。ガキの頃は黒かったっつーの」
「あ、そうか。下は黒いもんな。な、今度その写真見せて」
 そう言うと、空乃はぽんと行人の頭に手を置いた。
「実家だから、データ貰っとく」
「うん。じゃあ、これに、このタオルもつけようかな」
「いいじゃん、肌触りいいし。俺も欲しいな」
「君の部屋、タオル山ほどあるだろ。今治とかの上等なやつ」
「実家が中元横流してくんだよ」
「贅沢な話だな」
「ユキちゃんも使ってんじゃん」
 こほんと店員が咳払いをしたので、行人は我に返る。店員の存在を忘れて、二人の会話に入り込んでいた。
 人前で言ってはいけないことを言った気がする。バツの悪い思いをしていると、空乃は気にした風もなく店員に話しかけた。
「すみません、この二つ包んでください。郵送でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 店員は表情こそ変えていないが、去っていくその肩が笑っていた。


 催事会場の北海道物産展で夕食用の駅弁を買ってから外に出ると、もう夕暮れだった。
 土曜日の新宿は人通りが多い。
 灯り始めるネオンに、街は少しずつ夜の顔を覗かせている。
 吹き抜ける木枯らしに行人はコートの胸元を掻き合わせた。
 新宿駅に着くと、人身事故で山手線が止まっていたので、バスで帰ることにした。最後列に並んで座り、荷物は空乃が膝に乗せてくれる。
 車窓の雑踏を眺める空乃の横顔は出逢った時より大人びた。たった8か月間だが、十代の男子の成長は著しい。
「空乃、子供好きだったんだな」
 話しかけると、空乃は不思議そうに行人を見た。
「いや、全然。寧ろ苦手だけど、なんで」
「ベビー服売り場で楽しそうにしてたから」
 空乃はふはっと笑った。
「ユキといる時はいつだって楽しいって。それにユキの姪っ子だろ。真剣に選びたいじゃん」
「そうか。ありがとう」
 どういたしまして、と応じる空乃の肩に行人はもたれかかった。冷えた身体を互いの体温が行き交う。
 人込みで疲れたのか、少し眠い。空乃の匂いとバスの振動が心地よい。
「おまえ、子供欲しいとか思わないの」
 呟くと、空乃も行人の頭にもたれ掛かってくる。
「高校生が子供欲しいとか言ってたら、きもくね?」
「将来的に」
「要らない。ユキがいればそれでいい」
 空乃は即答する。 
 膝に置いた伊勢丹の紙袋を、対向車線のライトが照らしていく。
 紙袋の下でこっそり繋いでいる手に力が込められた。空乃が好きだ。
「うん。俺も」
 眠気に目をしぱしぱさせていると、気配が伝わったのか空乃が囁く。
「ちょっと寝ろよ。渋谷で乗り換えだから、着いたら起こす」
「うん。眠いし、腹減った」
「どっちがガキだよ。家着いたら、吸い物だけ作って、メシにしよーぜ」
「なんか、夫婦の会話みたいだな」
「似たようなもんだろ」
 空乃が言い、行人は安心して目を閉じた。
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