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04:突然のカムアウト
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話が楽しくて、気づけば買い込んだビール10本は空になっていた。
時計を見ると午後9時半。寝るにはまだ早いし、飲み足らない気もする。
有馬の顔も白いままで、全然酔っているふうでもない。
「有馬。まだ飲める?」
「飲めるよ」
「じゃ、ワイン開けようぜ」
航平はスーツケースから緩衝材に包まれた赤ワインを取り出した。土産用に買ったオーストラリア産の品だが、明日また空港で買いなおせばいい。
ワイングラスはないので、備え付けのタンブラーを軽くすすいで使うことにする。
「開けちゃっていいの?」
「ああ。また買えばいいし。飲み足らないだろ」
「じゃあ、遠慮なく。僕が開けるよ」
有馬がワインオープナーを使っている間に、航平は食べ終えた中華の容器を片付けた。
ビニール袋に容器をまとめようとして、底にショップカードが入れられているのに気付く。
摘まみ上げると、店舗情報の横の空白に、Kateという名前とSNSのIDがハートマーク付きで走り書きしてある。
そういえば、中華料理店のキャッシャーのお姉さんはやけに熱心に有馬に話しかけていた。
イケメンパワーは世界共通だ。
航平は、ワインを注ぐ有馬にカードに差し出した。
「有馬宛だろ」
「君かもしれないだろ」
「いやいや、あのお姉さん、目ハートにしてあんたに話しかけてたじゃん」
「そう? 気づかなかった。それにしても、こうやって個人情報を簡単にバラまく子の気がしれない」
有馬はカードを無造作に破いて、ゴミ箱に入れてしまう。
「もしかして、こういうのよくあるのか」
「それなりにね」
「イケメンすげえ。なあ、でも結構綺麗なお姉さんだったよな。タイプじゃなかった? ああれ、有馬ってそもそも独身? 彼女とかいんの」
調子に乗って掘り下げると、有馬はワインをすっと飲み干してから、真顔になって航平を見た。
「僕は女性には興味ないから」
ええと。それは、つまり。
「ゲイってこと?」
「そうだよ」
有馬は静かに肯定した。
「ごめん」
「どうして君が謝るの」
「いや、俺、そういう可能性とか考えずに調子に乗って喋ってたから」
酒が入っているとはいえ、会ったばかりの奴にプライベートな質問をしすぎた。
居心地が良すぎて、境界線を忘れていた。
「君はいい人だね」
有馬は視線を落としてそう言ってから、明るい声で付け加えた。
「ちなみに、ゲイだって誰かれ構わず襲うわけじゃないから、安心して」
「まあ、そりゃあ、俺だってその気のない女の子に襲い掛かったりしないしな」
嗜好が違うだけで、恋愛のルールやマナーが変わるわけではない。それよりも。
「なんで俺に本当のこと言ったんだ?」
旅先で会っただけの相手だ。
女のタイプだってなんだって、適当に嘘をつけばいいだけのことなのに。
有馬は少し考えてから答えた。
「隠してないからね。訊かれたら答えるようにしているし。それに、君には嘘をつきたくなかったからかな」
「俺には?」
「君みたいに、明け透けに正直になんでも話してくれる人にはね」
「そっか。んじゃあ、この話はもう終わりな」
航平はぱんと膝を叩いて、立ち上がった。
テレビ台に置かれている果物かごからオレンジとリンゴを取ると、タオルで磨いてから携帯用の万能ナイフを入れる。
「つまみに食おうぜ。ホテルがサービスしてくれたんだけど、一人じゃ食いきれなくてさ」
航平はフルーツ簡単な飾り切りにして、皿はないのでコーヒーカップのソーサーに並べていく。ついでに冷蔵庫に入っていたチーズとナッツも添える。
「手際いいな。航平は料理もするんだ」
「仕事結構忙しいから、気が向いた時だけな。そんな凝ったもんは作れねえし」
「僕はまったくできないよ。仕事も外に出てることが多いから、ほぼ外食。料理どころか家事全般無理」
「実家暮らしとか?」
有馬はオレンジを口に入れ、ワインに合うねと感想を漏らしてから続けた。
「一人暮らしだけど、家事は週1でハウスキーパー入れてる」
「リッチな話だなあ。うちは父親がほとんど家にいなかったから、子供の頃から家事やってたんだよ」
「そうなんだ」
「コメントしづらい会話振って悪い。父親、船乗りで、俺が高校の時に亡くなったんだ。有馬ん家は、健在?」
「幸運なことにね。両親と兄と妹がいる」
「へえ。妹、絶対美人だろ」
有馬が男でこれほど美形なのだ。
また女の話になってしまったが、有馬は気にするふうではなく、優しい顔つきになった。
可愛がっている妹なのだろう。
「僕は母親似で、妹は父親似なんだけど、可愛いよ」
「いいなあ、俺、一人っ子だからさ。美人な姉ちゃんとか可愛い妹とかすげえ憧れ。写真とかないの」
「あるけど、女性の写真を勝手に見せるのはね」
「そりゃそっか。悪い」
「代わりに、さっきのワニのベストショットを見せてあげよう」
有馬は得意げにスマホを取り出した。ベッドに座る有馬の横に並んでスマホを覗き込む。
フォトフォルダには、これでもかというくらいワニの写真が保存されている。
迫力あるドアップから、よく目を凝らさないと見つけられないような遠景まで様々だ。
時計を見ると午後9時半。寝るにはまだ早いし、飲み足らない気もする。
有馬の顔も白いままで、全然酔っているふうでもない。
「有馬。まだ飲める?」
「飲めるよ」
「じゃ、ワイン開けようぜ」
航平はスーツケースから緩衝材に包まれた赤ワインを取り出した。土産用に買ったオーストラリア産の品だが、明日また空港で買いなおせばいい。
ワイングラスはないので、備え付けのタンブラーを軽くすすいで使うことにする。
「開けちゃっていいの?」
「ああ。また買えばいいし。飲み足らないだろ」
「じゃあ、遠慮なく。僕が開けるよ」
有馬がワインオープナーを使っている間に、航平は食べ終えた中華の容器を片付けた。
ビニール袋に容器をまとめようとして、底にショップカードが入れられているのに気付く。
摘まみ上げると、店舗情報の横の空白に、Kateという名前とSNSのIDがハートマーク付きで走り書きしてある。
そういえば、中華料理店のキャッシャーのお姉さんはやけに熱心に有馬に話しかけていた。
イケメンパワーは世界共通だ。
航平は、ワインを注ぐ有馬にカードに差し出した。
「有馬宛だろ」
「君かもしれないだろ」
「いやいや、あのお姉さん、目ハートにしてあんたに話しかけてたじゃん」
「そう? 気づかなかった。それにしても、こうやって個人情報を簡単にバラまく子の気がしれない」
有馬はカードを無造作に破いて、ゴミ箱に入れてしまう。
「もしかして、こういうのよくあるのか」
「それなりにね」
「イケメンすげえ。なあ、でも結構綺麗なお姉さんだったよな。タイプじゃなかった? ああれ、有馬ってそもそも独身? 彼女とかいんの」
調子に乗って掘り下げると、有馬はワインをすっと飲み干してから、真顔になって航平を見た。
「僕は女性には興味ないから」
ええと。それは、つまり。
「ゲイってこと?」
「そうだよ」
有馬は静かに肯定した。
「ごめん」
「どうして君が謝るの」
「いや、俺、そういう可能性とか考えずに調子に乗って喋ってたから」
酒が入っているとはいえ、会ったばかりの奴にプライベートな質問をしすぎた。
居心地が良すぎて、境界線を忘れていた。
「君はいい人だね」
有馬は視線を落としてそう言ってから、明るい声で付け加えた。
「ちなみに、ゲイだって誰かれ構わず襲うわけじゃないから、安心して」
「まあ、そりゃあ、俺だってその気のない女の子に襲い掛かったりしないしな」
嗜好が違うだけで、恋愛のルールやマナーが変わるわけではない。それよりも。
「なんで俺に本当のこと言ったんだ?」
旅先で会っただけの相手だ。
女のタイプだってなんだって、適当に嘘をつけばいいだけのことなのに。
有馬は少し考えてから答えた。
「隠してないからね。訊かれたら答えるようにしているし。それに、君には嘘をつきたくなかったからかな」
「俺には?」
「君みたいに、明け透けに正直になんでも話してくれる人にはね」
「そっか。んじゃあ、この話はもう終わりな」
航平はぱんと膝を叩いて、立ち上がった。
テレビ台に置かれている果物かごからオレンジとリンゴを取ると、タオルで磨いてから携帯用の万能ナイフを入れる。
「つまみに食おうぜ。ホテルがサービスしてくれたんだけど、一人じゃ食いきれなくてさ」
航平はフルーツ簡単な飾り切りにして、皿はないのでコーヒーカップのソーサーに並べていく。ついでに冷蔵庫に入っていたチーズとナッツも添える。
「手際いいな。航平は料理もするんだ」
「仕事結構忙しいから、気が向いた時だけな。そんな凝ったもんは作れねえし」
「僕はまったくできないよ。仕事も外に出てることが多いから、ほぼ外食。料理どころか家事全般無理」
「実家暮らしとか?」
有馬はオレンジを口に入れ、ワインに合うねと感想を漏らしてから続けた。
「一人暮らしだけど、家事は週1でハウスキーパー入れてる」
「リッチな話だなあ。うちは父親がほとんど家にいなかったから、子供の頃から家事やってたんだよ」
「そうなんだ」
「コメントしづらい会話振って悪い。父親、船乗りで、俺が高校の時に亡くなったんだ。有馬ん家は、健在?」
「幸運なことにね。両親と兄と妹がいる」
「へえ。妹、絶対美人だろ」
有馬が男でこれほど美形なのだ。
また女の話になってしまったが、有馬は気にするふうではなく、優しい顔つきになった。
可愛がっている妹なのだろう。
「僕は母親似で、妹は父親似なんだけど、可愛いよ」
「いいなあ、俺、一人っ子だからさ。美人な姉ちゃんとか可愛い妹とかすげえ憧れ。写真とかないの」
「あるけど、女性の写真を勝手に見せるのはね」
「そりゃそっか。悪い」
「代わりに、さっきのワニのベストショットを見せてあげよう」
有馬は得意げにスマホを取り出した。ベッドに座る有馬の横に並んでスマホを覗き込む。
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