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24:岩国にて悪友と。
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岩国航空基地は、海上自衛隊とアメリカ海兵隊が共同使用する基地である。
アスファルトの滑走路は照り返しがきつく、有馬は手で目元を覆った。遠くで離発着を繰り返す戦闘機の轟音が響いている。
長大な滑走路には垂直離着陸機V-22、通称オスプレイが駐機されており、その周りを取り囲む防衛大臣とお付きの官僚達、有馬ら同行記者に対して、陸上自衛隊員が機体の説明をしてくれている。
番記者の仕事のひとつに、同行取材というものがある。閣僚が国内外に外遊する際に記者が同行し、その動静を報道するものだ。
今回の視察も、各メディアの番記者総勢14人が同行している。
総理や外務大臣ほどではないが、防衛大臣も海外・国内問わず出張が多い。
有馬は、隊員の説明と防衛大臣のコメントを手元のメモに書きつけ、ホームページのニュースサイト掲載用の写真を撮影する。
防衛大臣が件のオスプレイに試乗している間に、記者たちは基地内の控室で手早く昼食を済ませ、執筆作業をする。
「有馬さん、ムービー確認しますか」
カメラマンの竹本がモニターに映した数本の映像を、有馬は手早く確認する。
「ありがとう。お、この離陸のシーン、すごい迫力だね」
「ニュースには使ってもらえないですけどね」
「離着陸の映像は尺が長いもんなあ。オスプレイ視察のニュースだと、長くても20秒しか割けないだろうし」
「今日のトップは千葉の無差別通り魔事件に持ってかれますしね」
有馬はテレビ局の記者なので、取材にはテレビ用のムービー撮影スタッフも同行している。竹本はクールで腕のいいカメラマンだ。
映像を確認しながら、有馬は夕方のニュース用の原稿とホームページ掲載用の記事を作成して、東京のデスクに送信した。
テレビ局の記者には、外で取材を行う取材記者と、取材記者が集めた情報を元にニュース原稿を書く内勤の編集記者に分かれる。今の有馬は取材記者だが、必要に応じて自分でニュース原稿を書くことも多い。
この後は、基地司令による大臣表敬と、自衛隊員に対する大臣の訓示、米軍との意見交換会を経て、錦帯橋空港に向かい、羽田には20時着というハードスケジュールだ。日程表を確認してから、有馬は窓の外に目をやった。
真っ青な青空には真夏のような入道雲がもくもくと立ち昇っている。
夕立がくるかもしれないな、と思う。
航平の帰国は明日の木曜日だが、出張直後は仕事が溜まって忙しいだろうし、土曜日は当直勤務だと言っていた。
日曜日に少しでも会えればいいが、無理はさせたくない。
先週末、お泊まりしてくれた航平は日がな一日可愛かった。
夜は少しうなされていたようだったので心配だったが、朝は元気そうだったし、めちゃめちゃ可愛かった。
必死にしゃぶってくれた航平の上気した顔を思い出し、有馬は頬を緩めた。
昨夜のメールも可愛かった。
スマホを開いてトーク画面を見直していると、時報通信の藤井が声をかけてきた。
「有馬、なに一人でにやついてんだよ、変態か」
「うるさい」
有馬はスマホをスリープにする。藤井は有馬の横に座ると、仕出しの弁当とお茶の缶を差し出した。
「弁当、まだ受け取ってなかっただろ」
「サンキュ」
「代金は東京に戻ってから広報課に支払うんだと。領収書もそん時」
「了解。600円だったよな」
有馬は手帳の端にその旨をメモしておく。行く先々でのアシメシ代の清算は結構面倒だし、忘れやすい。
岩国基地の業務隊がまとめて注文してくれたであろう弁当は、白米に唐揚げ、ポテトサラダに卵焼きというスタンダードなものだった。
藤井は弁当をがつがつと平らげながら言った。
「羽田に着いたら一杯やろうぜ」
「遠慮しておく」
「つれないなあ。いーじゃん」
「帰ったら、家を片付けたいし」
「片付け? おまえが? ハウスクリーニング雇ってるって言ってなかったっけ」
「やめたんだよ。最近はなるべく自分でやるようにしてる」
奇跡的に付き合うことができてから、航平はほぼ毎週末遊びにきてくれる。
航平の気配が常に残る部屋を他人に掃除されるのが嫌になったのだ。
「人類の進化だな。さては意中の彼と付き合いだしたか」
「そうだよ」
自分からカマをかけてきたくせに、澄まして返してやると、藤井は心底驚いた顔をした。
「マジか。ノンケが落ちるとか、そんなフィクションみたいな話が現実にあるんだな。さすが有馬サマ」
「その呼び方はやめてくれ」
「で、もうヤったの?」
藤井は申し訳程度に声を落とした。気の置けない仲なので質問もストレートだ。
「質問がゲスだな」
「まだなのか」
「美味しくいただくために時間をかけてるんだよ。無理矢理しても気持ちよくないしね」
「うわ、どっちがゲスだよ」
大袈裟に舌を出してみせてから、藤井は付け加えた。
「まあ、良かったじゃん。おめでと。おまえ、イケメンのくせに恋愛運なかったからな」
「うん。自分から好きになったのは久しぶりで、すごくときめいてるよ」
「うわー。ときめくとか、イケメンしか使えない言葉だな」
イケメンイケメンとうるさいし、余計なお世話だ。
有馬は弁当をつつくが、どうにも箸が進まない。
元々外食中食派だし、記者という職業はどこでも何でも食べられなければ体力が持たないので、好き嫌いもないはずなのだが。冷めきった油と濃いめの塩味に舌が痺れそうだ。
「調子悪いのか?」
藤井が、有馬の食事の遅さを指摘する。
「いや。ちょっと味濃いよね」
「そうか? 取材中は食べられるだけありがたいだろ」
正論だ。
有馬は唐揚げの半分を藤井にお裾分けして、残りを無理矢理口に詰め込んだ。
アスファルトの滑走路は照り返しがきつく、有馬は手で目元を覆った。遠くで離発着を繰り返す戦闘機の轟音が響いている。
長大な滑走路には垂直離着陸機V-22、通称オスプレイが駐機されており、その周りを取り囲む防衛大臣とお付きの官僚達、有馬ら同行記者に対して、陸上自衛隊員が機体の説明をしてくれている。
番記者の仕事のひとつに、同行取材というものがある。閣僚が国内外に外遊する際に記者が同行し、その動静を報道するものだ。
今回の視察も、各メディアの番記者総勢14人が同行している。
総理や外務大臣ほどではないが、防衛大臣も海外・国内問わず出張が多い。
有馬は、隊員の説明と防衛大臣のコメントを手元のメモに書きつけ、ホームページのニュースサイト掲載用の写真を撮影する。
防衛大臣が件のオスプレイに試乗している間に、記者たちは基地内の控室で手早く昼食を済ませ、執筆作業をする。
「有馬さん、ムービー確認しますか」
カメラマンの竹本がモニターに映した数本の映像を、有馬は手早く確認する。
「ありがとう。お、この離陸のシーン、すごい迫力だね」
「ニュースには使ってもらえないですけどね」
「離着陸の映像は尺が長いもんなあ。オスプレイ視察のニュースだと、長くても20秒しか割けないだろうし」
「今日のトップは千葉の無差別通り魔事件に持ってかれますしね」
有馬はテレビ局の記者なので、取材にはテレビ用のムービー撮影スタッフも同行している。竹本はクールで腕のいいカメラマンだ。
映像を確認しながら、有馬は夕方のニュース用の原稿とホームページ掲載用の記事を作成して、東京のデスクに送信した。
テレビ局の記者には、外で取材を行う取材記者と、取材記者が集めた情報を元にニュース原稿を書く内勤の編集記者に分かれる。今の有馬は取材記者だが、必要に応じて自分でニュース原稿を書くことも多い。
この後は、基地司令による大臣表敬と、自衛隊員に対する大臣の訓示、米軍との意見交換会を経て、錦帯橋空港に向かい、羽田には20時着というハードスケジュールだ。日程表を確認してから、有馬は窓の外に目をやった。
真っ青な青空には真夏のような入道雲がもくもくと立ち昇っている。
夕立がくるかもしれないな、と思う。
航平の帰国は明日の木曜日だが、出張直後は仕事が溜まって忙しいだろうし、土曜日は当直勤務だと言っていた。
日曜日に少しでも会えればいいが、無理はさせたくない。
先週末、お泊まりしてくれた航平は日がな一日可愛かった。
夜は少しうなされていたようだったので心配だったが、朝は元気そうだったし、めちゃめちゃ可愛かった。
必死にしゃぶってくれた航平の上気した顔を思い出し、有馬は頬を緩めた。
昨夜のメールも可愛かった。
スマホを開いてトーク画面を見直していると、時報通信の藤井が声をかけてきた。
「有馬、なに一人でにやついてんだよ、変態か」
「うるさい」
有馬はスマホをスリープにする。藤井は有馬の横に座ると、仕出しの弁当とお茶の缶を差し出した。
「弁当、まだ受け取ってなかっただろ」
「サンキュ」
「代金は東京に戻ってから広報課に支払うんだと。領収書もそん時」
「了解。600円だったよな」
有馬は手帳の端にその旨をメモしておく。行く先々でのアシメシ代の清算は結構面倒だし、忘れやすい。
岩国基地の業務隊がまとめて注文してくれたであろう弁当は、白米に唐揚げ、ポテトサラダに卵焼きというスタンダードなものだった。
藤井は弁当をがつがつと平らげながら言った。
「羽田に着いたら一杯やろうぜ」
「遠慮しておく」
「つれないなあ。いーじゃん」
「帰ったら、家を片付けたいし」
「片付け? おまえが? ハウスクリーニング雇ってるって言ってなかったっけ」
「やめたんだよ。最近はなるべく自分でやるようにしてる」
奇跡的に付き合うことができてから、航平はほぼ毎週末遊びにきてくれる。
航平の気配が常に残る部屋を他人に掃除されるのが嫌になったのだ。
「人類の進化だな。さては意中の彼と付き合いだしたか」
「そうだよ」
自分からカマをかけてきたくせに、澄まして返してやると、藤井は心底驚いた顔をした。
「マジか。ノンケが落ちるとか、そんなフィクションみたいな話が現実にあるんだな。さすが有馬サマ」
「その呼び方はやめてくれ」
「で、もうヤったの?」
藤井は申し訳程度に声を落とした。気の置けない仲なので質問もストレートだ。
「質問がゲスだな」
「まだなのか」
「美味しくいただくために時間をかけてるんだよ。無理矢理しても気持ちよくないしね」
「うわ、どっちがゲスだよ」
大袈裟に舌を出してみせてから、藤井は付け加えた。
「まあ、良かったじゃん。おめでと。おまえ、イケメンのくせに恋愛運なかったからな」
「うん。自分から好きになったのは久しぶりで、すごくときめいてるよ」
「うわー。ときめくとか、イケメンしか使えない言葉だな」
イケメンイケメンとうるさいし、余計なお世話だ。
有馬は弁当をつつくが、どうにも箸が進まない。
元々外食中食派だし、記者という職業はどこでも何でも食べられなければ体力が持たないので、好き嫌いもないはずなのだが。冷めきった油と濃いめの塩味に舌が痺れそうだ。
「調子悪いのか?」
藤井が、有馬の食事の遅さを指摘する。
「いや。ちょっと味濃いよね」
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