娘の代用品にすぎない偽令嬢(男)は、聖女毒殺の罪で兄に焼き殺されて回帰する

人生2929回血迷った人

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第9話

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「名前は?」
「名前?」
「あなたの名前は? なんと呼んだらいいんですか?」

(そういえば、名前聞かれて倒れたんだっけ?)

セイランの言葉に頭を巡らせ、貧民街で倒れる前にしていた会話を思い出す。

「ノルって呼んでください。本名はノエルなんですけど、ノルって呼ばれる方が好きで……」

ポリポリと頬をかく。
これも本当のことだ。侯爵家に拾われる前に使っていた名前はノエルだった。母には、ノルと呼ばれていた。

「分かりました。ノルさんですね」
「はい……。あと、できれば敬語で話すのやめませんか?」

セイランは首をかしげ、少し考え込んだ。

「……友達だからですか?」
「はい……」

わずかに頬が火照る。身体がむずむずする。

「分かった。じゃあ、ノルも敬語やめてね」
「もちろん!」

敬語が取れたその言葉に、昔を思い出し、嬉しさが込み上げる。やっぱり彼には死んでほしくない。

「ノルは……」

セイランは続けて口を開こうとするが、言葉を止めた。口をパクパク開いたり閉じたりしている。

「……?」
「ノルは……、しばらく貧民街に来れないよね?」
「いや? 行くつもりだけど?」
「ダメだよ、安静にしてなきゃ」
「セイランは、俺に会いたくないの?」

俺は首をコテンと傾げ、セイランの顔をのぞき込む。少し可愛い子ぶってみる。今ここでセイランに会えなくなるのは困る。そもそも家に居たくもないし。

「そういうわけじゃなくて……」
「安静にしてたって死ぬときは死ぬよ。もうすぐ死ぬのに、やりたいこともできないなんて嫌だよ。だからね、お願い」
「うーん……」

こういう時は、クソ親父の元で生きてきた経験が役立つものだ。リリアンヌのように可愛くおねだりするのが、あの家での基本生存戦略だった。今は男の姿だし、相手も違うが、効果はあると思う。

セイランは、「はあぁ」と大きくため息をついた。

「ノルは、自分の魔力を他人に勝手に使われてもいい?」

肩がビクリの震える。魔力が勝手に使われるという言葉に、俺の魔力と身体を好き勝手食い散らかした魔族を思い出す。

「悪いことに使うわけじゃないんだけど……」
「いいよ」

セイランの言葉を遮って、力強く答える。

「いいよ、いっぱい使って」

二の腕をさすって、身体の震えを抑える。
今の状況は、あの時とは違う。俺の魔力はセイランの健康のために使われるし、身体的接触も手をつなぐ程度だろう。セイランが変なことをしてくるとは思えないし、嫌なら拒絶できる。彼と俺は対等な関係だ。
俺の反応にセイランは首を捻るが、話を続けた。

「じゃあ次に、貧民街に来るときは僕の家にも寄って行って」
「セイランの家に言ってもいいの!?」
「う、うん。ノルの病状を和らげる方法があるかもしれないんだ」
「分かった!」

当初の目標を達成できた喜びと、またセイランの家に行けるという喜びにテンションが上がった。窓の外を見れば、もう夜になろうとしている。

「じゃあ、今日はもう帰ろうかな」
「は……? 何言ってるの?」

外出の許可が下りているとはいえ、リリアンヌが一人夜遅くまで遊び歩くことは許されない。早く帰らなければとベッドから出ようとする。しかし、それをセイランが止める。

「今日はここに泊って」
「いやでも、帰らなきゃ……」
「何言ってるの? 倒れたんだよ? 死ぬかもしれないって言われたんだよ?」
「大丈夫だよ。大したことないって」
「大丈夫なわけがない!!!」

急に大きな声を出すのでびっくりした。

「このまままだと死んじゃうかもしれないのに、親は何してるの? 子供がこんな状態なのにほったらかしてるの? そんなところにノルを帰らせられないよ。病院が嫌なら僕の家に来よう?」

どうやら彼は、俺の家庭状況をなんとなく察したらしい。
そりゃあ、魔素疼痛症末期患者が毎日一人で外をふらつくなんて家庭の状況が健全であれば有り得ないだろう。

でも――。

「……俺の病気、治るかもしれないんだよね?」

セイランは話の流れに合わない返答に困惑する。

「う、うん……?」
「もうすぐ死ぬなら、それもいいかもしれない。でも、これからも生きていくなら、今いる家から反感を買うようなことはできないよ」
「で、でも……」

目の前で急に倒れたことが相当ショックだったんだな。会って数日の関係なのに、相当心配してくれている。俺を奴隷商と疑った罪悪感もあるのかもしれない。

「どんな方法を使うか分からないけど、俺はセイランが治してくれるって信じてる。なるべく毎日行くからさ。今日は帰らせて」

そこまで言うと、セイランは渋々頷いて、俺を帰らせてくれた。


***


王都中心から歩いて20分ほど。賑わう街中から少し距離を置いた王都の端にある住宅地。
小さな庭と温室を備えた、ひとりで住むには広すぎる二階建ての家にセイランは帰っていた。

「ただいま」

家には1人で住んでいるので、返事は返って来ないはずだったが――。

「お母様、おかえりなさい」
「……!?」

予想外の返事に、声がした方へ瞬時に振り向く。

「ルシアン!?」

そこには数日前、十数年ぶりに再会を果たした息子がいた。息子の名前は、ルシアン・ノア・フォルマリア。この国の第二王子だ。

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