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第19話
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「矢野さん、ちょっと離れて貰えませんか?」
隣のデスクで働く女はそう言って、嫌そうな顔をしていた。
仕事を始めようと、パソコンを開いたすぐ後のことだった。
「えっ、僕、臭いですかッ?」
彼女が僕からなるべく離れようと椅子を移動させるので、それほどかと僕は服を嗅いだ。
しかし、自分では分からない。
「いえ、そういうワケではないのですが……」
僕は言われた通りに、彼女の席とは反対、つまり右側に寄った。
すると――
「いや、こっちに近づいて来られるのも困るんだけど」
今度は右隣に座る男が迷惑そうな顔をする。
二人とも、普段は仕事以外のことで話しかけてくることはないので、僕はビックリする。と、同時にショックを受けた。
「僕、そんなに臭いんですね」
「いや、臭いというより……怖いかな」
「怖い?」
「いや、なんでもない」
男は、仕事に戻った。
しかし、どうしよう。右に寄れないなら女性の要望には答えられない。
その時、部長から声がかかる。
「矢野くん。申し訳ないんだけど――」
僕は、窓際の席に移された。元々あった席ではなく、会議室から余分な机や椅子を借りて、即席で作られた席。一人だけぽつんと孤島のように離れた場所にある。
これはあれだろうか? 俗に言う窓際族。
体臭がキツすぎて、戦力外通告をされたのだろうか?
僕ってそんなに臭い!?
しかし、仕事はいつもと同じように振られた。
変わったことといえば、やはり誰も僕に近寄ろうとしないこと。いや、それはいつものことか。
しかし、仕事上どうしても必要な接触も、下っ端のオメガの社員を通して行われる。
それは、昼休憩になるまで続いた。
さっきは僕の体臭が酷いのかと思ったが、もしかしてこれはアレだろうか?
僕の写真と噂が出回ったことで、避けられてる?
まあ、それなら仕方ない。別に危害を加えられるようなことさえ無いなら、それでいいんだ。
それよりも今は、今朝のことが気になっていた。
壊れた指輪を悲しそうな瞳で見つめる慎二が、脳裏に焼き付いて離れない。
あの時の僕は、慎二の為にも指輪を壊さないといけないと思っていた。
しかし、慎二のその後の怒りようを見て、僕は何か根本的なことを間違えているんじゃないかと思うようになった。
慎二は本当に僕のことが好きで、僕のことを抱いてくれないのも何か事情があるのかもしれない、とか。
慎二も心の底では離婚したがってるに決まってるって思ってたけど、本当は違うのかもしれない、とか。
だから離婚するっていうのも、一回考え直していいのかもしれない、とか。
そんなことが頭の中でグルグルグルグル巡りに巡っていた。
お昼休憩の時間になり、慎二が作ってくれたお弁当を取り出す。
お昼は慎二と食べる予定だった。しかし朝、僕はそれを断った。一緒に居るのを見られて、さらに変な噂を立てられたら、慎二の迷惑になると思ったから。
蓋を開け、卵焼きに箸を伸ばす。
そういえば昨日も、卵焼きを最初に食べた。慎二に食べさせてもらった。
やっぱり一緒にお昼を食べたい。
気づけば僕は、お弁当箱を持って営業部のフロアに向かっていた。
『今日こそは、俺にそれを食べさせて』
今朝、慎二に言われた言葉。
自分から断っておいて、都合がいいのかもしれない。でも、もしかしたら慎二も、僕とのお昼を楽しみにしてくれていたかもしれない。
そう思うと、一緒に食べたいと思わずにはいられなかった。
ふと足を止める。営業部のフロアに向かう途中、視線の先の人影が気になった。
あれ、慎二じゃない?
確かにそれは慎二だった。しかし、その隣には女性が一人。
あれは……佐々木さん?
二人は会議室に入っていった。
隣のデスクで働く女はそう言って、嫌そうな顔をしていた。
仕事を始めようと、パソコンを開いたすぐ後のことだった。
「えっ、僕、臭いですかッ?」
彼女が僕からなるべく離れようと椅子を移動させるので、それほどかと僕は服を嗅いだ。
しかし、自分では分からない。
「いえ、そういうワケではないのですが……」
僕は言われた通りに、彼女の席とは反対、つまり右側に寄った。
すると――
「いや、こっちに近づいて来られるのも困るんだけど」
今度は右隣に座る男が迷惑そうな顔をする。
二人とも、普段は仕事以外のことで話しかけてくることはないので、僕はビックリする。と、同時にショックを受けた。
「僕、そんなに臭いんですね」
「いや、臭いというより……怖いかな」
「怖い?」
「いや、なんでもない」
男は、仕事に戻った。
しかし、どうしよう。右に寄れないなら女性の要望には答えられない。
その時、部長から声がかかる。
「矢野くん。申し訳ないんだけど――」
僕は、窓際の席に移された。元々あった席ではなく、会議室から余分な机や椅子を借りて、即席で作られた席。一人だけぽつんと孤島のように離れた場所にある。
これはあれだろうか? 俗に言う窓際族。
体臭がキツすぎて、戦力外通告をされたのだろうか?
僕ってそんなに臭い!?
しかし、仕事はいつもと同じように振られた。
変わったことといえば、やはり誰も僕に近寄ろうとしないこと。いや、それはいつものことか。
しかし、仕事上どうしても必要な接触も、下っ端のオメガの社員を通して行われる。
それは、昼休憩になるまで続いた。
さっきは僕の体臭が酷いのかと思ったが、もしかしてこれはアレだろうか?
僕の写真と噂が出回ったことで、避けられてる?
まあ、それなら仕方ない。別に危害を加えられるようなことさえ無いなら、それでいいんだ。
それよりも今は、今朝のことが気になっていた。
壊れた指輪を悲しそうな瞳で見つめる慎二が、脳裏に焼き付いて離れない。
あの時の僕は、慎二の為にも指輪を壊さないといけないと思っていた。
しかし、慎二のその後の怒りようを見て、僕は何か根本的なことを間違えているんじゃないかと思うようになった。
慎二は本当に僕のことが好きで、僕のことを抱いてくれないのも何か事情があるのかもしれない、とか。
慎二も心の底では離婚したがってるに決まってるって思ってたけど、本当は違うのかもしれない、とか。
だから離婚するっていうのも、一回考え直していいのかもしれない、とか。
そんなことが頭の中でグルグルグルグル巡りに巡っていた。
お昼休憩の時間になり、慎二が作ってくれたお弁当を取り出す。
お昼は慎二と食べる予定だった。しかし朝、僕はそれを断った。一緒に居るのを見られて、さらに変な噂を立てられたら、慎二の迷惑になると思ったから。
蓋を開け、卵焼きに箸を伸ばす。
そういえば昨日も、卵焼きを最初に食べた。慎二に食べさせてもらった。
やっぱり一緒にお昼を食べたい。
気づけば僕は、お弁当箱を持って営業部のフロアに向かっていた。
『今日こそは、俺にそれを食べさせて』
今朝、慎二に言われた言葉。
自分から断っておいて、都合がいいのかもしれない。でも、もしかしたら慎二も、僕とのお昼を楽しみにしてくれていたかもしれない。
そう思うと、一緒に食べたいと思わずにはいられなかった。
ふと足を止める。営業部のフロアに向かう途中、視線の先の人影が気になった。
あれ、慎二じゃない?
確かにそれは慎二だった。しかし、その隣には女性が一人。
あれは……佐々木さん?
二人は会議室に入っていった。
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