【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生2929回血迷った人

文字の大きさ
21 / 40

第21話(慎二視点)

しおりを挟む
「須田さん、ちょっとお時間よろしいかしら?」

 商品開発部に渡す資料をまとめていると、後ろから声をかけられた。
 振り返れば、いかにも機嫌が悪そうな佐々木がいた。

「後にしてくれ。今忙しいんだ」
「あら? さっきから見てましたけど、ずっと手が止まっていたわよ?」
「はぁ? そんなわけないだろ?」

 俺は呆れた声でそう言った。
 そして、再びパソコンの画面に向き直り、作業を再開しようとすると、画面右下のデジタル時計が視界に入った。

「……十二時?」

 俺は目を疑った。

「もう十二時時だって!?」

 正確には、十二時十三分。もう、お昼休憩が始まって十分は過ぎている。

「あー、もう、うるさいわね。そうよ、それで私はさっきからずーーっとアンタのこと見てたの。気持ち悪っ」

 腕をさすりながら、嫌そうな顔をする。

「そしたら、ちんたらちんたらキーボード押して、かと思えばため息なんかついちゃって、鬱陶しいったらありゃしない」

 そう言われて、俺は初めて自分が仕事に集中できていなかったことに気がついた。
 今が本当に十二時なら、仕事の進んでなさ具合がエグい。

「いや、まだ佐々木が時計の進みを速めた線がある」
「そんなことしないわよ!」

 頭を一切の手加減無しに叩かれた。めっちゃ痛い。

「お昼なのに何ボサッと一人でいるのよ。今日はアンタと矢野さんの噂で持ちきりなんだから、傍にいてあげなさいよ! 一人で居たら危ないし、きっと心細いわ」

 那月の名前が出る度に気落ちする。

 はぁ、ショックだ。未だに指輪を踏み潰された光景が脳裏に焼き付いて離れない。
 しかも俺はその後、那月に無理矢理キスをして……泣かれて……あぁ、やってしまった。

 あの時はどうしても怒りが抑えられなかった。
 優しくしたいのに、どうしても出来なかった。むしろキスだけでとどめた自分を褒めて欲しいくらいだ。

「あー、もう早く行きなさいってばっ! まったく、溜息をつきたいのは私の方よ! 矢野さんがアンタなんかと結婚してたなんて!」

 佐々木は俺の身体をグワングワン揺らしながら、叫んだ。それはもう悔しそうな顔で。

 結婚、結婚かぁ。

「そうだよな。俺、那月と一応結婚してるんだよ」

 指輪、壊されたけど。

「はぁ? 一応って何よ? ふざけんじゃないわよ! というか、早く矢野さんのところ行きなさいってばっ!」

 佐々木は俺の腕を引っ張り、立たせようとしてくる。
 しかし俺は、それを拒否する。

「今日は用事があるんだってさ。そして、俺には絶対に来て欲しくないって」
「矢野さんがそう言ったの?」
「……そう」
「アンタ、それで引き下がったの?」

 信じられないとでも言いたげな目で見てくる。

「…………」

 今、那月のところ行ったら、酷いことしそうだし。泣かせてしまった後で、合わせる顔ないし。

 指輪……踏み潰されたし……。

 ギュッと手を握りしめる。

「事情を聞かせなさい」

 真剣味を帯びた声が、頭上から降ってきた。

「アンタと矢野さんって、本当に結婚しているの?」

 視線を上げれば、訝しげな顔をした佐々木が見ていた。

「なんか信じられないのよね。そんな雰囲気、微塵もないじゃない」

 その言葉に肩をピクリと震わせる。
 本当によく見てる。

「それに、こんなに嫌な噂が広がってるのに、番に傍にいて欲しくないオメガなんている?」

 普通に仲の良い番なら、一番安心するアルファの傍にいたいと思うでしょ。と、佐々木は痛いところを突いてくる。

 そう、普通の番ならそうなのかもしれない。
 でも、俺たちは――――

「俺と那月が結婚してることは本当だよ。俺は那月が大好きだ。でも、那月が俺のことをどう思ってるかは分からない」
「それってどういう……」

 佐々木は途中で言葉を止める。
 そして、顔を上げると、周りを見渡した。

「場所を変えましょう」

 佐々木に倣って周囲を観察する。すると、中に残って昼食を食べてる奴らがこちらに注目していた。
 俺は頷いて、誰も使っていない会議室に移動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...