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第29話
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「あ、あれ?」
冬弥との待ち合わせ場所に向かう足が止まる。
「キーケースどこにしまったっけ?」
鞄の中を漁るが、どこにもない。
そういえば家の鍵を閉めずに出てきてしまったかもしれない。
「家に忘れてきたかな?」
鍵は慎二が閉めてくれているだろうけど、あのキーケースには……。
来た道を戻ろうかした時、スマホが鳴った。
『着いた』
冬弥からのメッセージ。相変わらず感情が読めない文章だ。
「んー、行きたくない!」
僕はメッセージに顔を顰めて、集合場所の居酒屋に向かった。
「那月こっち」
タバコの煙が立ち込める居酒屋の店内。喧騒の中から、聞き覚えのある声を拾う。
声の方を見ればそこには、小綺麗で爽やかな雰囲気を持つ男がいた。
「冬弥、久しぶり」
霜村 冬弥。バース性はアルファ。大学の同期で四年前まで恋人だったであろう男。
今日はこの男に、離婚の手伝いの協力をお願いしに来たんだ。
「緊張してる? 足が震えてるよ」
言われて初めて、自分の足が震えていることに気付いた。
「いや、外が寒くてさ」
「そう? 凍えるような程、寒い時期じゃないと思うんだけど。まあいいや、座りなよ」
向かいの席に座るとメニューを渡されるので、お酒とつまみを頼む。冬弥は先に来て頼んでいたのか、既にテーブルにはいくつかの料理が並んでいる。
「別にもう怒ってないから緊張するなって、那月」
「う、うん……」
「いやー、懐かしいよなー。那月が勝手に消えてから会ってなかったからー、三年ぶり?」
「そうだね、うん。勝手に消えてごめん」
「いやいや、謝るなよ。怒ってないから」
冬弥はそう言って笑うが、目は笑っていなかった。
「まあでも、どうして急にいなくなったかは聞きたいなー」
冬弥は目を眇めて、こちらをジッと見つめる。
「俺の事そんなに嫌いだった?」
「ご、ごめん……」
「だから別に怒ってないって」
冬弥はため息をつき、乱暴にビールジョッキを掴む。
「それで、もう俺に会いたくな~い。って、連絡絶ったヤツがいきなり頼みがあるってなんなんだよ?」
「あ、いや、それは……」
僕が言葉に詰まっていると、冬弥は「あ、もしかして」と片眉を上げる。
「また抱いて欲しくなった? お前、痛くないと気持ちよくなれないとかー? あはっ、あははははっ」
怖い。足が震える。
セックスは嫌いだ。特に発情期のセックスなんて最悪だ。すれば、この男の顔を思い出さずにはいられない。
大きな身体が覆いかぶさって、抵抗虚しく身体を割り開かれる。
冬弥の機嫌が悪い日は、特に乱暴だった。唐突に呼び出されたかと思えば、服で隠れるような場所を殴られる。
『オメガはいいよなーッ! 無能でもヘラヘラ笑ってりゃいいんだからよー』
『あははははーッ。やっぱりオメガとヤるなら男だよなー! 可愛くはねぇけど、その分頑丈。よしよーし、我慢できて偉いぞー那月』
酷いことを色々されてきた。それでも冬弥とはなかなか別れられなかった。
冬弥は、僕の唯一の友達で、恋人だったから。田舎から上京していた僕は、冬弥と疎遠になれば孤独だった。
冬弥との待ち合わせ場所に向かう足が止まる。
「キーケースどこにしまったっけ?」
鞄の中を漁るが、どこにもない。
そういえば家の鍵を閉めずに出てきてしまったかもしれない。
「家に忘れてきたかな?」
鍵は慎二が閉めてくれているだろうけど、あのキーケースには……。
来た道を戻ろうかした時、スマホが鳴った。
『着いた』
冬弥からのメッセージ。相変わらず感情が読めない文章だ。
「んー、行きたくない!」
僕はメッセージに顔を顰めて、集合場所の居酒屋に向かった。
「那月こっち」
タバコの煙が立ち込める居酒屋の店内。喧騒の中から、聞き覚えのある声を拾う。
声の方を見ればそこには、小綺麗で爽やかな雰囲気を持つ男がいた。
「冬弥、久しぶり」
霜村 冬弥。バース性はアルファ。大学の同期で四年前まで恋人だったであろう男。
今日はこの男に、離婚の手伝いの協力をお願いしに来たんだ。
「緊張してる? 足が震えてるよ」
言われて初めて、自分の足が震えていることに気付いた。
「いや、外が寒くてさ」
「そう? 凍えるような程、寒い時期じゃないと思うんだけど。まあいいや、座りなよ」
向かいの席に座るとメニューを渡されるので、お酒とつまみを頼む。冬弥は先に来て頼んでいたのか、既にテーブルにはいくつかの料理が並んでいる。
「別にもう怒ってないから緊張するなって、那月」
「う、うん……」
「いやー、懐かしいよなー。那月が勝手に消えてから会ってなかったからー、三年ぶり?」
「そうだね、うん。勝手に消えてごめん」
「いやいや、謝るなよ。怒ってないから」
冬弥はそう言って笑うが、目は笑っていなかった。
「まあでも、どうして急にいなくなったかは聞きたいなー」
冬弥は目を眇めて、こちらをジッと見つめる。
「俺の事そんなに嫌いだった?」
「ご、ごめん……」
「だから別に怒ってないって」
冬弥はため息をつき、乱暴にビールジョッキを掴む。
「それで、もう俺に会いたくな~い。って、連絡絶ったヤツがいきなり頼みがあるってなんなんだよ?」
「あ、いや、それは……」
僕が言葉に詰まっていると、冬弥は「あ、もしかして」と片眉を上げる。
「また抱いて欲しくなった? お前、痛くないと気持ちよくなれないとかー? あはっ、あははははっ」
怖い。足が震える。
セックスは嫌いだ。特に発情期のセックスなんて最悪だ。すれば、この男の顔を思い出さずにはいられない。
大きな身体が覆いかぶさって、抵抗虚しく身体を割り開かれる。
冬弥の機嫌が悪い日は、特に乱暴だった。唐突に呼び出されたかと思えば、服で隠れるような場所を殴られる。
『オメガはいいよなーッ! 無能でもヘラヘラ笑ってりゃいいんだからよー』
『あははははーッ。やっぱりオメガとヤるなら男だよなー! 可愛くはねぇけど、その分頑丈。よしよーし、我慢できて偉いぞー那月』
酷いことを色々されてきた。それでも冬弥とはなかなか別れられなかった。
冬弥は、僕の唯一の友達で、恋人だったから。田舎から上京していた僕は、冬弥と疎遠になれば孤独だった。
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