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第36話 井戸の水はどこから来たのか
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「そうでしょ。これ、藍銅っていうんです。このメタリックな藍色が特徴なんですよ」
松崎は石に興味を示した林田に笑顔を向けた。これに引かない男が貴重なのは松崎も同じだ。妙なところで思惑が合致している。
林田は思わぬ形で得られた笑顔に顔を真っ赤にした。今にも高血圧で倒れそうである。
「これが理系男子のハンティングか」
恋とは無縁そうな亜塔だが、二人の成り行きを興味深そうに見つめる。
「なるほど。身近な理系女子も見逃せないんだな」
芳樹も頷くが、学校の先生ならば出会いは普通にあるだろうとも思えた。しかし二人は変人の吹き溜まりである科学部の顧問を務めてしまう者同士。出会いは極端に少ないのかもしれない。
「あの、それではどうして突然穴が現れたんだと思いますか?」
ここで雰囲気をぶち壊す男子が一名。それは井戸問題を解決したい楓翔だ。
「ううん。そうね、意外と防空壕があったのかもよ。あれでも穴が出現するから」
松崎もすぐに答えてしまう駄目さである。林田よりも興味優先なのだ。この恋はなかなか難しいかもしれない。
「へえ、防空壕ね」
恋に興味はあるが林田の恋はどうでもいい千晴が話を進めようと呟く。
「そうなの。ああいうのって個人的に造っていたり、造ったまま放置してしまうでしょ。それに文献に残さないし。意外と危険なのよね」
松崎はもう地学命の顔になっていた。
「でも、それも地盤沈下の一種ですよね。水の力ですよね」
楓翔が悩んでしまう。
「あれって水があったっけ?」
興味を持った松崎まで井戸問題に参戦し始めた。もう林田は置いてけ堀で悲しそうな目をしている。
「少し入ってましたよ」
おかしいなと楓翔は首を捻る。
「そうね。まだ陽も高いし現地調査に行きますか」
なんと松崎が井戸に行こうと言い出してしまった。こうして午後4時の西日が強い中、森の探索へ出かけることになった科学部一行である。
科学部の一行は井戸に着くと、それを取り囲むように立っていた。これが林田の作った物だと思うと不思議な気分になる。それだけ風景に馴染んでしまっていた。
「あの、これって下が防空壕だった場合は大きな空洞があるってことですよね?これだけの人数が乗っていて大丈夫ですか?」
桜太はふと心配になって松崎に訊いた。
「そうねえ。でも、この井戸もどきが出来て以来一度も崩れていないわけだし、問題ないでしょう。それにあんたたち、一回ここに来てるんでしょ?」
松崎は井戸の側面をぺちぺちと叩きながらそんなことを言う。たしかに前も崩れていないし、井戸が出来て以来何もなく過ぎている。しかしそれは安全の保障になっていないのだ。桜太はそっと後ろに一歩下がっていた。
「コンクリート製か。いい出来ですね」
松崎はそんなところを褒めている。今は井戸の出来栄えはどうでもいい。
「いやあ、ありがとうございます。一人で頑張った甲斐がありますよ。それに俺が色々な機材を置いたりしても大丈夫だったんだから、これ以上の崩壊はないでしょうねえ。変な穴なんですよ」
褒められた林田は嬉しそうにもさもさの天然パーマを揺らした。白衣を着たままここにやって来ているので、何だか変な男となっている。白衣を着た井戸職人なんていないと桜太は思ってしまった。
「取り敢えず中を確認しましょう」
楓翔は前回と同様にさっさと上に載っていたトタンを外した。すると、ぴょんとカエルが一匹飛び出してきた。
「うわっ」
「あっ、待て」
飛んできて驚く迅とは対照的に芳樹の反応は素早い。飛び出たカエルを野球選手も真っ青のスーパーキャッチで捕まえた。
「さすがは芳樹。カエルに対する反射神経は抜群だな」
亜塔は変な褒め方をしているが、これは科学部では最大級の褒め言葉だ。好きなものに対する情熱を周りに認めさせれば一人前という認識だからだ。
「あっ、こいつは水田の近くにいたヒの5番だ。どうして学校の井戸なんかにいたんだ?」
芳樹はカエルを観察してそんなことを言い出す。ヒの5番とは芳樹の勝手な分類によるカエルの呼び名だ。見ただけで捕まえたカエルデータを思い出せるとは、さすがはこの時期になると毎日のようにカエルを捕まえても間違わないわけだ。
「水田?まさかこの井戸、学校の外の水田と繋がっているんですか?」
予想外のヒントに楓翔は同意を求めるように松崎を見た。
「どこかに横穴が開いていて、それが地下水と同じ役割を果たしたのかもね」
これは面白そうだと松崎は笑う。そんな形での地盤沈下はお目にかかったことがない。
「ということは、明日は水田調査ですか?」
優我が暑さに負けたという顔をして嫌そうに訊く。夕方の森の中でもかなりの暑さを感じるというのに、日中の水田なんて暑すぎるだろう。できれば行きたくない。
「そうね。新堂、逃げるなよ。今の水の量はどう?」
松崎はにっこりと笑って釘を刺してから井戸の調査を再開する。もう水田に行くことは決定してしまったのだ。
「ちょっと入ってますよ。この間よりも増えていますね」
中を覗き込んでいた楓翔が言った。この井戸問題に積極的なのは結局は楓翔なのである。
「ふむふむ。この時期って田んぼに水が張ってあるわね。となると、水位の変化が田んぼに絡んでいる可能性は十分にある」
さらに面白くなったと松崎はにやにやが止まらない。その顔は子どものように輝いているが、興味が地盤沈下というところに科学部顧問らしさを漂わせている。
「これは明日も来れるようにしないとな。反応実験が終わるのは正確には深夜だから、徹夜すればデータが取り終わる」
林田も俄然やる気になっていた。井戸を作った時から穴の正体が知りたかったこともあるが、何より松崎と近づけるチャンスである。もさもさの天然パーマが嬉しさを反映するように激しく揺れている。
「なんか、また七不思議からずれていくよな」
莉音がぼそっと呟いた一言が、桜太の胸に深く刺さっていた。
松崎は石に興味を示した林田に笑顔を向けた。これに引かない男が貴重なのは松崎も同じだ。妙なところで思惑が合致している。
林田は思わぬ形で得られた笑顔に顔を真っ赤にした。今にも高血圧で倒れそうである。
「これが理系男子のハンティングか」
恋とは無縁そうな亜塔だが、二人の成り行きを興味深そうに見つめる。
「なるほど。身近な理系女子も見逃せないんだな」
芳樹も頷くが、学校の先生ならば出会いは普通にあるだろうとも思えた。しかし二人は変人の吹き溜まりである科学部の顧問を務めてしまう者同士。出会いは極端に少ないのかもしれない。
「あの、それではどうして突然穴が現れたんだと思いますか?」
ここで雰囲気をぶち壊す男子が一名。それは井戸問題を解決したい楓翔だ。
「ううん。そうね、意外と防空壕があったのかもよ。あれでも穴が出現するから」
松崎もすぐに答えてしまう駄目さである。林田よりも興味優先なのだ。この恋はなかなか難しいかもしれない。
「へえ、防空壕ね」
恋に興味はあるが林田の恋はどうでもいい千晴が話を進めようと呟く。
「そうなの。ああいうのって個人的に造っていたり、造ったまま放置してしまうでしょ。それに文献に残さないし。意外と危険なのよね」
松崎はもう地学命の顔になっていた。
「でも、それも地盤沈下の一種ですよね。水の力ですよね」
楓翔が悩んでしまう。
「あれって水があったっけ?」
興味を持った松崎まで井戸問題に参戦し始めた。もう林田は置いてけ堀で悲しそうな目をしている。
「少し入ってましたよ」
おかしいなと楓翔は首を捻る。
「そうね。まだ陽も高いし現地調査に行きますか」
なんと松崎が井戸に行こうと言い出してしまった。こうして午後4時の西日が強い中、森の探索へ出かけることになった科学部一行である。
科学部の一行は井戸に着くと、それを取り囲むように立っていた。これが林田の作った物だと思うと不思議な気分になる。それだけ風景に馴染んでしまっていた。
「あの、これって下が防空壕だった場合は大きな空洞があるってことですよね?これだけの人数が乗っていて大丈夫ですか?」
桜太はふと心配になって松崎に訊いた。
「そうねえ。でも、この井戸もどきが出来て以来一度も崩れていないわけだし、問題ないでしょう。それにあんたたち、一回ここに来てるんでしょ?」
松崎は井戸の側面をぺちぺちと叩きながらそんなことを言う。たしかに前も崩れていないし、井戸が出来て以来何もなく過ぎている。しかしそれは安全の保障になっていないのだ。桜太はそっと後ろに一歩下がっていた。
「コンクリート製か。いい出来ですね」
松崎はそんなところを褒めている。今は井戸の出来栄えはどうでもいい。
「いやあ、ありがとうございます。一人で頑張った甲斐がありますよ。それに俺が色々な機材を置いたりしても大丈夫だったんだから、これ以上の崩壊はないでしょうねえ。変な穴なんですよ」
褒められた林田は嬉しそうにもさもさの天然パーマを揺らした。白衣を着たままここにやって来ているので、何だか変な男となっている。白衣を着た井戸職人なんていないと桜太は思ってしまった。
「取り敢えず中を確認しましょう」
楓翔は前回と同様にさっさと上に載っていたトタンを外した。すると、ぴょんとカエルが一匹飛び出してきた。
「うわっ」
「あっ、待て」
飛んできて驚く迅とは対照的に芳樹の反応は素早い。飛び出たカエルを野球選手も真っ青のスーパーキャッチで捕まえた。
「さすがは芳樹。カエルに対する反射神経は抜群だな」
亜塔は変な褒め方をしているが、これは科学部では最大級の褒め言葉だ。好きなものに対する情熱を周りに認めさせれば一人前という認識だからだ。
「あっ、こいつは水田の近くにいたヒの5番だ。どうして学校の井戸なんかにいたんだ?」
芳樹はカエルを観察してそんなことを言い出す。ヒの5番とは芳樹の勝手な分類によるカエルの呼び名だ。見ただけで捕まえたカエルデータを思い出せるとは、さすがはこの時期になると毎日のようにカエルを捕まえても間違わないわけだ。
「水田?まさかこの井戸、学校の外の水田と繋がっているんですか?」
予想外のヒントに楓翔は同意を求めるように松崎を見た。
「どこかに横穴が開いていて、それが地下水と同じ役割を果たしたのかもね」
これは面白そうだと松崎は笑う。そんな形での地盤沈下はお目にかかったことがない。
「ということは、明日は水田調査ですか?」
優我が暑さに負けたという顔をして嫌そうに訊く。夕方の森の中でもかなりの暑さを感じるというのに、日中の水田なんて暑すぎるだろう。できれば行きたくない。
「そうね。新堂、逃げるなよ。今の水の量はどう?」
松崎はにっこりと笑って釘を刺してから井戸の調査を再開する。もう水田に行くことは決定してしまったのだ。
「ちょっと入ってますよ。この間よりも増えていますね」
中を覗き込んでいた楓翔が言った。この井戸問題に積極的なのは結局は楓翔なのである。
「ふむふむ。この時期って田んぼに水が張ってあるわね。となると、水位の変化が田んぼに絡んでいる可能性は十分にある」
さらに面白くなったと松崎はにやにやが止まらない。その顔は子どものように輝いているが、興味が地盤沈下というところに科学部顧問らしさを漂わせている。
「これは明日も来れるようにしないとな。反応実験が終わるのは正確には深夜だから、徹夜すればデータが取り終わる」
林田も俄然やる気になっていた。井戸を作った時から穴の正体が知りたかったこともあるが、何より松崎と近づけるチャンスである。もさもさの天然パーマが嬉しさを反映するように激しく揺れている。
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