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第37話 田んぼはいいねえ
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翌日は朝の10時に学校の裏門に集合となっていた。裏門とは北館に近いほうの門であり、別に学校の本当の裏にはない。そこに作ったら森を抜けることになって誰も使わないからだ。
桜太は通学鞄を化学教室に置かずに裏門に向かった。ひょっとしたら外でご飯を食べられるかと遠足気分なのだ。だから弁当もちゃんと外で食べると菜々絵に宣言しておいた。これで今日は揚げ物も入っていないだろうと考えてにんまりとなってしまう。
「あっ、部長が遅いぞ」
桜太を見つけて楓翔がそんなことを言う。いつもは優我がどれだけ遅刻しても文句を言わないのに、どうして自分にだけと思ってしまった。
「遅くないし。って、大倉先輩」
楓翔の文句よりも桜太は視界に入った亜塔の格好に脱力した。亜塔は今日もヘルメットを着用している。またしても探検気分を醸し出していた。
「やはり地質調査といえばこれだ。あの方もどこかに入る時には着用しているわけだし」
亜塔は完全にサングラスを掛けたあの某番組の人しか意識していない。そんなにも毎週欠かさずに見ているのだろうか。亜塔の興味が謎である。
裏門にはすでに科学部のメンバーがほぼ揃っていた。集合20分前だというのに優秀である。ほぼというのは遅刻常習犯の優我がいつもどおりまだ現れていないのだ。それに松崎と林田という新旧顧問コンビも現れていない。
「先輩。その水槽に大量のカエルを入れる気ですか?」
迅が芳樹の首から大きな水槽がぶら下がっているのに気づいて訊く。
「まさか。いつもより多く見つかると思ってこのサイズだよ。こんなところにぎゅうぎゅうに入れるなんて可哀相なことはしないさ」
芳樹の答えは井戸への興味が消えているメンバーがいることを示唆していた。そもそもこのメンバーが揃って出かけたことなどない。何だか不安である。
「やあ、科学部諸氏。もうお集まりとは感心だ。少し実験に手間取って徹夜だよ」
林田が眠そうな目をしながら現れた。今日も天然パーマはもさもさ揺れているし、ファッションはオタクっぽい。どうしてチェック柄のシャツを選んでしまったんだと突っ込みたくなる。しかも実験をする理系としては仕方ないが、ズボンにきっちりそのシャツが入っている。それにリュックサックだからそのまま秋葉原に行けそうだ。
「新堂。覚悟を決めろ」
そこに松崎の怒鳴り声がした。見てみると優我が松崎に首根っこを掴まれている。
「お願いです。フィールドワークだけは勘弁してください」
優我は本を抱きしめて嫌だと訴えていた。どうやら図書室で遅刻をしようと画策していたところを捕獲されたらしい。みんなが諦めて出発してしまえばさぼる口実になるということだったのだろう。
「これが部活だ。それを目指してるんだろ?諦めろ」
いつになく顧問らしさを発揮する松崎だが、口調がどうして体育会系なのか謎である。それにしても自分の興味になるとやる気を発揮するのは教師も同じとはどういうことだろう。
実は桜太も遠足気分でありながら行きたくない一人だ。やはり暑いのは苦手である。できれば化学教室の中で本を読んでいたい。なので嫌だと訴える優我には同情してしまった。
「田んぼの傍に行くのって初めてだな」
そんな同情的な人物がもう一人。遠い目をして呟いている莉音だ。どうやら今回は物理系に出番はないらしい。桜太は莉音も嫌そうなので安心してしまった。
「よし。それでは諸君、出発だ」
出番なしを決め込んでいる桜太に代わり、前部長の亜塔がそう号令を掛けて出発と相成った。科学部一行はのりのりの亜塔と楓翔、カエル確保のために行きたい芳樹に林田と松崎が続き、松崎に引きずられる形で優我が続く。さらにやる気が不明の千晴と迅が続き、最後に行く気の薄い桜太と莉音が続いていた。
「へえ。森が邪魔で見えないけれど、田んぼって近かったんだ」
歩いてすぐに見えてきた水田に桜太は感想を漏らす。実は桜太も学校の水田側には来たことがない。駅やら店がある発展した地域にのみ用事があるからだ。
「向こうに山も見えていて田舎だな。俺たちって意外と自然に恵まれた環境で勉強してるんだな」
横にいる莉音も呑気な感想だ。出番がないとなると、途端にこうなってしまうのも科学部である。興味が一方向に極端なのだ。
「いやあ、水があるから涼しいねえ」
呑気な感想を漏らすのは林田も同じだった。徹夜明けの身体に真夏の日差しが当たっているせいだろう。ちょっとテンションが低くなっていた。しかしもさもさの天然パーマは盛大に涼しい風を浴びて揺れていた。
「本当だ。予想していたより涼しい。そうか、気化熱か」
暑さが嫌だと主張していた優我は水田の風を浴びて生き返っていた。ここですぐに気化熱が思いつくのが科学部である。よく打ち水をすると気温が下がるというのも、この気化熱のおかげだ。だから水のある水田の近くも涼しいわけである。
「この辺が丁度井戸と直線になりそうですね」
学校の森が見えるところに来ると、楓翔が学校の見取り図と周辺地図を照らし合わせていた。そこには用水路があって、水の流れがたしかに存在する。
「そうだな。ちょこっと見える北館からしてもここだな」
亜塔は潜っての調査はないと判断してヘルメットを脱いだ。用水路の推進はひざ下くらいといったところである。ただヘルメットを被ってみたかっただけかと周りは突っ込みたくなるが我慢だった。
「ここから先は開発する気がないのかな。何だか日本の原風景が残っている」
井戸問題とは関係のない呟きは迅のものだ。どうやら彼もまた嫌々だったらしい。
「そうね。久々にアニメ映画が恋しくなる」
これは千晴の感想である。彼女も無理やり来ていたのだ。本当に結束力がない。それに何の映画が見たいかは訊くまでもないだろう。あのふくろうみたいな妖精が出てくるやつだ。
桜太は通学鞄を化学教室に置かずに裏門に向かった。ひょっとしたら外でご飯を食べられるかと遠足気分なのだ。だから弁当もちゃんと外で食べると菜々絵に宣言しておいた。これで今日は揚げ物も入っていないだろうと考えてにんまりとなってしまう。
「あっ、部長が遅いぞ」
桜太を見つけて楓翔がそんなことを言う。いつもは優我がどれだけ遅刻しても文句を言わないのに、どうして自分にだけと思ってしまった。
「遅くないし。って、大倉先輩」
楓翔の文句よりも桜太は視界に入った亜塔の格好に脱力した。亜塔は今日もヘルメットを着用している。またしても探検気分を醸し出していた。
「やはり地質調査といえばこれだ。あの方もどこかに入る時には着用しているわけだし」
亜塔は完全にサングラスを掛けたあの某番組の人しか意識していない。そんなにも毎週欠かさずに見ているのだろうか。亜塔の興味が謎である。
裏門にはすでに科学部のメンバーがほぼ揃っていた。集合20分前だというのに優秀である。ほぼというのは遅刻常習犯の優我がいつもどおりまだ現れていないのだ。それに松崎と林田という新旧顧問コンビも現れていない。
「先輩。その水槽に大量のカエルを入れる気ですか?」
迅が芳樹の首から大きな水槽がぶら下がっているのに気づいて訊く。
「まさか。いつもより多く見つかると思ってこのサイズだよ。こんなところにぎゅうぎゅうに入れるなんて可哀相なことはしないさ」
芳樹の答えは井戸への興味が消えているメンバーがいることを示唆していた。そもそもこのメンバーが揃って出かけたことなどない。何だか不安である。
「やあ、科学部諸氏。もうお集まりとは感心だ。少し実験に手間取って徹夜だよ」
林田が眠そうな目をしながら現れた。今日も天然パーマはもさもさ揺れているし、ファッションはオタクっぽい。どうしてチェック柄のシャツを選んでしまったんだと突っ込みたくなる。しかも実験をする理系としては仕方ないが、ズボンにきっちりそのシャツが入っている。それにリュックサックだからそのまま秋葉原に行けそうだ。
「新堂。覚悟を決めろ」
そこに松崎の怒鳴り声がした。見てみると優我が松崎に首根っこを掴まれている。
「お願いです。フィールドワークだけは勘弁してください」
優我は本を抱きしめて嫌だと訴えていた。どうやら図書室で遅刻をしようと画策していたところを捕獲されたらしい。みんなが諦めて出発してしまえばさぼる口実になるということだったのだろう。
「これが部活だ。それを目指してるんだろ?諦めろ」
いつになく顧問らしさを発揮する松崎だが、口調がどうして体育会系なのか謎である。それにしても自分の興味になるとやる気を発揮するのは教師も同じとはどういうことだろう。
実は桜太も遠足気分でありながら行きたくない一人だ。やはり暑いのは苦手である。できれば化学教室の中で本を読んでいたい。なので嫌だと訴える優我には同情してしまった。
「田んぼの傍に行くのって初めてだな」
そんな同情的な人物がもう一人。遠い目をして呟いている莉音だ。どうやら今回は物理系に出番はないらしい。桜太は莉音も嫌そうなので安心してしまった。
「よし。それでは諸君、出発だ」
出番なしを決め込んでいる桜太に代わり、前部長の亜塔がそう号令を掛けて出発と相成った。科学部一行はのりのりの亜塔と楓翔、カエル確保のために行きたい芳樹に林田と松崎が続き、松崎に引きずられる形で優我が続く。さらにやる気が不明の千晴と迅が続き、最後に行く気の薄い桜太と莉音が続いていた。
「へえ。森が邪魔で見えないけれど、田んぼって近かったんだ」
歩いてすぐに見えてきた水田に桜太は感想を漏らす。実は桜太も学校の水田側には来たことがない。駅やら店がある発展した地域にのみ用事があるからだ。
「向こうに山も見えていて田舎だな。俺たちって意外と自然に恵まれた環境で勉強してるんだな」
横にいる莉音も呑気な感想だ。出番がないとなると、途端にこうなってしまうのも科学部である。興味が一方向に極端なのだ。
「いやあ、水があるから涼しいねえ」
呑気な感想を漏らすのは林田も同じだった。徹夜明けの身体に真夏の日差しが当たっているせいだろう。ちょっとテンションが低くなっていた。しかしもさもさの天然パーマは盛大に涼しい風を浴びて揺れていた。
「本当だ。予想していたより涼しい。そうか、気化熱か」
暑さが嫌だと主張していた優我は水田の風を浴びて生き返っていた。ここですぐに気化熱が思いつくのが科学部である。よく打ち水をすると気温が下がるというのも、この気化熱のおかげだ。だから水のある水田の近くも涼しいわけである。
「この辺が丁度井戸と直線になりそうですね」
学校の森が見えるところに来ると、楓翔が学校の見取り図と周辺地図を照らし合わせていた。そこには用水路があって、水の流れがたしかに存在する。
「そうだな。ちょこっと見える北館からしてもここだな」
亜塔は潜っての調査はないと判断してヘルメットを脱いだ。用水路の推進はひざ下くらいといったところである。ただヘルメットを被ってみたかっただけかと周りは突っ込みたくなるが我慢だった。
「ここから先は開発する気がないのかな。何だか日本の原風景が残っている」
井戸問題とは関係のない呟きは迅のものだ。どうやら彼もまた嫌々だったらしい。
「そうね。久々にアニメ映画が恋しくなる」
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