科学部と怪談の反応式

渋川宙

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第48話 動く学園長像

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「それよりさ。学園長像について何も解ってないんじゃないの?情報収集する前に夏休みになったし」
 複雑な化学式をノートに書いていた千晴が思い出して桜太の肩を叩く。取り敢えずは七つの謎を解明しないと気持ち悪いものだ。
「そうだな。でもさ、トイレと同じで実地調査で何とかなるんじゃないか?あれだって噂の部分は役に立ってなかったし。それよりその化学式は何だ?」
 桜太は学園長像よりも千晴の手元が気になってしまう。
「えっ?テトロドトキシンの構造式よ。いわゆるふぐ毒」
 平然と答える千晴が怖い。普通はそんな構造式をお目にかからない。そしてそれをノートに書こうとも思わないだろう。やはりここにいるのは誰もが変人だと桜太は強く実感してしまう。
「いやあお待たせして悪い、科学部諸氏。こういう検証が面白いと今まで気づかなかったとは人生の損失。だからこの機会を逃すわけにはいかないよ」
 いつものようにもさもさ天然パーマを揺らしながら、相変わらずのオタクスタイルで林田がやって来た。こいつも同類だなと思う言葉である。
 それに人生の損失とまで言う林田は前回の失敗を教訓に、莉音にメールを送らずに無理やりこの間の帰りにゲットした桜太のメアドにメールを送ってきていた。どれだけ必死なんだと思ってしまう。この林田も生粋の変人なのだ。しかも実験はさぼれないせいで徹夜続きという、よく解らないことにもなっている。
「先生の力も大きいですからねえ」
 桜太は心のこもっていない言葉を林田に送る。実際は使い走りに使えて便利としか思っていない。
「そうかい?よかった。それで今日は何かな?」
 その林田は桜太の言葉を額面通り受け取り、いそいそと黒板の前に立った。社交辞令の通じないタイプだ。
「学園長像が動くっていう謎の検証です。ただしどういう状況なのか、いつ動いたかは不明ですね」
 ようやく林田に慣れた楓翔が答えた。それにもう抱き付いてこないので安心だ。恋人効果か、男同士の交友を温めることを忘れているのである。
「ふむふむ。それで今から現場に行くわけだね。じゃあ部長、号令を」
 林田がそう言って桜太を指差す。
「いや。あれは別に毎回やっているわけでは」
 改めてやれと言われると恥ずかしく、桜太は拒否した。
「ええっ。じゃあ大倉君。代わりにどうぞ」
 トイレの時はほぼ仲間はずれで不満だった林田は前部長の亜塔に振る。
「よし。諸君、行くぞ!」
 そこはノリのいい亜塔。さっさと立ち上がって号令を掛けた。こうして科学部一行はぞろぞろと学園長像のある南館の端に移動することとなった。






「銅像って必要性が解らないよな」
 学園長像を見上げて、迅が唐突にそんなことを言う。銅像の必要性を考える人はまずいないだろう。そんなことを言い出したら全国各地の銅像が無駄と言っているようなものだ。
「いずれハトが止まるだけなのにな」
 しかし困ったことに優我が同意する。一体銅像に何の恨みがあるんだと桜太は訊きたくなるところだ。
「あれだ。酸性雨が降ったらすぐに解って便利だ」
 まったく本来の目的に入っていない用途を言い出すのは楓翔だ。溶かす前提かよと突っ込みたい。それなら学園長にする意味はまったくない。
「これが動くんだよな」
 だが桜太は色々な突っ込みを飲み込んで話を軌道修正した。このままでは何をしに来たのか不明になる。
「考えられるのは錯覚か。しかし物体が大きいからな。何か原因があるだろう」
 軌道修正に乗ってくれたのは莉音だ。やはり常識人。本当に菜々絵との恋さえ諦めてくれれば文句ない先輩だ。
「錯覚となると、銅像が揺らいで見えたってことですかね。それか屈折して見れたということか」
 優我も検証に戻ってきた。これで話は銅像の必要性から変わった。
「揺らぐにしても屈折するにしても、原因となるものがなあ」
 桜太は周りを見渡して首を捻った。学園長像は南館の壁に背を向けて建っているだけだ。南館の壁は北館と違ってカビの生えていない白色。銅像の周りには背の低い木が植えられていた。そして桜太たちが今銅像を見上げるために立っている場所はコンクリートで舗装された道である。特に変わったものは見当たらなかった。
「それにしても暑いな。亜塔、水分補給を忘れるなよ」
 芳樹は晴れ渡った空を見ながら亜塔に注意する。今日も猛暑日の予報だ。前回のフィールドワークの後のように倒れられては困る。
「大丈夫だ。失敗から学ばないほど愚かではない。今日は水筒を準備してきたからな。それにしてもあれだな、砂漠ならオアシスを追い掛けて行くような現象が起きそうな暑さだもんな」
 亜塔は言いながらしっかりと水筒の水を飲む。
「それは砂漠でなくても起こりますよ。逃げ水ってやつです。これでもそういう現象が絡んでいるのかな」
 解説しながら楓翔は疑問に思った。銅像が動いたというのは位置が変わったように見えたということはないだろうか。逃げ水というのは夏の風物詩でアスファルトの地面で見られるが、あれは下位蜃気楼という種類の現象なのだ。
「自然現象か。それにしても眩しいなあ」
 学園長像をじっと見ていた林田は目を擦る。寝不足の目に、真夏の日差しを浴びた真っ白な壁は辛い。
「この白い壁もポイントかも。目に残像が残りやすいでしょ」
 千晴は壁に注目して考え始めた。
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