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第6話:源氏という家族(前編)
Act-04 姉妹邂逅
しおりを挟む「トキワ……ですか?」
この時点では、ヒロモトもその名前について、ピンとこない様子だったが、
「――――! そ、その刀は⁉︎」
ふと目をおろした視線の先にある、ウシワカが腰に差す短刀を見つけると、それを食い入る様に見つめながら、驚きの表情を見せた。
「これの事?」
皇帝ゴシラカワから拝領し、昨日の平氏都落ちで平《たいらの》平シゲヒラに重傷を負わせた短刀。
それをウシワカは、不思議そうな顔で手に取り、ヒロモトに見せる。
「しばし、お待ちを」
するとヒロモトは、特に詳細を聞くこともなく、眼鏡を上げ直すとクルリと背を向け、陣の奥に戻っていった。
意味の分からないウシワカは、淡い期待と共に、ただそれを呆然と見送るしかなかった。
「ヒザマルを持っていたというのか。確かか?」
「私もデータでしか拝見した事はありませんが……あの短刀の拵は、亡きヨシトモ様所有の『ヒザマル』でした」
「私の妹をかたる者が、そこまで周到に模造品を用意しているとも思えない……よし、会おう」
本陣でヒロモトの報告を受けたヨリトモは、すぐにそう決断した。
「どこも馬の骨とも分からん者と、会うと申されるのか⁉︎」
自身の意見が黙殺されようとしている事に我慢ならない上総ヒロツネが、すかさずそれに噛みついてくるが、
「それが本当に『ヒザマル』なら――この『ヒゲキリ』が何かを教えてくれるだろう」
そう言いながら、ヨリトモは腰に下げた豪奢な造りの太刀を掴むと、それを目の前にかざし、静かにヒロツネを牽制した。
それにヒロツネが不満気な態度ながら口を閉ざすと、
「あと、ウシワカというその女は、自身の母は『トキワ』という者だと申しておりました」
無駄のないテンポでヒロモトが、次の情報を提示する。すると、
「トキワ…………⁉︎」
それに声を上げ絶句したのは――意外な事に、ヨリトモの肩に手をかけ、宙に浮いているツクモ神、マサコであった。
「マサコ……知っているのか?」
「うん……」
ヨリトモの問いに、少し口ごもった後、先の棟梁ヨシトモにも仕えていたマサコは、重い口を開く。
「ごめんね、ヨリトモ。話してなかったんだけど、あなたのお父さんのヨシトモが『ヘイジの乱』で、都にいた時……あなたはカマクラにいたから知らなかっただろうけど、ヨシトモには『女』がいたの。そしてヨシトモが討死する少し前、その女は身籠ってるって言ってた……そいつの名前がトキワよ」
「…………!」
衝撃の事実に一同が言葉を失う中、
「フン! なら、きっとそのウシワカとやらは、どこぞでそのトキワとかいう女の事を知って、ここに来たのに違いない。信じられるものか!」
「ヒザマルの事、そのトキワという女の事、そして鎌田マサキヨ殿の件も、話の整合性はとれています」
認めたくないヒロツネと、与えられたデータを元に冷静に分析を進めるヒロモトが、たて続けに口を開いたが、
「やはり会おう。私が会えば――きっと、すべてがハッキリするはずだ」
ヨリトモが静かにそう呟く事で、すべては決まった。
「お姉ちゃん……?」
ヨリトモの本陣に連れてこられたウシワカが、目の前にいる姉の顔を見て、思わずそう呟いた。
育ての親、鎌田マサキヨから、姉が源氏の棟梁である源ヨリトモだと聞かされてから――早くもその姉との対面の時が訪れた事に、ウシワカは感無量であった。
姉は細身ながら、鍛錬で作り上げたであろうしっかりとした体躯をしており、凛とした瞳に、自分と同じく黒髪を高く結い上げている。
母が違うので、瓜二つとはいかないが、ウシワカは直感で目の前にいる女が、間違いなく自分の姉妹だと確信した。
同時にヨリトモも、ウシワカの端正ながら『武』の色味を帯びた顔立ちと、それでいて十五歳という年齢相応の愛らしさに好感を持ちながら、同じく直感でこの少女に血縁を感じていた。
「ウシワカか――」
「はい、源ウシワカです」
双方が同時に歩み寄り、手を取り合った。その暖かさにウシワカは、感動を超えた衝撃さえ覚えた。
ヨシナカの存在に『源氏』を感じた時も、やはり衝撃を受けたが、今、目の前にいる姉はそれを超越した運命を自分に感じさせている。
この姉のために、この身を捧げよう――その昂ぶる思いをウシワカが言葉にしようとした時、
――ウォーン。
という、何か獣が鳴く様な音があたりに響き渡り、一同はその出どころに耳をすました。
そして、それがヨリトモが腰に佩く太刀と、ウシワカがベルトに差した短刀の共鳴音である事に気付くと、
「ウシワカ。この太刀はな、我らの父ヨシトモのもので『ヒゲキリ』といって、お前が腰に差している短刀――『ヒザマル』とは兄弟剣なのだ」
と、ヨリトモはヒゲキリを胸の前にかざすと、同時にウシワカもヒザマルを合わせる様に胸の前にかざした。
「じゃあ、これも父さんの?」
弾ける笑顔で問いかける妹に――高鳴る共鳴音の中――姉は優しく頷いた。
この瞬間が、はかなくも短い、この姉妹が通じ合えた最高で、最後の時だった。
Act-04 姉妹邂逅 END
NEXT Act-05 無垢なる狂犬
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