神造のヨシツネ

ワナリ

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第6話:源氏という家族(前編)

Act-03 帷幕の将たち

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「源氏が棟梁、みなもとのヨリトモ。帝をお守りするため、ただ今上洛いたしました! ゴシラカワ帝にお取り次ぎのほど、お願い申し上げまする!」

 源氏本軍はヘイアン宮から距離を置いて停止すると、まずは兵が大音声で、御所内にヨリトモの参着を告げる。それは、先着したヨシナカが参内を阻むのを、見通した上での行動であった。

 あとは御所からの迎えを待てばいい――とばかりに、ヨリトモ軍はヘイアン宮をグルリと囲むヨシナカ軍を、排除する様な動きは一切見せず、ただ悠然と構えている。

 それを見たウシワカは、皆が展開に緊張している隙を突いて――また行動を起こし、沈黙を続けるヨリトモ軍へ、単独で駆け込んでいった。
 ようやく姉に会える――その思いが、ウシワカをこの無謀な行動に突き動かしていた。

 そして、すかさずヨリトモ軍の前衛が、駆け寄ってくるウシワカを見つけ、

何奴なにやつ⁉︎」

 と、銃を向け威嚇の姿勢をとる。それに、

「私はみなもとのウシワカー! ヨシトモの娘! お姉ちゃんに会わせてー!」

 と、ヨシナカの時よりもさらに大きな声で、ウシワカは陣の中央にいるであろう、まだ見ぬ姉に向かって呼びかけた。

「……ウシワカ? 私の妹だと?」

 多数の機甲武者と諸将に囲まれ、椅子に腰掛けた黒髪を結い上げた女が、声の方向に顔を上げる。
 彼女こそ、みなもとのヨリトモ。父ヨシトモの敗死後、東方のイズに逼塞しながら、たいらのキヨモリ死後の動揺を突いて、滅亡寸前だった源氏軍をまとめ上げ、平氏に逆襲を仕掛けた――まだ二十歳を少し過ぎたばかりの――女大将その人であった。

 そのヨリトモが、周囲を見渡し、

「私には妹がいたのか?」

 と、古参の諸将たちに問いかける。

「ヨシトモ様も、源氏の御大将でございましたから……外に、ヨリトモ様以外のお子がいても不思議ではございませんが……」

 注意深い口調で、あくまでヨリトモを立てながら、そう言ったのは梶原カゲトキ。
 三十代半ばながら、重厚な物腰の彼の言葉は、主君とその家系への配慮に満ちていた。

 それに対して、

「フン、偽りよ! 大方、源氏の世が来ると踏んだやからが、源氏の一族をかたり、そのおこぼれにあずかろうとしているに違いない!」

 激しい口調で、そう断言する四十男は上総かずさヒロツネ。
 彼は恰幅のいい体を揺すりながら、威圧的な態度で一同を見渡すと続けて、

「捨ておけばよろしかろう。のう、ヨリトモ殿」

 と、とても臣下とは思えない気安い口調で、ポンポンとヨリトモの肩を叩いた。

「ヒロツネ殿。ヨリトモ様は源氏の嫡流であり棟梁。そしてこの平氏討伐軍の大将でございますぞ。言葉をお慎みくださいませ」

 すかさずそう言って、ヒロツネに抗議した女は、大江おおえのヒロモト。
 ヨリトモの秘書官兼参謀であり、その出自は祖父が機甲武者をこの世に生み出した大科学者、大江おおえのマサフサでもある彼女は、眼鏡をかけたその怜悧な眼差しそのままに、今も柔らかい口調ながら、その言葉には刺す様な激しさがあった。

「殿じゃなくて『様』だろ。お前、いいかげんシメてやろうか?」

 そう被せてきたのは、ヨリトモの傍らで宙に浮く女――源氏のツクモ神、マサコ。
 勝ち気だが素朴なベンケイ。激しくも冷静沈着なトキタダ。その両者ともまったく似通わないこの第三のツクモ神は、派手な色彩の重ね着の裾をはためかせ、ヒロツネのそばまで浮遊すると、魔導力で光る拳を高々と掲げ、それで殴打するぞとばかりに凄んでみせた。

 それに思わずたじろぐヒロツネだったが、

「よせ、マサコ」

 ヨリトモは静かに、そう言った後、

「ヒロモト。すまないが、様子を見に行ってきてくれないか」

 と、自身の腹心に、事の真偽を確かめてくる様に依頼する事で、一旦事態の収束を図った。

 血の気の多い性格そのままに、まだ腹の虫がおさまらないマサコだったが、ヨリトモが少しはにかんだ顔で手招きすると、いそいそとその傍らに戻り、またフワフワと宙に浮きながら上総かずさヒロツネを睨み続けた。


 そして、ヨリトモから依頼を受けたヒロモトが、自陣の前で姉に呼びかけ続けるウシワカに、注意深い視線を送りながら近付いていく。
 その姿に兵たちが恐縮しながら道を開くと、

「ねえ、お姉ちゃんに会わせて」

 ヒロモトがヨリトモの側近であると見抜いたウシワカは、すかさず彼女に声をかけた。

「証拠はありますか?」

「えっ⁉︎」

 突然の、しかし当然といえば当然のヒロモトからの質問に、思わずウシワカは口ごもってしまう。

「うーん、じっちゃん……鎌田マサキヨが平氏に殺された時に、私がみなもとのヨシトモの娘だって教えてくれたんだ……」

「ですので、それを証明する証拠はあるのですか?」

「…………!」

 すべてが口伝えでしかない自身の出自に、それを証明する手段を持たないウシワカは、再び口ごもってしまう。
 そして窮したウシワカは、またも迂闊にも、

「私の母さんは、トキワっていう人だったんだって。それじゃダメ?」

 と、言わずもがなの情報を、今度はヒロモトに与えてしまった。



Act-03 帷幕の将たち END

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