31 / 97
第6話:源氏という家族(前編)
Act-04 姉妹邂逅
しおりを挟む「トキワ……ですか?」
この時点では、ヒロモトもその名前について、ピンとこない様子だったが、
「――――! そ、その刀は⁉︎」
ふと目をおろした視線の先にある、ウシワカが腰に差す短刀を見つけると、それを食い入る様に見つめながら、驚きの表情を見せた。
「これの事?」
皇帝ゴシラカワから拝領し、昨日の平氏都落ちで平《たいらの》平シゲヒラに重傷を負わせた短刀。
それをウシワカは、不思議そうな顔で手に取り、ヒロモトに見せる。
「しばし、お待ちを」
するとヒロモトは、特に詳細を聞くこともなく、眼鏡を上げ直すとクルリと背を向け、陣の奥に戻っていった。
意味の分からないウシワカは、淡い期待と共に、ただそれを呆然と見送るしかなかった。
「ヒザマルを持っていたというのか。確かか?」
「私もデータでしか拝見した事はありませんが……あの短刀の拵は、亡きヨシトモ様所有の『ヒザマル』でした」
「私の妹をかたる者が、そこまで周到に模造品を用意しているとも思えない……よし、会おう」
本陣でヒロモトの報告を受けたヨリトモは、すぐにそう決断した。
「どこも馬の骨とも分からん者と、会うと申されるのか⁉︎」
自身の意見が黙殺されようとしている事に我慢ならない上総ヒロツネが、すかさずそれに噛みついてくるが、
「それが本当に『ヒザマル』なら――この『ヒゲキリ』が何かを教えてくれるだろう」
そう言いながら、ヨリトモは腰に下げた豪奢な造りの太刀を掴むと、それを目の前にかざし、静かにヒロツネを牽制した。
それにヒロツネが不満気な態度ながら口を閉ざすと、
「あと、ウシワカというその女は、自身の母は『トキワ』という者だと申しておりました」
無駄のないテンポでヒロモトが、次の情報を提示する。すると、
「トキワ…………⁉︎」
それに声を上げ絶句したのは――意外な事に、ヨリトモの肩に手をかけ、宙に浮いているツクモ神、マサコであった。
「マサコ……知っているのか?」
「うん……」
ヨリトモの問いに、少し口ごもった後、先の棟梁ヨシトモにも仕えていたマサコは、重い口を開く。
「ごめんね、ヨリトモ。話してなかったんだけど、あなたのお父さんのヨシトモが『ヘイジの乱』で、都にいた時……あなたはカマクラにいたから知らなかっただろうけど、ヨシトモには『女』がいたの。そしてヨシトモが討死する少し前、その女は身籠ってるって言ってた……そいつの名前がトキワよ」
「…………!」
衝撃の事実に一同が言葉を失う中、
「フン! なら、きっとそのウシワカとやらは、どこぞでそのトキワとかいう女の事を知って、ここに来たのに違いない。信じられるものか!」
「ヒザマルの事、そのトキワという女の事、そして鎌田マサキヨ殿の件も、話の整合性はとれています」
認めたくないヒロツネと、与えられたデータを元に冷静に分析を進めるヒロモトが、たて続けに口を開いたが、
「やはり会おう。私が会えば――きっと、すべてがハッキリするはずだ」
ヨリトモが静かにそう呟く事で、すべては決まった。
「お姉ちゃん……?」
ヨリトモの本陣に連れてこられたウシワカが、目の前にいる姉の顔を見て、思わずそう呟いた。
育ての親、鎌田マサキヨから、姉が源氏の棟梁である源ヨリトモだと聞かされてから――早くもその姉との対面の時が訪れた事に、ウシワカは感無量であった。
姉は細身ながら、鍛錬で作り上げたであろうしっかりとした体躯をしており、凛とした瞳に、自分と同じく黒髪を高く結い上げている。
母が違うので、瓜二つとはいかないが、ウシワカは直感で目の前にいる女が、間違いなく自分の姉妹だと確信した。
同時にヨリトモも、ウシワカの端正ながら『武』の色味を帯びた顔立ちと、それでいて十五歳という年齢相応の愛らしさに好感を持ちながら、同じく直感でこの少女に血縁を感じていた。
「ウシワカか――」
「はい、源ウシワカです」
双方が同時に歩み寄り、手を取り合った。その暖かさにウシワカは、感動を超えた衝撃さえ覚えた。
ヨシナカの存在に『源氏』を感じた時も、やはり衝撃を受けたが、今、目の前にいる姉はそれを超越した運命を自分に感じさせている。
この姉のために、この身を捧げよう――その昂ぶる思いをウシワカが言葉にしようとした時、
――ウォーン。
という、何か獣が鳴く様な音があたりに響き渡り、一同はその出どころに耳をすました。
そして、それがヨリトモが腰に佩く太刀と、ウシワカがベルトに差した短刀の共鳴音である事に気付くと、
「ウシワカ。この太刀はな、我らの父ヨシトモのもので『ヒゲキリ』といって、お前が腰に差している短刀――『ヒザマル』とは兄弟剣なのだ」
と、ヨリトモはヒゲキリを胸の前にかざすと、同時にウシワカもヒザマルを合わせる様に胸の前にかざした。
「じゃあ、これも父さんの?」
弾ける笑顔で問いかける妹に――高鳴る共鳴音の中――姉は優しく頷いた。
この瞬間が、はかなくも短い、この姉妹が通じ合えた最高で、最後の時だった。
Act-04 姉妹邂逅 END
NEXT Act-05 無垢なる狂犬
0
あなたにおすすめの小説
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる