神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
94 / 97
第12話:決戦ダンノウラ

Act-16 源平始末

しおりを挟む

 平氏艦隊が壊滅していく。
 カラスを撃墜した後、シャナオウが放った千本の光刃が、ダンノウラの勝敗を決した。

 だが、その勝利の立役者であるみなもとのウシワカもまた、最期の時を迎えようとしていた。

 サウザンドソードを放った瞬間、上半身を吹き飛ばされたシャナオウ。
 そのコクピットにいたウシワカは、自身が打ち落とした光刃に少し遅れるようにして、ダンノウラの海に吸い込まれていった。

 シャナオウもまた、翼を失いゆっくりと墜ちていく。
 その場にはただ一人、ツクモ神ベンケイだけが取り残され、力なく浮遊し続けるだけだった。

 機体に衝撃が加わったその方向に、ベンケイが恐る恐る目を向ける。

「やっぱり……そういう事だったのね」

 わなわなと唇を震わせるツクモ神の目に映ったのは――源氏艦隊の空母上で魔導弓の発射を終えた、那須なすのヨイチが駆る機甲武者キュウベイの姿だった。

「どうして⁉︎ どうしてなのヨイチ⁉︎」

 空母上でも伊勢サブローが、思い人が親友を討ったという信じられない事態に、インカムに向かい絶叫する。

「サブロー、すまない……主命でござる」

 それに返ってきたのは、絞り出す様なヨイチの苦悶の声だった。

「そ、そんな……」

 側にいた常陸坊ひたちぼうカイソンもそれを聞き、膝をつき崩れ落ちる。

 主命――それはすなわち、棟梁ヨリトモの命であった。

 なのでこの事は、すでに既定事項であったのだ。
 その証拠に、この遠征軍を率いる梶原カゲトキ、大江おおえのヒロモト両指揮官も、厳しい表情ながらその態度に動揺は見られなかった。

「ウシワカ……」

 首都キョウト、源氏軍本営ロクハラベースでも、この指令を下した張本人であるヨリトモが、ダンノウラの海に消えた妹の映像に、苦しげな声を上げていた。

「ヨリトモ……」

「大丈夫だ、マサコ」

 あるじを案じ、その肩に手をかけようとするツクモ神マサコに、ヨリトモは険しい目付きながら、落ち着いた声でそう答えた。

 ――最後の未練は、さっきの涙で振り切った。

 ヨリトモは自分に、そう言い聞かせた。
 彼女は決意していたのだ――妹ウシワカの粛清を。

 魔導武者ではなく、『ただの人間たち』の世を、源氏一統のもとに築く。
 数々の葛藤の末、たどり着いた結論に、ウシワカの存在は不要であった。

 これまで通り、おそらくウシワカはヨリトモの統制下には置けないであろう。
 それは肉親の情という問題を差し引いても、あまりにウシワカは天才的であり、特異な存在であるという悲劇でもあった。

 魔導武者がその力で、武をもって世を制す。
 これからの世で、あってはならない事――ウシワカという存在はその象徴であった。

 それが棟梁の肉親であるなら、なおさら許される事ではない。
 だから命を下した。腹心であるカゲトキとヒロモトに、いくさの大勢が決したらその時点でウシワカを討ち取れと。加えて、できる事なら皇女アントクと、平氏首脳を保護する事も。

 源氏一統といっても、その中に朝廷も平氏も包括的に組み込むのが、ヨリトモの構想であった。
 だからヤシマでも、御座船を撃沈させるのではなく、足止めするにとどめた。
 すなわち、もうその時点で那須なすのヨイチにも、ヨリトモの指令は伝わっていたのであった。

 それから紆余曲折の末、粛清の一手は新型機甲武者キュウベイの魔導弓によって完遂された。

「ウシワカ……」

 その言葉が何を意味していたのか、本人でさえ分からなかったが、ダンノウラの海の映像を見つめながら、ヨリトモはもう一度だけそう呟いた。

 
 そしてツクモ神ベンケイは、ウシワカを追ってダンノウラの海中に飛び込んでいた。

 ――こうなる事は予感できていた。

 あれほどウシワカの独断専行に悩まされていたヨリトモが、妹を最前線の先鋒に指名した、突然の方針転換。
 討てたはずの平氏首脳を、まるで見逃すように討ち漏らした、ヤシマでの御座船への攻撃。
 加えてこのダンノウラ戦での、大江おおえのヒロモトの不可解な動き。

 それにベンケイは、ずっと不信感を抱いていた。
 今になって思えば、機甲武者キュウベイも御座船撃沈ではなく、ウシワカを討つためにずっとスタンバイしていたのだ。

 ――救えなかった。分かっていたのに。

 ベンケイは無念の思いを噛みしめながら、ウシワカの身を求め、青の海に涙をにじませた。

 
 その時、同じく無念の思いを噛みしめる少女がいた。
 護衛艦ごとカラスを爆破するという、ウシワカの奇策に敗れたアントク。

 偶然にもその機体は、平氏の御座船となった空母上に墜落し、そこで彼女は千本の光刃と共に落ちていくウシワカの姿を目撃した。

「どうして……どうしてなの……」

 ツクモ神トキタダの胸に抱かれ、涙を流すアントク。
 宿敵ウシワカと源氏を倒し、美しき世を創るという皇女の願いは、ついに果たされなかった。

 どころかその宿敵を、これもまた敵である源氏に討ち取られたという、絶望的に割り切れない現実。

 ――なんのために私は魔導武者となり、戦いに身を投じたのだろうか。

 むせび泣く彼女の運命は、まさに源氏に弄ばれたといっても過言ではなかった。
 
 サウザンドソードの出現と同時に、とっさに魔導シールドを展開したトキタダの機転で、アントクは難を免れたものの、もはやカラスは完全に撃破されており、平氏艦隊も千本の光刃によりそのほどんどが航行不能となっていた。

 対する源氏艦隊はまだ一定数が健在であり、それらが平氏首脳を捕らえるため、静かに前進を始めている。
 それにもはや覚悟を決めたのか、御座船の甲板にたいらのトモモリとその母トキコが出てきた。その後ろには怯えきった態度の平氏棟梁、たいらのムネモリも続いていた。

「こ、降伏だ! 私は都のそばに土地をもらえればそれでよい。その条件でヨリトモと交渉するのだ!」

 そのムネモリが、この期に及んで醜態を晒す。
 平氏の正統といえど、やはりキヨモリの血を受け継いでいないこの男に、この難局を乗り越える事は無理であった。

「お静まりなさい、ムネモリ殿」

 我が子ではない棟梁に、一門の実質的家長であるトキコが背を向けたまま、落ち着いた声でそう告げる。

 そしてトキコは、トキタダに抱かれカラスのコクピットから降りてきたアントクと向き合うと、

「アントク様……おいたわしや。かかる此度の敗戦、平氏一門のおさとしてお詫び申し上げまする」

 と、孫娘でありながら、皇帝タカクラの皇女でもある少女に、そう詫びながら深々と頭を下げた。

「お祖母様……そんな」

 アントクは絶句した。トキコの顔には明らかに死を決意した、静かな覚悟が浮かんでいたからである。

「源氏も、アントク様には手を出しますまい。それにトキタダもいれば、案じる事はございません。私も武人として、見るべきものはすべて見ました。もはや悔いはございません」

 トモモリもトキコの隣に並ぶと、そう言って母と運命を共にする意を示し、静かに微笑んだ。

 貴族ながら武の一門である平氏――それを支えてきた母子が、最後のけじめをつけようとしていた。

 だが――

「トモモリ……あなたはキヨモリの子。すなわちシラカワ帝の孫」

「母上?」

 突然、自身の頬に手を伸ばし、明かしてはならぬ『朝廷と平氏の秘事』を口にする母に、トモモリは驚いた。

「あなたは時が時であれば、皇帝にもなれた男……。それを我が夫キヨモリの思いに従い、一人の将としてこれまで平氏に尽くしてくれたその孝心、忠節……本当に感謝しておりますよ」

 そう語り続ける母に、自害とは別の覚悟を感じたトモモリは言葉を失うが――神の眷属ゆえの神通力か、ツクモ神トキタダはトキコの思いを読み取ると、

「アントクとトモモリは、必ずアタシが守ってみせる」

 そう言いながら進み出て、アントクを胸に抱く逆の腕で、トモモリの肩をがっちりと掴んだ。

「トキタダ……頼みます」

 それに安堵の表情を浮かべると、トキコはサッと身をひるがえし、

「さあムネモリ殿、参りましょう! 波の下にも都はございますぞ」

 と、呆然としたままのムネモリの身を掴むと、一瞬で空母の甲板からダンノウラの海へと身を躍らせた。

「母上ーっ!」

「お祖母様!」

 それを救わんと飛び出そうとするトモモリとアントクを、トキタダの腕が離さない。

 水音を上げ、青き海に沈んでいくトキコとムネモリ。

 ――トキコはすべてを清算したのだ。アントクとトモモリで平氏を再興するために、キヨモリの血統でないムネモリを、その身と共に消し去ってくれたのだ。

 トキタダの腕から伝わってくるトキコの思いを受け、アントクとトモモリが涙にくれる。

 そして御座船が、急速に西へと流れていく。最果ての海を、さらに最果てに。
 それはアントクたちを救いたいというトキコの願いを叶えた、惑星ヒノモトの地神シズカゴゼンによるはからいであった。

 源氏艦隊はその速度についていけず、そのまま御座船を見失ってしまう。
 この瞬間、ヒノモトを席巻した赤の軍団――平氏という一族は滅亡した。



Act-16 源平始末 END

NEXT  Act-17 神造の光となりて
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...