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第12話:決戦ダンノウラ
Act-16 源平始末
しおりを挟む平氏艦隊が壊滅していく。
カラスを撃墜した後、シャナオウが放った千本の光刃が、ダンノウラの勝敗を決した。
だが、その勝利の立役者である源ウシワカもまた、最期の時を迎えようとしていた。
サウザンドソードを放った瞬間、上半身を吹き飛ばされたシャナオウ。
そのコクピットにいたウシワカは、自身が打ち落とした光刃に少し遅れるようにして、ダンノウラの海に吸い込まれていった。
シャナオウもまた、翼を失いゆっくりと墜ちていく。
その場にはただ一人、ツクモ神ベンケイだけが取り残され、力なく浮遊し続けるだけだった。
機体に衝撃が加わったその方向に、ベンケイが恐る恐る目を向ける。
「やっぱり……そういう事だったのね」
わなわなと唇を震わせるツクモ神の目に映ったのは――源氏艦隊の空母上で魔導弓の発射を終えた、那須ヨイチが駆る機甲武者キュウベイの姿だった。
「どうして⁉︎ どうしてなのヨイチ⁉︎」
空母上でも伊勢サブローが、思い人が親友を討ったという信じられない事態に、インカムに向かい絶叫する。
「サブロー、すまない……主命でござる」
それに返ってきたのは、絞り出す様なヨイチの苦悶の声だった。
「そ、そんな……」
側にいた常陸坊カイソンもそれを聞き、膝をつき崩れ落ちる。
主命――それはすなわち、棟梁ヨリトモの命であった。
なのでこの事は、すでに既定事項であったのだ。
その証拠に、この遠征軍を率いる梶原カゲトキ、大江ヒロモト両指揮官も、厳しい表情ながらその態度に動揺は見られなかった。
「ウシワカ……」
首都キョウト、源氏軍本営ロクハラベースでも、この指令を下した張本人であるヨリトモが、ダンノウラの海に消えた妹の映像に、苦しげな声を上げていた。
「ヨリトモ……」
「大丈夫だ、マサコ」
主を案じ、その肩に手をかけようとするツクモ神マサコに、ヨリトモは険しい目付きながら、落ち着いた声でそう答えた。
――最後の未練は、さっきの涙で振り切った。
ヨリトモは自分に、そう言い聞かせた。
彼女は決意していたのだ――妹ウシワカの粛清を。
魔導武者ではなく、『ただの人間たち』の世を、源氏一統のもとに築く。
数々の葛藤の末、たどり着いた結論に、ウシワカの存在は不要であった。
これまで通り、おそらくウシワカはヨリトモの統制下には置けないであろう。
それは肉親の情という問題を差し引いても、あまりにウシワカは天才的であり、特異な存在であるという悲劇でもあった。
魔導武者がその力で、武をもって世を制す。
これからの世で、あってはならない事――ウシワカという存在はその象徴であった。
それが棟梁の肉親であるなら、なおさら許される事ではない。
だから命を下した。腹心であるカゲトキとヒロモトに、戦の大勢が決したらその時点でウシワカを討ち取れと。加えて、できる事なら皇女アントクと、平氏首脳を保護する事も。
源氏一統といっても、その中に朝廷も平氏も包括的に組み込むのが、ヨリトモの構想であった。
だからヤシマでも、御座船を撃沈させるのではなく、足止めするにとどめた。
すなわち、もうその時点で那須ヨイチにも、ヨリトモの指令は伝わっていたのであった。
それから紆余曲折の末、粛清の一手は新型機甲武者キュウベイの魔導弓によって完遂された。
「ウシワカ……」
その言葉が何を意味していたのか、本人でさえ分からなかったが、ダンノウラの海の映像を見つめながら、ヨリトモはもう一度だけそう呟いた。
そしてツクモ神ベンケイは、ウシワカを追ってダンノウラの海中に飛び込んでいた。
――こうなる事は予感できていた。
あれほどウシワカの独断専行に悩まされていたヨリトモが、妹を最前線の先鋒に指名した、突然の方針転換。
討てたはずの平氏首脳を、まるで見逃すように討ち漏らした、ヤシマでの御座船への攻撃。
加えてこのダンノウラ戦での、大江ヒロモトの不可解な動き。
それにベンケイは、ずっと不信感を抱いていた。
今になって思えば、機甲武者キュウベイも御座船撃沈ではなく、ウシワカを討つためにずっとスタンバイしていたのだ。
――救えなかった。分かっていたのに。
ベンケイは無念の思いを噛みしめながら、ウシワカの身を求め、青の海に涙をにじませた。
その時、同じく無念の思いを噛みしめる少女がいた。
護衛艦ごとカラスを爆破するという、ウシワカの奇策に敗れたアントク。
偶然にもその機体は、平氏の御座船となった空母上に墜落し、そこで彼女は千本の光刃と共に落ちていくウシワカの姿を目撃した。
「どうして……どうしてなの……」
ツクモ神トキタダの胸に抱かれ、涙を流すアントク。
宿敵ウシワカと源氏を倒し、美しき世を創るという皇女の願いは、ついに果たされなかった。
どころかその宿敵を、これもまた敵である源氏に討ち取られたという、絶望的に割り切れない現実。
――なんのために私は魔導武者となり、戦いに身を投じたのだろうか。
むせび泣く彼女の運命は、まさに源氏に弄ばれたといっても過言ではなかった。
サウザンドソードの出現と同時に、とっさに魔導シールドを展開したトキタダの機転で、アントクは難を免れたものの、もはやカラスは完全に撃破されており、平氏艦隊も千本の光刃によりそのほどんどが航行不能となっていた。
対する源氏艦隊はまだ一定数が健在であり、それらが平氏首脳を捕らえるため、静かに前進を始めている。
それにもはや覚悟を決めたのか、御座船の甲板に平トモモリとその母トキコが出てきた。その後ろには怯えきった態度の平氏棟梁、平ムネモリも続いていた。
「こ、降伏だ! 私は都のそばに土地をもらえればそれでよい。その条件でヨリトモと交渉するのだ!」
そのムネモリが、この期に及んで醜態を晒す。
平氏の正統といえど、やはりキヨモリの血を受け継いでいないこの男に、この難局を乗り越える事は無理であった。
「お静まりなさい、ムネモリ殿」
我が子ではない棟梁に、一門の実質的家長であるトキコが背を向けたまま、落ち着いた声でそう告げる。
そしてトキコは、トキタダに抱かれカラスのコクピットから降りてきたアントクと向き合うと、
「アントク様……おいたわしや。かかる此度の敗戦、平氏一門の長としてお詫び申し上げまする」
と、孫娘でありながら、皇帝タカクラの皇女でもある少女に、そう詫びながら深々と頭を下げた。
「お祖母様……そんな」
アントクは絶句した。トキコの顔には明らかに死を決意した、静かな覚悟が浮かんでいたからである。
「源氏も、アントク様には手を出しますまい。それにトキタダもいれば、案じる事はございません。私も武人として、見るべきものはすべて見ました。もはや悔いはございません」
トモモリもトキコの隣に並ぶと、そう言って母と運命を共にする意を示し、静かに微笑んだ。
貴族ながら武の一門である平氏――それを支えてきた母子が、最後のけじめをつけようとしていた。
だが――
「トモモリ……あなたはキヨモリの子。すなわちシラカワ帝の孫」
「母上?」
突然、自身の頬に手を伸ばし、明かしてはならぬ『朝廷と平氏の秘事』を口にする母に、トモモリは驚いた。
「あなたは時が時であれば、皇帝にもなれた男……。それを我が夫キヨモリの思いに従い、一人の将としてこれまで平氏に尽くしてくれたその孝心、忠節……本当に感謝しておりますよ」
そう語り続ける母に、自害とは別の覚悟を感じたトモモリは言葉を失うが――神の眷属ゆえの神通力か、ツクモ神トキタダはトキコの思いを読み取ると、
「アントクとトモモリは、必ずアタシが守ってみせる」
そう言いながら進み出て、アントクを胸に抱く逆の腕で、トモモリの肩をがっちりと掴んだ。
「トキタダ……頼みます」
それに安堵の表情を浮かべると、トキコはサッと身をひるがえし、
「さあムネモリ殿、参りましょう! 波の下にも都はございますぞ」
と、呆然としたままのムネモリの身を掴むと、一瞬で空母の甲板からダンノウラの海へと身を躍らせた。
「母上ーっ!」
「お祖母様!」
それを救わんと飛び出そうとするトモモリとアントクを、トキタダの腕が離さない。
水音を上げ、青き海に沈んでいくトキコとムネモリ。
――トキコはすべてを清算したのだ。アントクとトモモリで平氏を再興するために、キヨモリの血統でないムネモリを、その身と共に消し去ってくれたのだ。
トキタダの腕から伝わってくるトキコの思いを受け、アントクとトモモリが涙にくれる。
そして御座船が、急速に西へと流れていく。最果ての海を、さらに最果てに。
それはアントクたちを救いたいというトキコの願いを叶えた、惑星ヒノモトの地神シズカゴゼンによるはからいであった。
源氏艦隊はその速度についていけず、そのまま御座船を見失ってしまう。
この瞬間、ヒノモトを席巻した赤の軍団――平氏という一族は滅亡した。
Act-16 源平始末 END
NEXT Act-17 神造の光となりて
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