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第12話:決戦ダンノウラ
Act-17 神造の光となりて【イラスト有り】
しおりを挟む「ウシワカ、どこ⁉︎ どこなの⁉︎」
ダンノウラの海中に、ツクモ神ベンケイの叫びが響き渡る。
サウザンドソードを打ち、すべての魔導力を使い果たした直後、キュウベイによる魔導弓の不意打ちを食らい、海に落とされたウシワカ。
姉ヨリトモによる粛清を予感しながら、それをみすみす討たれてしまった悔しさを胸に、ベンケイは波の下をさまよっていた。
落下地点から予測した、おおよその範囲はすべて捜し尽くした。
それなのにウシワカの姿は、どこにも見当たらない。
ダンノウラは潮の流れが激しい。その急流で遥か彼方まで流されたのなら、捜索はもはや絶望的であった。
「助けて……誰か、ウシワカを助けて!」
万策尽きたベンケイが、慟哭と共に絶叫する。
次の瞬間、それに応える様に、海中に鈍い光が灯った。
「――――⁉︎」
その光が近付いてくる。ベンケイが目を凝らすと、それは紫色の美しい紐であった。
「……ヨシトモなの⁉︎」
それがウシワカの髪に結われた、父の遺品である事に気付いたベンケイが声を上げる。
すると、ヨシトモの残留思念が宿った『紫の髪結い紐』は、いっそう強い光を放ちながら、ベンケイを導く様に反転を始めた。
「いるのね、ウシワカが!」
ヨシトモの意思を読み取ったベンケイが、その後に続いていく。
青き海を深海へと進む中――ベンケイは様々なものを見た。
粉砕され沈んでいく戦艦。主を失いただの鉄塊と化した機甲武者。
そして命果てる時を迎え、大地の霊脈に還るべく、光の砂になっていく源平の人間たち。
その中には、平氏棟梁ムネモリを道連れに入水した、平トキコの姿もあった。
まさに諸行無常。その思いを噛み締めるベンケイの目がついに、捜し求めていた少女の姿を捉えた。
「ウシワカ!」
叫びながら手を伸ばし、その体を抱きしめる。
だが、もはやそこに生気はなく、息もしていなかった。
「そんな……そんな……」
絶望がベンケイの五体を駆け巡る。そのまま二人は、海の底まで沈んでいった。
「ウシワカ……」
青き大地で、ウシワカの体を抱きしめたままベンケイは思う。
(この子は誰よりも純粋だっただけ)
戦陣の中、重ねてきた数々の非道。
それに多くの者が眉をひそめても、ベンケイにはウシワカの心が分かっていた。
――戦争は綺麗事ではない。それなら最小の犠牲でもって、最大の結果を出す。
ただ純粋にそれだけだっだ。
その先に平和を――『皆が笑顔で暮らせる世の中』を夢見る心は、ウシワカも同じだったのだ。
(なのに……その報いが、こんな結末だなんて!)
やりきれない怒りと共に、ベンケイは決意する。
(この子は、絶対に死なせない――私の命にかえても!)
重ねた頬を離すと、ベンケイはウシワカの頭を抱え、今度はその唇を重ね合わせた。
ツクモ神から、人間に流れ込んでいく神気。
それにより、死して大地の霊脈へと還るため、砂状に崩れ始めようとしていたウシワカの体は、その進行がピタリと止まった。
だがそれは、神が人の世界に介入してはならないという、『人の時代』の禁を著しく破る行為。
いつの間にか傍らには、惑星ヒノモトの地神シズカゴゼンが、その光景を複雑な目で見つめていた。
自身が神器の鍵として生み出した、ツクモ神が禁を犯している。それを処断するべきか、シズカは思い悩んでいた。
――タマモノマエを討つため示唆した、果たすべき『人間の決着』。
結局それはツクモ神たちが、神器を神造兵器として用いた事により、この結末となってしまった。
だがシズカは思う。これも人間の意思ではないのかと。
三人のツクモ神は、不器用ながらも懸命に生きるシズカの子供たち――人間の思いに、これもまた懸命に寄り添っただけではないのかと。
シズカがそう思い定めた瞬間、ウシワカとベンケイの横たわる海底が、薄緑の光を放った。
それに呼び起こされる様に、目を覚ますウシワカ。
「ベン……ケイ」
「ウシワカ……!」
おぼろげな意識で自分の名を呼ぶウシワカに、ベンケイは重ねた唇を離し、涙に濡れたぐしゃぐしゃの笑顔でそれに答えた。
その光景を見つめるシズカが呟く。
「ヨシツネ……あなたも、この子を助けたいのね」
一千年前の天使大乱で『神の時代』を終わらせ、妻であるシズカと共に惑星ヒノモトの霊脈として眠る、太祖の天使ヨシツネ。
その意思が、ウシワカとベンケイを包み込む。
そして球体となった薄緑の光は、二人をその中に抱えたまま、ダンノウラの海底から一気に上空まで飛び出した。
「な、なんだあれは⁉︎」
戦場にいる生き残った将兵たちが、一斉に声を上げる。
天空に伸びた一条の光は、その動きを止めた時、薄緑の輝きを放つ機甲武者となっていた。
「シャナオウ……? いや、あれはオリジナル⁉︎ まさか――太祖の天使ヨシツネ⁉︎」
皆が呆然とする中、その正体に気付いた大江ヒロモトが、息を呑みながら呟く。
確かに全長八メートルのフォルムは機甲武者と同じであったが、外装に機械的な要素は一切ないその姿は、今や太古の遺物となった天使の魔導鎧そのままであった。
「ウシワカ!」
「ベンケイさん!」
続いて、サブローとカイソンが空に向かって声を放つ。それは通じ合う心が呼び起こした、魂の叫びであった。
「あの中に……そんな事が……」
「あれは……神造のヨシツネ」
梶原カゲトキの呻きに合わせ、ヒロモトは兵器を超越したその存在の核心に言及する。
そしてヨシツネを形取った神造の光は、その背に伸びた天使の翼を羽ばたかせると、東の空に向かって高速で飛び去っていった。
同時刻、惑星ヒノモトの大陸北方でも、この異変に気付いた者がいた。
「母上、星詠みの観測官が――」
「分かっておる、ヤスヒラ。西方に……神像の光が出現したのであろう」
居室に駆け込んできた少女の言葉を遮り、老獪な笑みを浮かべた淑女がそう言った。
女の名は――藤原ヒデヒラ。この先、滅亡した平氏に代わり、ヒノモトの覇権をめぐる第三勢力として跋扈する、オウシュウ藤原氏の女棟梁であった。
「ようやく我らの出番が来たか。タマモづれなんぞが皇帝とは片腹痛い」
妖しい目でそう言い放つヒデヒラの気迫に、実直な性格のヤスヒラは思わずたじろいでしまう。
それに構わず、いやむしろ、それを嬲る様な口調で、
「このオウシュウ、黄金の都ヒライズミこそが新たなる朝廷! そして我らは新たなる帝と共に――打って出るぞ!」
と、ヒデヒラが決起を宣言した瞬間――大陸北方の山岳地帯オウシュウに隠されていた、魔導結界に覆われた一大都市は、天空に向けまばゆい金色の光を放った。
そして首都キョウト、ヘイアン宮皇帝御座所でも、ゴトバ帝ことタマモノマエが、源平決着後に起きた、この『神造の光』の出現に戸惑いを見せていた。
「おのれシズカゴゼン……いやヨシツネ! 霊脈に成り果てながらも、妾を討たんと欲しおるか!」
共倒れの様相となった源平を嘲笑した、その顔が今は憤怒に歪んでいる。
東へ進路を取った薄緑の光が、自分を目指している事は明白だった。
天使の飛行能力。しかも天使騒乱を制したヨシツネの速さなら、その到達は間もなくであろう。
「だが妾には、このヘイアン宮の魔導結界がある。まだ完全に力を取り戻せておらぬ妾でも、霊脈ごときなら弾き返してくれるわ!」
天使直系の子孫である皇帝の御所ヘイアン宮は、対魔導兵器への防御結界を十重二十重に張り巡らしている。
その内側から、天使であるタマモが神通力を駆使すれば、もはやその防御は完璧といえた。
狐の耳と九本の尾から妖気を放ち、万全の構えを取るタマモ。
――万事休すか。
摂政として玉座の傍らに控えるシンゼイも、このタマモにとって有利すぎる状況に、思わず目を伏せるが、
「――――!」
その玉座の真上に起こった変化に気付くと、顔を上げ歓喜の表情を浮かべた。
「――⁉︎ な、なぜ魔導結界が消えていくのだ⁉︎」
続けてタマモも、自身の身に降りかかる変事に声を上げる。
天使の神通力を得て鉄壁と化すはずの、魔導結界がその力を失っていたのだ。
「もしや……トキワ、貴様かーっ!」
ようやくタマモも、その原因に気付く。
それは、玉座の上に彫像の如く埋め込まれた先帝ゴシラカワ――すなわちタマモの娘であり、ウシワカの母である、トキワの魔導力が起こした反撃の一手であった。
かつてタマモは封印された身ながら、ヘイアン宮の魔導結界を停止させ、木曽軍を御所に乱入させるという奇策でゴシラカワを危機に陥れた。
だがまさか今、封印した娘に同じ手で窮地に追い込まれようとは、タマモでさえ予想だにしていなかった。
そして、ついに迫り来る『神像の光』。
「ヨシツネーっ! いや……ウシワカとツクモ神かーっ⁉︎」
光の中に、手を取り合う二人の姿を見たタマモが絶叫する。
(ウシワカ、ベンケイ!)
「母さん!」
「トキワ!」
タマモノマエの体を光が貫いた瞬間――トキワ、そしてウシワカとベンケイは短い言葉を交わした。
ヘイアン宮を駆け抜けた、薄緑の光。
それは再び天空まで駆け上がると、そのまま北の大地を目指し彼方へと消えていった。
Act-17 神造の光となりて END
NEXT エピローグ&プロローグ:祇園精舎の鐘の声
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