二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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紫薔薇騎士 ランドルフ

断るのも勇気

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 翌朝。カールとの朝食が終わると、約束通りランドルフが迎えに来た。カールが「俺も付いて行く」とランドルフに言うも、「お前は邪魔だ」とヴェンデルガルトの腕を掴んで、足早に部屋を出て行った。

「ランドルフ様、ランドルフ様、腕が痛いです」
 何度か名前を呼んでも返事のない彼に、ヴェンデルガルトは立ち止まり強く腕を引いた。それにはっと我に返ったようなランドルフは、「すまねぇ」と力を緩めたがヴェンデルガルトの腕を掴む手は離さなかった。
 ヴェンデルガルトは、昨日からランドルフの様子がおかしい事に気付いていて、それがギルベルトの目に関係していると感じていた。しかしカールの言葉を遮った時の事を思い出すと、その理由は話したくないという事が分かる。これは無理に聞いても絶対に理由を話さないだろうとヴェンデルガルトは理解していたので、彼が話す気になるまで黙っている事にした。
 隣を歩くランドルフを時折見上げながら、ヴェンデルガルトは小さくため息を零した。大半の女性がときめくだろう綺麗な顔で、背も高い。自信にあふれているが、少し自分勝手な所があるがこの皇国の第二皇子だ。独身であるなら、同じく独身である女性達から人気のある男性だろう。銀髪に濃い紫の瞳は紫薔薇騎士団らしく、また高貴な彼に似合っていた。

「さて」
 ようやくヴェンデルガルトの歩みに合わせて歩いていたランドルフは、ギルベルトの執務室らしい部屋の前で立ち止まるとその部屋のドアをノックした。
「ギルベルト、ランドルフだ。少し時間が欲しい」
「ランドルフ? どうぞ、開いています」
 中から聞こえる知らない声に興味を持つが、ランドルフはヴェンデルガルトに「少しここで待っていろ」と命じて部屋の中に一人で入って行った。
 取り残されたヴェンデルガルトは、古龍に貰った石の付いたネックレスをぎゅっと握った。治せるだろうか――出来れば治したい、と考えていた。いくら目が見えず執務をこなしていると言えど、不便である事は間違いない。彼が騎士団を任されているのも、驚くべき事だ。もしかしたら、ランドルフが口添えしたのかもしれない。

「――この石頭!」
 次の瞬間、部屋の中から大きな声が聞こえた。そうして足音を立ててドアまで来るとそのドアが大きく開かれて、中から怒った顔のランドルフが出てきた。状況が分からないヴェンデルガルトは、身体を強張らせた。強く開けられたドアが勢いで閉まろうとする。その部屋の中には両眼を包帯で隠した、腰辺りまである長い銀色の髪の線の細い男性が居るのが少し見えた。
「ランドルフ!」
 ドアが閉まり、彼は返事をしなかった。多分、理由は分からないがギルベルトは治癒魔法を断ったのだろう。怒るランドルフに身体を強張らせたままのヴェンデルガルトだったが、その瞳が酷く悲しそうなのに気が付いた。悲しくて――怒っているのだ。

「ランドルフ様」
 優しい声音で、ヴェンデルガルトは彼に声をかけた。名を呼ばれ、ランドルフは怒りを収めようと無意識に唇を噛みながら、ヴェンデルガルトを見下ろした。

「ギルベルト様の事と治癒魔法の事で、少しお話しませんか?」
「――分かった。俺の執務室に行こう」
 素直に了解すると、彼は先に歩き出して自分の執務室に向かった。ヴェンデルガルトは黙ったまま、その彼の後に付いて行った。

 メイドがお茶を運んできて部屋を出ると、僅かに二人は黙り込んだ。
「――治る可能性はあるんだろ?」
 先に口を開いたのは、ランドルフだ。
「勿論です。ですが、ランドルフ様――治癒魔法を断るのも、勇気がいるのですよ? ギルベルト様のお気持ちを、少し理解して下さい」
「断る……勇気、だと?」
 理解出来ない、と言う表情を浮かべてランドルフはヴェンデルガルトを見返した。
 か弱そうに思っていたヴェンデルガルトの金の瞳は、どこか芯が強そうな光で輝いていた。
「治るかもしれないけれど――もし最後の希望である治癒魔法で治らなかった時の、絶望……自分だけであるなら耐えられるかもしれませんが、もし自分を心配している人にとっての絶望にもなるかもしれません。ですから、可能性を最初から捨てて断る勇気、です」
「ギルベルトが、俺に対して――俺が絶望しないために、断ったというのか?」
 ランドルフは、紫の瞳でヴェンデルガルトを強く見た。彼女は、負けることなくその視線を受け止めて頷いた。

「あいつは昔からそうだ――人の事ばかり心配をする。確かに、ギルベルトは俺に気を遣っているかもしれねぇ。あいつが高熱を出したのは、俺のせいだからな。俺のせいであいつは熱を出して、高熱が続いて目が見えなくなった」
 ヴェンデルガルトは、少し驚いた顔をした。ランドルフはゆっくり立ち上がると、ソファに座るヴェンデルガルトの横に座り直して、華奢な彼女をぎゅっと強く抱き締めた。

「俺のせいなんだ――」
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