二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
46 / 125
南の国の戦

ビルギットの想いとランドルフの危機

しおりを挟む
「……私も、父が戦争で亡くなりました。苦労して育ててくれた母に、恩返ししたくて仕事を頑張っています」
 あふれる涙を掌で拭いながら、カリーナはそう言った。
「西の国と、大きな戦があったんです。騎士や兵士では足りず、民間人からも沢山兵を募りました。俺はその頃東の国にいて、傭兵募集に父が申込み戦に参加して爵位も何とか頂けました」
 ヴェンデルガルトが眠る前、戦争はなかった。他国とのもめ事はあったが、戦争までなかったのは――古龍がいたからだろう。
 ヴェンデルガルトがハンカチでカリーナの涙を拭き、落ち着けさせるように背中を撫でた。騎士団の年齢層が若い理由が、分かった気がする。

「お茶のお替りを持ってきます」
 泣いた顔が恥ずかしいのか、カリーナがポットを持って部屋を出て行った。話しの最中も、ビルギットはじっとロルフを見つめていた。感情的ではないヴェンデルガルトは落ち着いてロルフを見て、やはりルーカスではないと分かる。しかし恋したまま離れたビルギットは、どうしてもルーカスと思いたいのだろう。
 古龍と出会いたいと思っている自分の姿と重なり、ヴェンデルガルトはビルギットの想いを理解して見守る事にした。
「ロルフは、東の国で育ったの? お父様が十年前の戦争でこちらに来たと聞きましたが」
 ビルギットの為にも、ロルフの話を聞こうと彼に話を振った。ロルフは頬張ったクッキーを食べ終わってお茶をひと口飲んでから、ヴェンデルガルトに視線を向けた。
「俺は東の国と言っても、レーヴェニヒ王国のような大きな国ではなく、少し離れた小さな国で育ちました。貴族と言っても貧しい男爵家で、それなら母の実家の方を頼ろうとこの国に来ました。俺も成人して騎士の試験に受かり、何とか家への仕送りも出来て助かってます」
 十年前の戦で爵位を貰っても、ロルフは東の国から来た身で土地なども満足に与えられなかったのだろう。
「苦労したのですね。でも、あなたの頑張りは神が見ていますわ」
「そうだと嬉しいです」
 ロルフはにっこりと笑い、再びお茶を口にした。自然に接すると言ったものの、ビルギットの視線を真っ直ぐに受けて、動揺しているようだ。

「大変です!」
 お茶のお替りの入ったポットを手に、カリーナが慌てて部屋に入って来た。
「ギルベルト様とランドルフ様はあともう少しで我が国に到着されるそうですが――国を出る際、何者かに襲われてランドルフ様が大怪我を追われたそうです!」
「まあ、大変!」
 ヴェンデルガルトは口元を手で覆って、立ち上がった。ロルフも驚いた顔をしている。
「何とか急いでこちらに戻っているようで、先程の白薔薇騎士の様に知らせの馬が先に到着しました。今、赤薔薇騎士団と黄薔薇騎士団、青薔薇騎士団の方が話し合をされているそうです――城内が、今この話でもちきりです」
 ヴェンデルガルトは、大怪我をしたというランドルフの事が心配で、カリーナに訊ねた。
「ジークハルト様たちは、何処で話しているのかしら?」
「多分、ジークハルト様の執務室だと思います」
 その言葉を聞くと、慌ててヴェンデルガルトは部屋を飛び出した。ロルフが慌ててヴェンデルガルトの後を追いかけていく。
「ヴェンデルガルト様、部屋にお戻りください!」
「駄目よ、私も話を聞くわ。ランドルフ様を見捨てる事なんて出来ないわ!」

 ジークハルト様の執務室に来ると、カールやイザークがびっくりした顔でヴェンデルガルトを見つめている。
「ヴェー、今は少し大変な話し合いなんだ。部屋でゆっくりしててくれないかな?」
 イザークはそう声をかけるが、ヴェンデルガルトは黙ったままヴェンデルガルトを見つめるジークハルトを見返した。
「私、ランドルフ様を助けに行きます!」
「ヴェンデル、駄目だよ。危ない」
 カールがヴェンデルガルトの肩を抱いて止めるが、ヴェンデルガルトは首を振った。
「駄目だ、ヴェンデルガルト嬢。追手が来ているかもしれない。君をそんな危険な所に向かわせる事は出来ない」
 ジークハルトがはっきりそう言うが、ヴェンデルガルトは引き下がらなかった。
「ランドルフ様に何かあっては、国の一大事です! 私なら、助ける事が出来ます。絶対に、助けます!」
 聞いた事が無い、ヴェンデルガルトの強い声だった。更にそれは正論で、みんな何も言えなくなる。皇子であるランドルフが命を落とす事になれば、三国間の戦争にバルシュミーデ皇国も敵討ちという名で参戦せざるを得ない。

「――騎士団や軍の装備で行っては、大事になるかもしれない。すぐに、貿易の旅団に扮したものを用意しろ。それで、ヴェンデルガルト嬢をランドルフの元に送る」
 ジークハルトの言葉に、カールとイザークが驚いた顔になる。
「そんな危険な事、反対だよ!」
「ジークハルト、正気なの!?」

「俺は――ヴェンデルガルト嬢を信じる。彼女しか、ランドルフを助けられない」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...