二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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南の国の戦

騎士団の名誉にかけて!

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「だから、あんな悪女は要らないと申したんです。攫われたのなら、もう放っておけばよろしいのでは?」
 扇子で口元を隠しながら、フロレンツィアは嫌味がこもった言葉を吐く。ジークハルトは、イライラとしたように書き損じた紙を破り捨てた。

「ヴェンデルガルト嬢は、君の様に俺の仕事を邪魔しないし労わってくれる。優しく心の綺麗な女性だ。彼女を助けるのに不満があるというのか?」
「まあ! まるで、私がジークハルト様にとって余計な存在の様なお言葉ですね。私はあなたの婚約者ですのよ? 昔の姫かもしれませんが、今は私と変わらない爵位。どちらを大切にすべきか、父も忠告したはずだと思います」
 レーヴェニヒ王国の使者の歓迎の宴で、五人の騎士たちはフロレンツィアの父であるラムブレヒト公爵が彼らに近付こうとするのを、ずっと妨害していた。彼にとって有利になる情報――主にヴェンデルガルトの事を聞かせない為に。バーチュ王国の歓迎の際、彼が第三王子のアロイスにヴェンデルガルトの事を漏らしたため、誘拐されてしまったのだ。彼らに近付けないと分かると、ジークハルトに「攫われた公爵嬢を助けに行くなど、我が国にとって何の利益にもならない。あなたは、私の娘を可愛がって下さればいいのです」などと、戯言を耳元で囁いた。

「出て言ってくれ」
「はい?」
「出て行くように言ったんだ! 俺の執務室に、用がない限り今後は勝手に入って来ないでくれ!」
 ジークハルトらしからぬ荒げた声音で、フロレンツィアに怒鳴った。呆気にとられた顔をしていたフロレンツィアだったが、次第に赤い顔をして怒鳴り返した。
わたくしは、あなたの婚約者ですのよ!?」
「だからどうしたというのだ。仕事の邪魔をするのが、婚約者の役目なのか!? 暫く君の顔は見たくない。家に帰ってくれ」
 そう言うと、怯えているフロレンツィアのメイドにジークハルトは声をかけた。
「すまないが、今後フロレンツィアは俺の執務室に入れないようにする。彼女を連れて、公爵家に帰ってくれないか?」
 ガクガクと震えながら、メイドはフロレンツィアの腕を取る。「離しなさいよ!」と金切り声を上げるが、メイドは第一王子であるジークハルトの方が怖かったらしい。無理やり彼女を連れて、部屋を出て行った。

「相変わらず、うるせぇ女だな」
 再びドアが開くと、ランドルフが呆れたようにぼやいた。その後ろには、カールとイザーク、ギルベルトもいた。五人の薔薇騎士団がようやく揃った。
「レーヴェニヒ王国の使者たちは落ち合う場所まで、先に発ちました。こちらも用意は出来ています」
 ギルベルトはそう言うと、地図を広げた。ここから、二日ほどの距離の荒野だ。そこで、一緒にヘンライン王国に向かうのだ。しかし地理的に、バーチュ王国とアンゲラー王国より南のヘンライン王国にどうやって向かうのだろうか。
「一陣と二陣に兵を分けろ、という意味も良く分からないな」
 カールが首を傾げる。誰かに盗み聞きされるのを警戒したのか、右の大臣は公主の手紙とは別の紙を下に忍ばせてジークハルトに渡した。『もしヘンライン王国を助けるのであれば、この紙の指示に従って欲しい』と書かれていたのだ。この紙は、五薔薇騎士団長しか見ていない。
 五人は話し合って、ジークハルト、カール、イザークが出兵する事になった。ジークハルトが行く事は極秘で、フロレンツィアを部屋に入れないようにしたのもジークハルトが不在である事を隠す為でもあった。
 旅から帰ったばかりで負傷したランドルフとギルベルトには、国で休んで欲しいとジークハルトが申し出たのだ。二人は一緒に行くと言ったが、国の護りが心配だ。仕方なく、彼らは国を護る事を了承した。
 手紙には、『バーチュ王国もヘンライン王国側に付くように手を回す』と書かれていた。本来バーチュ王国と戦うのが目的だったが、平和的に話し合いヴェンデルガルトを返してくれるなら、余計な争いは避けられるかもしれない。
 一陣は、ジークハルトと赤薔薇団の精鋭十名。黄薔薇と青薔薇から五名ずつ。二陣は、カールとイザーク、残りの騎士団だ。
「本当に、一人で大丈夫なのか?」
 ランドルフは、一人で一陣になったジークハルトを心配した。
「ヴェンデルガルト嬢も、見知らぬ土地で一人だ。俺の事は気にするな」
「ジークハルト」
 ギルベルトは、思い詰めた顔をしていた。責任感が強く、優しい彼の気持ちは分かっていた。
「心配するな。騎士の名誉にかけて、聖女ヴェンデルガルト嬢を助けに行く。勿論無事で、な」
「よろしくお願いします」
「では、夜中に発つ。万が一の事があれば、赤薔薇団はランドルフが指揮してくれ。黄薔薇騎士団と青薔薇騎士団は、ギルベルトに。副団長には、話してある。国を守ってくれ」
 五人は敬礼して、お互いの無事を願った。そうして、ジークハルトの執務室を出て行った。
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